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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第三章 蒼月
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03-07.ロンダリア冒険者ギルド本部

いつもお読みいただきありがとうございます。

 「エル様、リック様、そろそろご準備をお願い致します。」


 イサドラの優しい声で眠りから覚める。寝ていたのはほんの少しの間だそうだが、二人はぐっすり眠れた感覚で疲れも少し抜けていた。イサドラがエルとリックの髪形を直し、皆で食事をする部屋へと案内してくれる。

 部屋に入るとエル達が最後だったらしく、エル達は慌てて席に着く。しかしサームもオーレルも笑顔で「ゆっくり出来たのなら良かった」と気にした風でも無い。

 皆で食事を取ったのだが、緊張で何を食べたのかすらあまり覚えていない。やはり皆は慣れているのか色々と話しをしながら食事していたが、エルは粗相が無いかを気にしながら食べている内にいつの間にやら食事は終わっていた。


 食事の最後にサームから王都の冒険者ギルド本部へ行くのは明日の朝一番と言う事が伝えられた。これから向かっても帰って来るのは夜になってしまうので、朝一番に向かい昼過ぎには聞き取りは終了するだろうから、それが終われば一度王都を見て回ろうと言う事になった。

 聞き取りはとても心配なのだが、王都の観光が出来ると言うのも実はエル達には少し楽しみだった。辺境都市やその周辺の村に住む一般領民にとっては、王都へ来ると言うのは一生に一度あるかどうかの大イベントだ。この機会にシスターや孤児院の子供達に何か買って帰りたいとリックとルチアもワクワクしていた。


 二つ並んだベッドでリックとエルは明日の事を思いながら話す。


 「お師匠様もテオルグ様も何の心配もないって言ってくださるけど、やっぱり心配だなぁ。」

 「俺達には分かんない事があるんじゃないか。貴族様の中にもさ。でもさ、あの時の事をしっかり話す以外に俺達にはする事はないんだからさ。開き直るしかねぇよ。」

 「そうだね....うん。ありがとう。」


 少しの不安を感じながらもエルは目を閉じた。


  ・・・・・・・・・・

 サームの屋敷に残った創竜の翼の面々。食事が終わりエル達が部屋に戻った後、サームとの話し合いの為にサームの私室へと集まった。


 「少し話は長くなるが、ティラー達にも聞いておいてもらいたい話じゃ。構わぬから腰を落ち着けて聞いてくれ。」


 サームにそう言われては従うしかないティラーとメイドたちはドア近くの壁際に置かれた使用人用の椅子へと腰掛ける。サームの真剣な雰囲気に創竜の翼の面々も少し身構えて話を聞く。

 ワックルトであった事は手紙で屋敷の者達にも伝えてあったが、改めてここで確認し全員が情報を共有する。メイド達はこの先、エル達がどうなってしまうかと心配しているようだが、ティラーに至ってはワックルトの統治を預かっていたトレビスの話を聞いて呆れた様子だった。


 「さて、ここからはティラー達にも聞いてほしい話じゃ。もちろんレオ達にもまだ聞かせてはいないが儂の中で考えておる事じゃ。」


 全員の顔に緊張が走る。オーレルは少し思い当たる事があるのか落ち着いた様子だ。


 「ある時を持って、エルを儂の養子に迎えたいと思っておる。もちろんエルが承諾してくれればと言う条件付きじゃが。」


 さらりと話したサームの言葉にオーレル以外の者が言葉を失う。確かにエルは今はサームの弟子として共に生活している。しかし、言葉には出来ないが元の身分は『奴隷』である。王国内では奴隷としての登録は無いが、それでも貴族階級の人間が元奴隷を家族として迎え入れる話はほぼ聞いた事が無い。農民や商家の中にはそう言った話も時折聞くが、何よりも体面を気にする貴族階級が奴隷と言う身分の者を雇い入れる事すら憚られるにも関わらず、まさか家族として迎えようとは。


 「旦那様。」


 何か話そうとしたティラーにそっと目線を送るサーム。ティラーは「申し訳ありません」と下がる。サームは今すぐに養子にしようと思っている訳では無く、将来的にエルが何かを成そうとする時に貴族の身分が必要になる事があれば手を貸したいと言う言わば親心のようなものだった。


 「では、そうなれるようにエルには頑張って貰わねばなりませんね。」


 ダンの言葉にその場の面々が笑顔になる。冒険者としてある程度の活躍をしていれば、元奴隷などと言う肩書はもう周りは気にしなくなる。そうなればサームが養子にしたとしても、将来性のある冒険者を囲ったと思われるだけだ。


