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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第三章 蒼月
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03-08.謁見の間

いつもお読みいただきありがとうございます。

 「緊張するだろうが、気楽に話してくれ。」


 冒険者ギルド本部のギルドマスター、アーヴィンは気持ちの良い笑顔でエル達に微笑みかける。エル達がワックルトの冒険者ギルドの紹介で、馬車を作ってくれる店を回っている所から説明を始めた。家具屋でロタールの取り巻きに見つかった事を含め、自分達の行動、そして揉め事になった時に話した事、相手に対して行った行為も全て事細かに話した。


 アーヴィンを含め、ギルド職員は話を聞きながら時に詳しく聞きたい時には質問をして、一人の職員がずっとメモを取っていた。

 そしてワックルトの冒険者ギルドで行った聞き取り内容に間違いが無いか、いくつか質問されてそれに答える形で確認が取られた。サームとレオにもいくつか質問が飛び、全ての聞き取りが終わるとアーヴィンは腕を組み目を閉じて考え始めた。


 少しの間、緊張が高まった。しかし、その後目を開けたアーヴィンが話した言葉でエル達の緊張は吹き飛ぶ事になる。


 「ここまで来てくれて助かった。申し訳ないが、さすがに貴族一族と問題を起こした場合はギルド本部が聞き取りを行うのが決まりでな。」


 髪の毛をガシガシと掻きながら面倒臭そうに話すアーヴィン。


 「王都にいる口喧しい貴族達からも厳重に調査しろと五月蠅くてな。申し訳ないが形だけでも聞き取りを行わなければならんかったのだ。」

 「では、エル達は問題ないと考えて良いのかな?」


 サームの問いにアーヴィンは礼をしながら「問題ありません」と答える。


 「恐らく多少の横槍は入るでしょうが、結局は独立組織である冒険者ギルドに貴族が出来る事は限られとります。しかも相手は辺境都市で銅ランクの子供。そんな冒険者に躍起になって妨害行為なんてしてたら貴族の方が笑われちまいます。」

 「ふむ....と言う事は、アーヴィン殿の中ではある程度貴族の当たりは付いていると言う事かの?」

 「はい。サーム様、やはりハールトン家を含んだ古道派の貴族による、まぁ、嫌がらせ程度の横槍ですな。」


 ハールトン家。サームに恨みを持つワックルトの薬師ギルドマスター、ワゴシ・ハールトンの一族。父のイェルコ・ハールトンはサームが王政に関わっていた時には、良き理解者となりサームが発言しやすいように色々と貴族間で働きかけをしてくれた人物だった。

 しかし、息子のワゴシはその父の見方を変えれば贔屓にも取れた行動が許せなかった。自分の事よりもサームを優先させた事への八つ当たりのようなモノだ。普通に考えればまだ何者でもない息子と、王政に関り努力している市井の傑物を比べれば、どちらに力を注げば王国の為になるかは考え無くとも分かりそうなものだが、ワゴシにはそれに気付けるだけの器量は無かった。


 何かにつけてサームの邪魔をしようとしていたワゴシを事ある毎に諫め注意してきたが、サームが王政から離れた事で落ち着くかに思われた。しかし、ワゴシはその成功体験に味を占め、自分の周りの様々な貴族や有能な者に対して、その者の活動の妨害などをするようになった。

 さすがに王政からもイェルコに対して厳重注意が出され、ワゴシをミラ州にあった薬師ギルド本部に半ば押し込める形で王政・王都から離した。しかし、その判断がサームにとっては更なる悲劇となった。イェルコもまさかサームが幻霧の森で暮らしている等と思いもしなかっただろう。その後、サームは事ある毎に薬師ギルドから調薬した物の流通等で妨害を受ける羽目になった。


 「やはりか。何とも....」

 「しかしこれでエル達の嫌疑無しとギルドとしては発表出来ます。エル、リック、ルチア。ワックルトに戻ったら今まで通りしっかりと冒険者として頑張ってくれ。迷惑をかけたな。ワックルトを守ってくれてありがとう。」


 その言葉に3人は深く礼をし、大きく息を吐き出した。それほどまでに自分達の今後が不安だった。しかし、周りの皆はそれを見て大笑いしていた。やはりそれほど心配するような事でも無かったのだろうか。


 「銅ランクで貴族と揉め事を起こし、王都に呼び出しがかかったとなって緊張するなと言うのが無理な話だな。まぁ、周りで助けてくれている全ての方に感謝する事だ。」


 アーヴィンは「ワッハッハ」と楽し気に笑いながら、エル達を気遣う。そして職員達に目配せをし、全員が席を立ちエル達一行へ深々と礼をする。


 「王都までの道のり、誠にご苦労様でした。これにて聞き取り調査は終了とさせていただきます。今後、今回の件でエル、リック、ルチアへの追加の聞き取りや、調査結果に伴う罰則等は無いとギルド本部の名でお誓いします。では、お帰りいただいて結構です。」


