02-28.パーティー会議
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仕事を終えたエルはギルドへ達成報告に向かう。カウンターでクレリノを呼び出すと奥から走ってやってきた。こんな時間に戻って来たので何か問題でも起こったと感じたらしい。
「エルさん!お疲れ様です。何かありましたか!?」
「いえ、依頼が終わったので報告に来ました。これ。」
「えっ!もうですか?ホントだ。しかも追加報酬が付いてますね。」
達成報告の羊皮紙を見ながらクレリノは驚いている。エルは店主の息子のダリから聞いた今までに依頼を受けていた冒険者が真面目にやらず依頼主に迷惑をかけていた旨も伝える。クレリノは申し訳なさそうな顔でエルに謝罪した。
「エルさんにこのような報告をさせてしまってすみません。しっかり上へ報告させていただきます。今日は夕方から会議室を借りてますがこれからどうされますか?」
「一度宿に戻ります。またすぐに戻って来ると思いますけど。」
「畏まりました。」
ギルドを出るとレオが立っていた。やはりどこかで見守ってくれていたのだ。依頼の内容を話しながら宿へと戻っていく。レオは時に笑顔で、時に驚きながら興味深くエルの話を聞いてくれる。そして、宿が近付いた時にエルは小声でレオにスキルの事を話した。
レオは真剣な顔になり、また後で部屋で話そうと言ってくれた。部屋に戻ったエルは道具屋のダリから貰ったソーセージサンドを頬張る。野性味あふれるソーセージの味が野菜とパンに移り食べ応えのある物だった。
食べながら、あっと思いついたエルはソーセージサンドを鑑定してみる。するとパンは手作りでソーセージはどこで買った物かまで表示されている。さすがにレシピは表示されなかった。
(って事は材料になる物にしかレシピは出ないって事なのかなぁ・・)
部屋にある様々な物に鑑定をかけてみるが、今までと違った点と言えば説明が少し詳しくなった事と恐らく「その品を買った場所」が分かるようになった。最初はどこで採れるのかや売られているかだと思ったが、先ほどのソーセージとこの部屋のベッドを鑑定した時に「〇〇で購入した」と表示されていた。まだ何か色々とありそうだ。
するとドアがノックされる。レオとサームが入って来た。二人は椅子に座りベッドに腰掛けていたエルと向き合う。
「エルよ。レオより鑑定のスキルの熟練度が高まったと聞いたが、どうじゃ?」
エルは今の段階で気付いた事をサームに話す。髭を触り頷きながら話を聞いていたサームだが、レシピが表示された事を聞いた時にはピクリと眉を上げた。サームはレオの顔を見るがレオは横に顔を振るだけだった。
「今のところは気付いたのはそれぐらいです。」
「なんと・・昔、《万物鑑定》のスキルを持った者と話をした事があるが、レシピが見れる等と言う事は言っておらなんだ。もしかしたらその者も見れたのかも知れぬが、本や記録にもそのような事は残っておらんはずじゃ。なんとも・・」
その時、レオがエルに真剣な表情で質問した。
「エル、人は鑑定したか?」
「してません。お師匠様との約束ですから。」
この《万物鑑定》のスキルを授かった時にサームと約束した事だ。
無暗に他人を鑑定しない。
『この人は誰だろう』と思うだけで相手が見えてしまう。そんな事で他人を覗き見る事は相手にも気分の良いものではない。やむを得ない場合を除いて他人への鑑定スキルの使用を禁じられていた。
レオはそれを聞いて頷き、エルに自分を鑑定するように伝える。エルがサームを見るとサームは優しく頷く。
緊張しながらレオに鑑定スキルを使用する。そして見えた内容を二人に伝える。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
名前:レオ・アイゼンフォード 年齢:28歳
職業:剣士 白金ランク冒険者 創竜の翼
弐ツ名:ワイバーンスレイヤー 刃鬼
拠点:ロンダリア貴族区
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それを聞いた二人は眉間にしわを寄せる。サームが言うには人物鑑定スキルでも拠点までは分からないのだそうだ。そして恐らく《万物鑑定》はまだまだ熟練度の上昇があるはずだと言う。これ以上詳細が分かるとすれば一体何が・・・