 「エルはこの国でワシら以外に頼れる者がおらん。この先にどういう道をエルが歩もうとも戻れる場所を作ってやる事は、今のエルにとっては心を落ち着けられる大きな要因になるじゃろう。」

 「儂もそう思っておる。何をしてやれるかは分からぬが、エルが何も気を遣う事無く頼れる場所を作ってやりたいと思うのは、やはり老婆心が過ぎるかのぉ。」


 サームの言葉に部屋の中にあった緊張感が少し緩む。サームは単純にエルが心配でならないのだ。面々もそれが分かるからこそ手助けしたいとも思う。

 今回の騒動の事もエル達は大変な事をしてしまったかのように考えているが、あの状況で冒険者の規律を守る為に領民を見捨てていたとしたら、恐らくエル達は金輪際ワックルトで冒険者活動は出来なかっただろう。それがあのワックルトを出発する時の領民達の行動に表れているのだ。


 すると部屋のドアをノックする音がした。メイドがドアを開けると使用人から一通の手紙を渡される。その手紙をティラーに渡すと、ティラーの眉がピクリと動きサームへとすぐに手紙が渡された。サームが手紙の封蝋印を見ると、それは王家ロンダリオンの紋章だった。


 サームは慎重に手紙の封を開き、中を確認する。二枚の手紙の内容を確認すると、ふぅっと息を吐いてそれをオーレルに渡した。それを呼んだオーレルも難しい顔でため息をついた。

 レオが尋ねる。


 「どうされました?王家からはどのような?」

 「明日のギルドでの要件が終わり次第、創竜の翼、オーレル殿、そしてエル達3人を伴って登城せよとの命令じゃ。」


 面々がざわりと緊張感を増す。今回、王都へ赴いたのは冒険者ギルド本部への呼び出しの件だけだったはずだ。ワックルトの件に関しては既に王政からの処分と指示は済んでおり、新たに臨時領主に任命されたアルシェード家が自発的に陛下に謁見して事情を説明する流れになっていたはずだ。

 なぜこの状況でサーム達が、しかもエル達まで招致されたのか。何か嫌な予感がするが、そこは予想も付かないのでオーレルの顔を皆が見る。オーレルは顎髭をさすりながら自分の考えを述べる。


 「恐らく陛下はこれを機にサーム殿にもう一度王政へ復帰して貰うきっかけを作りたいのだろう。陛下自らがあの時の事をサーム殿に直接詫びる事で、王政がサーム殿を失脚させた事は間違いであったと言う事を公式に打ち出したいのだ。」

 「しかし、サーム様はこれまで政治には関わらず研究に没頭されてきました。今になってどうしてなのでしょう?」


 ジュリアの疑問は尤もだ。サームは王政を離れて以来、表舞台には一切関わらずにきた。それが今になって。


 「それは恐らく今回の一件で帝国での奴隷制度の違反調査もしかり、ワックルトの統治問題でのレミト村の支援にサーム殿が関わっている事もしかり、そして何よりその騒動を直接的に治めた冒険者がまさかの子供で、それがサーム殿の弟子となれば、今回の騒動はサーム殿が大いに関って事態を治めたと考える者が現れても可笑しくない。それがまさに陛下であったと言う事だろう。」

 「大臣達からすれば王政への参加を公の場で依頼し、断れない形に持ち込むつもりなのでしょうか。」

 「恐らくはの。サーム殿の前で言うのも憚られるが、未だにサーム殿に対する嫉妬や妬みを持つ貴族が王都にはおる事も事実じゃ。陛下が直接王政への復帰を依頼して受ければ復帰を提案した貴族達からすればそれはそれで良し、受けなければ不敬罪とするか、もしくはこれで完全に王政への復帰は金輪際無くなる訳じゃからの。どちらにしても自分達に損は無い。サーム殿は市井から貴族となり、しかも上級貴族にまで駆けあがっての王政への参加じゃった。嫉妬するなと言うのも無理があるのは事実。王都におるほとんどの貴族は親からの世襲貴族ばかり。自身が何かを成して爵位を賜った訳では無い。その引け目もあるのじゃろう。」

 「サーム様からしてみれば迷惑でしか無い話ですわ。元は王家より打診があっての王政参加だったはずです。それを自分達が追い出しておいて、ここに来て点数稼ぎでもしようと考えたのでしょうか。」


 創竜の翼はサームが王政からどれだけの扱いを受けて来たかを知っている。市井から才能ある人物を王政へ引き上げ利用しておきながら、自分達の派閥や権力争いの邪魔になると分かれば平気で放り出す。サームが強く発言しない事を良い事に、自分達の都合の良い様にサームの人生を弄んでいるとも見える。