 サーム達はアーヴィンに礼を言い退室する。ギルドを出ると、外の通りに馬車が三台構えられていた。馬車を取り囲むように城門で見かけた衛兵とはまた違う鎧の兵士たちが守っている。

 その中の一人がサームへと近付き挨拶をする。


 「サーム・キミア様。ロンダリア近衛隊の隊長を務めますアーモット・シェーバーと申します。皆さまを王城までご案内するよう陛下より仰せつかりました。どうぞ、お乗りください。」

 「アーモット殿。わざわざご苦労。陛下のお気遣いに感謝しお借りしよう。」


 それぞれに馬車に乗り込むとゆっくり走り始める。エル達の馬車にはジュリアが同席してくれた。緊張した様子の3人に柔らかな雰囲気で話しかけてくれて、陛下の前での礼儀作法を少し教えてくれた。また、王城に着けば陛下に謁見出来るまでの時間があり、その間に最低限失礼にならない程度に儀礼作法は教えて貰えるようだ。


 「あっ、3人とも。あれが王城のロンダリア城ですよ。」


 そう言われて3人が馬車の窓から進行方向を見ると、王城の天辺を見るのに首が痛くなりそうな程の巨大な城が見えていた。王城前の門にも衛兵はいたが、馬車は減速する事無くそのまま城内へと入っていく。そして迎賓用の部屋へと通された一行はそこで準備が整うまで待機する事になった。

 その部屋はとても大きく、そして豪華だった。ジュリアが教えてくれたが、この部屋は国外の貴族や王族、または国の権力者などを迎える時に休んでいただく為の部屋らしく、本来は自国の貴族が謁見に来た時には使われない部屋なのだそうだ。


 ダン達とサームの会話を聞いていても、この部屋が使われている意味がやはり『サームを王政に復帰させる』為に最上級の持て成しで迎え入れられているのだろうと話していた。その横でエル達3人はジュリアと一行の接待を任されている担当者から、付け焼刃にはなるが謁見時の作法を習っていた。思いの外、3人とも筋は良いと褒められ一通りの流れはすぐに覚える事が出来た。接待担当者からも恐らく陛下からお言葉を賜る事は無いだろうから、片膝を付いた臣下の礼のままジュリアが合図してくれるまでは陛下の足元を見るか、床を見ていればすぐに謁見は終了しますよと優しく教えてもらえた。


 すると部屋をノックする音が聞こえ、中へと男性が一人入って来た。サルナーン・ルブルトン、この国の宰相であり、オーレルの弟子でもある。サルナーンは笑顔で一行に礼をすると、サームとオーレル以外の者は臣下の礼を取る。慌ててエル達もそれに倣った。すると、サルナーンは慌てた様子で話しかける。


 「いやいや、私に臣下の礼は不要です。どうかお立ち下さい。ワックルトの混乱を治めてくれた皆様にその様な態度を取られては私が恐縮してしまいます。サーム様、お久しぶりでございます。長らくの無沙汰をお許しください。」

 「何を言う。サルナーンもついに宰相か。この国は更に安定し強みを増すのぉ。体に気を付けて勤められよ。」

 「ありがとうございます。この度は急なお呼び出しとなってしまい、誠に申し訳ありません。冒険者ギルド本部への聞き取りで王都へ同行されると言う情報が入った途端に陛下が王城へと言い出しまして。」


 サルナーンは困惑した様子で事情を説明する。サーム達は貴族からの提案かと思ったが、まさかの陛下の独断であったのには驚いた。その後サームは今回の謁見の内容を聞き出そうとしたが、それはサルナーンも聞いていないと言う事だった。しかし、


 「これは私の勝手な推論なのですが、恐らくサーム様達がお考えの通り陛下はサーム様に王政への復帰を望まれていらっしゃるのだと思います。あの時の事が陛下の中ではずっと心の中で後悔と罪悪感として『しこり』の様に残っていたのだと思います。」


 それを聞いたサームは寂しそうに(くう)を見た。その様な気遣いや後悔を持つ必要は無かった。サームは自ら望んで王政から去ったのだ。サーム自身は追い出されたとも裏切られたとも思ってはいない。その事で陛下が責任や後悔を感じる必要は何も無かった。