とりあえず素材や他の物については小屋に戻ってからゆっくり検証する事になった。そろそろリックとルチアの依頼が終わりそうな時間なので、再びレオと共に出かける。
ギルドへ向かう途中でエルはレオに先ほど鑑定をさせてくれた礼を言い、その中で気になった『刃鬼』と言う弐ツ名について聞いてみた。すると、レオは照れながら答えた。
「ははは・・・昔な。まだガツガツしてた頃に仲間を野盗の組織に攫われてな。救出に行った時に仲間が襲われそうになってたんだ。それを見て我を忘れちまってさ。気付いた時には野盗が全員転がってた。その時の俺の戦いを見た他の捕まってた人たちがな。刃を持って盗賊を倒した鬼だって讃えてくれてな。それで刃鬼って呼ばれるようになったんだ。」
恥ずかしそうに話すレオを尊敬の眼差しで見つめるエル。その時の話を詳しく聞きながらギルドに向かう。その時の仲間はもう冒険者を引退していて王都にいるらしい。いつかエルにも紹介したいとレオは話す。
ギルドに着くとホールにリックとルチアがテーブル席に座っていた。二人に声をかけ一緒にカウンターへと向かう。クレリノが会議室へと案内してくれる。会議室はだいたい15人くらい座れる大きな長い机と椅子のセットが置かれているだけの部屋だった。
クレリノに聞くとパーティーやクランが依頼の詳細を詰める場で使われる事もあるが、一番多いのは盗賊や野盗を捕まえた時の達成報酬とは別の押収品の分配で揉めた場合に、ホールで揉めると他の冒険者に迷惑が掛かるのでそう言ったパーティーには事前に会議室での依頼達成の報告を聞くようにしているようだ。
広い会議室の中にエル達3人と創竜の翼のレオとジュリア、そしてギルド側のクレリノとサレンが向かい合わせに座る。レオとジュリアは「自分達はいない者として話をしてほしい」と極力自分達で話し合ってもらいたいと伝える。
とりあえずは今日の依頼達成の事を話しつつ、明日は今日の依頼をもう一度受けに行く予定だと伝えた。エルの道具屋の手伝いは今の段階では依頼が出ていない為、用水路の清掃依頼を受ける事にした。
クレリノに3人で話し合った事を伝える。クレリノとしては早くも話し合ってくれていた事に感謝していた。クレリノはファイルを捲りながら何かを確認している。
「そうですねぇ・・・今、メインで冒険者ギルドの依頼を受けてらっしゃるのはリックさんとルチアさんです。冒険者ギルドの収入で言えば一度の依頼の平均報酬が6000ジェムくらいになります。それを一ヶ月でどれくらい受けられるかによって貯蓄に回せる金額は変わって来るかと思います。」
「そうだよなぁ。まだそこがしっかり分からないからなぁ。」
「はい。まず大前提として皆さんはレミト村、または森からの遠征で来られているので、拠点がワックルトにある訳ではありません。なので他の冒険者の方に比べれば依頼を受ける数は圧倒的に少ないです。しかし、商業ギルドでの納品額がありますから全体の収入で言えば恐らく他の鉄ランク冒険者から比べれば相当に多い収入であると思います。」
クレリノが急に推測の話ばかりになったので、エルが不思議に思っているとサレンが言葉を足した。
「当然ですが冒険者ギルドと商業ギルドの間では同じ方だとしても相手のギルドでどれだけの収入があるか知る事は基本的には出来ません。なので、クレリノは推測でお話するしかないのです。」
「そっか。せっかく相談に乗ってもらってるのに俺らも商業ギルドの口座の金額をしっかり分かってる訳じゃないからなぁ。毎度毎度クレリノさんに口座残高を教えるのも手間だしなぁ・・」
「それについては・・・そのぉ・・」
そう言いながら気まずそうにクレリノはサレンとジュリアを見る。するとジュリアが微笑みながら助け舟を出す。
「確かにこの話はギルド側からする訳にはいきませんものね。実はですね、商業ギルドの収入と口座残高を冒険者ギルドが知る事は出来ます。」
「じゃぁ、それでいいじゃないっスか!」
すぐに言葉を返すリックを優しく右手で制してジュリアは言葉を続ける。
「それには条件を満たさないといけないんです。まずは商業ギルドで商会を作る事、これは冒険者ギルドで言う所のパーティーみたいな物ですがこちらは結構作るのに大変です。」
「大変?」
「はい、エルさん。まずは4名以上の商会員、つまり商業ギルドの登録証を持つ人が必要になります。その上で一人を商会長つまりリーダーですね。そしてもう一人、会計長を決める必要があります。当然、商会長と会計長は別の人物である事が絶対です。」