 それを聞いていたサームが落ち着いた表情で話す。


 「ここで皆にはしっかりと言っておくが、当然儂は王政へ復帰するつもりは無い。それはこの先もじゃ。もしそれを理由に爵位を剥奪されようと王国にいられぬ事になろうとそれは大した事では無い。ただ心配なのは、その事でエル達に悪影響が出ないかと言う心配だけじゃ。」


 その言葉に全員が頷く。レオも同じくそれを心配していたようだ。


 「サーム様を良く思わない貴族からすれば、エル達は格好の的です。サーム様との繋がりが分かってしまった以上、今以上の警戒は必要になって来ると思います。せっかく一人立ち出来るようにこの半年間、自分達が全力で環境を作って来たと言うのに....身勝手な人間に全てを無駄にされました。」

 「ふむ。エル達が金ランク、もしくは白銀まで昇格していれば、王家でない限りは上級貴族からの横槍はある程度無視が出来るようになる。しかし、今はやっと銅に上がったばかり。上級貴族からすれば通りを歩く蟻よりも潰す事は簡単じゃろう。」

 「サーム様、この先どうお考えですか。」


 サームは決めかねていた。自分の権力を行使する事は容易い。しかし、それでエル達を保護した所で彼らの本当の意味での成長には繋がらないのではないかと。彼らが自分達から離れて一人立ちしたいと望み、今必死で藻掻いている様を見て来た。誰かに支えられながらもその支えを必要無いと振り払おうとする不器用さと幼さがサームにはこの上なく愛おしかった。

 たった一年半である。しかし、サームにとっては今までの人生を変えるに等しいほどの出会いであった。貴族社会と離れて生活していたはずが、どうしても離れさせてもらえない。その影響が自分に及ぶならやり様はあるだろうが、エル達に及びかねない状況だ。


 「まぁ、行ってみん事にはどう転ぶかも分からぬな。明日、ギルドの件が終わり次第、王城に行く。それで良いな。」


 全員が頷く。不安な夜が更けていく。


  ・・・・・・・・・・

 翌朝、一行は王都の冒険者ギルド本部の前にいた。ワックルトのギルドと比べると倍以上に大きな建物で入り口もドアでは無く門だった。中に入ると既に冒険者達の依頼受注の激しい時間帯は終わっているらしく、ロビーには人影はまばらだった。

 ダンを先頭にしてカウンターに向かう中で、ロビーにいた冒険者達から「創竜の翼だ」「ワイバーンキラーのレオだぞ」「マイスタースミスがいる」とそこかしこから聞こえる。やはり白金ランクは王都であっても格別の知名度だ。


 ダンがカウンターにいる職員に声をかける。


 「ワックルト冒険者ギルドより銅ランク冒険者エル、リック、ルチアへの聞き取り調査の為の護衛任務を終え、終了報告に来た。そのままサーム・キミア様はエル達の後見人として共に立ち会われる。」

 「はっ....はい!ご苦労様です。エル様、リック様、ルチア様、サーム様はそのままお二階へどうぞ。部屋に既にギルドマスターも来ております。ワックルトからの報告で創竜の翼の皆さんの立ち合いも認められておりますが、いががなさいますか?」


 ダンが後ろを振り向きレオと二三言葉を交わす。


 「大人数で押しかけてもマスターのご迷惑となると思うので、クランマスターのレオとオーレル卿が立ち会いたいと思うが構わないか?」

 「もちろんでございます。お待ちになられる方もお二階に控室をご用意しておりますので、そのままお二階へどうぞ。」


 職員を先頭にして全員が二階へ向かう。不安そうなエル達にジュリアが笑顔で話しかける。


 「さすがに上級貴族と白金ランク総出で来られてはギルドも構えていますね?たまには緊張した場面も経験させてあげませんとね?」


 そう言ってエル達に片目を瞑って可愛く冗談を言う。エル達は少し緊張がほぐれた。


 ギルドが用意している部屋に入る。待っていた職員とギルドマスターが一斉に起立し、サーム達を迎える。ギルドマスターとは大きなテーブルを挟んで向かい合う形で席が構えられていた。

 ギルドマスターはワックルトのギルマスのメルカとは違い、大柄で筋肉が発達した銀髪の男だった。


 「銅ランクのエル、リック、ルチア。王都までの長旅ご苦労。では話を聞かせてくれ。」


 聞き取りが始まった。

誤字脱字ありましたら教えていただけると助かります。また、感想・評価・アドバイスもお待ちしております。今後ともよろしくお願いいたします。

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