 「王政への復帰は断るつもりじゃ。それでこの国におれんようになるなら、それも仕方なしと思うておる。」

 「そんなっ!そのような事にはさせません。お約束致します。」


 サルナーンの話によれば、陛下がサームの王政復帰を望んで今回呼び寄せたのは他の貴族達も気付いているようで、それを利用しようとする者と阻止しようとする者が裏で色々と動き回っている情報はサルナーンにも入ってきているようだ。

 またサームの現状を考え、王政復帰に消極的な意見を持つ貴族もいた。今、サームが市井の中で街や地域の発展の為に力を尽くしてくれているにも関わらず、それを止めさせる事の迷いが感じられる貴族も少なからずいるようだ。


 今回の話がどのような方向に流れていくのかはサルナーンにもなかなか予想は付かないようで、申し訳なさそうに「出たとこ勝負になりそうな気がします」と語った。しかし、サームの中では一貫して王政復帰の意思が無い事は変わらないので、それをしっかりと陛下へお伝えしてその後の流れに任せるしかないと言う考えだった。


 その言葉に不安を覚えるのはサルナーンである。長きに亘って他国同士の戦争が起こっていないとは言え、帝国絡みでこれほどまでに報告と疑いが上がるのも初めての事だった。今までは油断ならんとなりつつも実は何も心配ないと言うのが現状だった。しかし、最近の国境地帯で起こる誘拐事件の多発やエルの絡んだ未成年奴隷の扱いであったり、何よりも厳しく規制し管理されていたはずの帝国との貿易に裏取引があるかも知れないとの報告も入っている。

 この十年ほどで帝国との関係に変化が見え始めていた。当然ながら、良い変化ではない。その小さな一つ一つの変化が大きな変革となって、両国の関係を歪めかねない。


 そんな中でサームが万が一王国を離れる等と言う事になれば、今辺境地域で素材の納品や調薬で活躍してくれている大きな力を失う事になる。


 部屋がノックされ、使用人が謁見の準備が整ったと告げる。一行は部屋を出て謁見の間へと向かう。今回の謁見ではサームだけでなく、テオルグ卿など数名の謁見も重なっており、サーム達は謁見の間で待機して王を待つ事となる。

 部屋に通されると中には数多くの貴族達がいた。視線が一斉にサームへと集まる。しかし、サームは表情一つ変える事無く、使用人によって案内された場所で待機した。そこへ一人の貴族が近付いてくる。サームは少しの笑みを浮かべてその貴族と握手をする。


 「ご無沙汰であるな。サーム卿。」

 「誠に。連絡もせず申し訳ない。」


 エルが興味深そうに二人を見ているとジュリアが横から相手の素性を教えてくれる。名はジャロル・ダリハ。この国の侯爵だが、領地は持っていない。現在の王政を支える大臣衆の中で一番長く大臣を歴任している人物で、農業や林業などの発展・維持を担当している。

 サームが財務中に協力的な立場であった事はもちろん、王政を去る時にもイェルコ・ハールトンと共に最後まで陛下への説得を止めなかった。


 今回のサームの呼び出しにも、王政復帰への可能性があると踏んでいたがジャロルとしては、今までの様に王政にサームを留めようとは思わなかった。それよりもこの期に及んで王政を去った者を登用せねばならない状況を作ってしまっている事に、そこをどうにかするべきだと強く他の貴族を非難した。


 「このような状況になってしまってすまん。陛下をお止め出来なかった我々の責任だ。お主が王政へ復帰などと考えておらぬ事は承知しておる。その旨を、そなたから陛下に伝える時に少しでも力になれるよう発言するつもりじゃ。」

 「ダリハ卿。重ね重ね申し訳ない。しかし、陛下にはしっかりとお気持ちを伝えてご納得していただくつもりでおる。そなたに迷惑のかからぬようにしたいと考えてはおるが、問題はあちらさんの動き次第となるのでな。約束は出来そうにない。」


 サームのその言葉にジャロルはうんざりと言った表情で頷く。「あちらさん」とはサームを良く思わない貴族衆である。王政に復帰しようとしなかろうと何とかしてサームの発言力を削ぎたいと考えている輩だ。ハールトンのバカ息子の方が余程分かりやすい行動を起こしてくれている。

 裏でコソコソと動き回り、こちらの意図せぬ所で迷惑を被る事の方が怖い。それが直接サームへと向けられるなら良いが、創竜の翼やそれこそエル達に影響してしまう事が一番の懸念だった。


 そんな話をしていると、衛兵の声が謁見の間に響き渡る。


 「国王陛下のお成りにございます!!!!」

誤字脱字ありましたら教えていただけると助かります。また、感想・評価・アドバイスもお待ちしております。今後ともよろしくお願いいたします。

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