「うわぁ、めんどくさそうだなぁ。」
リックのうんざりしたような表情を見ながら苦笑いのジュリア。
「めんどくさいと言うよりは多少なりと専門知識がないと厳しいかも知れません。商会には一年間の納品依頼の達成リスクがあります。あとは三年間で商会損益が赤字になると商会は解散勧告を受けます。その次の年に年間でさらに赤字になると強制解散ですね。」
「うわぁ・・・めちゃくちゃ厳しそうだなぁ。」
と言う事は最短での解散は四年と言う事になる。しかし問題は会計に専門的な知識を持つ者を探すと言う事とどうやって商会の利益を出していくかと言う事だ。
「はっきり言ってしまえばそう言った事に関しては私も全く分かりません。ダンが商会の生まれですので全てを任せていると言うのが正直なところです。なので、その事についてはまたダンからゆっくりアドバイスを受けましょう。」
「そっかぁ。クレリノさんはどう思う?」
リックが質問する。少し考えクレリノは3人に新たな提案をする。
「商会を立ち上げるにはまだまだ準備が必要です。ですので、サレンさんから聞いた所ではもしワックルトで皆さんが共同生活するとすれば商業ギルドの納品額だけで出来るはずだと聞きました。であるならば、冒険者ギルドの達成報酬は皆さんが自由に使えるお金と考えても良いと思います。なら冒険者ギルドの達成報酬の額から貯蓄額を決めても良いのではないでしょうか?」
「そっか。とりあえず商会が出来るまでは冒険者ギルドの報酬の中から無理のない金額で決めていこうぜ。」
「そうだね。」
3人で相談しながらもしっかりとクレリノにも意見を求める。その光景にレオ、ジュリアは3人の成長を感じていた。こうして自分達だけでなくギルドや他の冒険者の意見も柔軟に取り入れる事が出来る事はこの先パーティーとして成長していく為に大切な要素だ。
クレリノから質問が飛んだ。
「これから順調に貯蓄していくとして今後何の為に使っていくつもりか決めていたりはしますか?もしくは買いたい物があるとか。」
そう問われた3人は恥ずかしそうに笑いながらクレリノに応える。
「実はもう決めてるんだ。な?エル。」
「うん。僕らが最初に一緒に買いたいって思ってるのは『馬車』って言うか竜車になるのかな?それを買いたいと思ってます。」
「馬車、ですか。・・・馬は買わないと?」
「実は今日、役場で手続きしてきたんですけど僕の名義で走竜の子供を登録したんです。」
「えっ!?そんなお金があったんですか?」
「いえ、実は・・・森で怪我してた仔を助けたら懐かれちゃって。今、その仔と一緒に生活してるんです。」
さすがにこの発言にはクレリノだけでなくサレンも驚いている。エルは今日手続きした時に貰った許可証をクレリノ達に見せる。二人はそれを確認し、エルに返す。
「確認しました。えっと・・驚いています。と言う事であれば、それはもちろん走竜・・ではなく、ノエルの為にも荷車は用意しておきたいですね。皆さんがワックルトに行く時にお留守番は可哀想ですから。」
クレリノのその言葉がエル達は嬉しかった。サレンがレオとジュリアからノエルの様子を聞いて、成竜となるには少なくとも一年以上はかかるだろうとの事だった。それを聞いたクレリノは一年の間に商会設立の方向性を決めつつ、どの馬車を買うかによって目標額を決める事を提案した。
「そんなに馬車にも種類があるんですか?」
「馬車に種類があると言うよりは馬車の大きさと作り手によって金額は本当に雲泥の差です。ですので、次回ギルドに来ていただける時までに馬車の資料を見ておきますのでざっくりな目標額を決めてはどうでしょう?」
「そうだな。よし、エル、ルチア。明日の夕方また来よう。」
「え?でも、クレリノさん一日で資料大丈夫ですか?」
「大丈夫ですルチアさん。ギルドが蓄積している情報の中にもそう言ったものはありますので、明日の夕方であれば十分にご準備出来ます。」
「よし、じゃあまた明日だな。えっと・・・話し合うのはこれぐらいだよな?」
「現状としてはあまりきっちり決めなくても良い気がします。大まかな目標を決めながらゆっくり細かく決めていけば良いかと。」
「そうだね。目的地さえ決まってれば道はゆっくり探せば良いわよね。」
「おっ!それ、分かりやすい!!」
ルチアとリックの掛け合いに会議室は笑いに包まれた。
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