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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第二章 冒険者、エル
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02-27.熟練度上昇

いつもお読みいただきありがとうございます。

 エルボアの店の手伝いを終え、宿へ戻る。自分の部屋に戻るとエルはさっそくエルボアから貰った本を広げて読み始める。浴場から戻ったリックが覗き込む。


 「高そうな本だな!!」

 「うん。エルボア先生からいただいたんだ。」


 エルは本をそっとリックに渡す。リックは恐る恐る受け取り中を読み始めるが、すぐにエルに返してしまった。


 「こんな難しい本読んでるのかよ。すげぇなぁ。エルは。」

 「これが難しいって分かるリックも十分凄いよ。」

 「まぁ、俺とルチアとポーリーは一人立ちも考えて前から文字は習ってたからな。今はかなり難しい文章じゃ無ければ読めるようにはなったぜ?」


 と、リックは胸を張る。エルは笑いながら本を仕舞う。確かにそうなのだ。孤児であったリックと奴隷であったエルがこの年齢で文字を読み書き出来る事は非常に稀である。特に奴隷の立場だったエルは出来るだけ早く買い手が付く為に行われた教育が今活きている。思い出したくもない生活だったが、あの生活が無ければエルの冒険者としてのスタートはもっともっと遅かっただろう。

 スタートが遅くなれば、もしかしたらリック達の方が先に働き先が見つかりレミト村で出会う事が無かったかも知れない。そう考えれば本当に奇跡のような巡り合わせで今があるのだ。


 ドアをノックする音が聞こえた。リックが返事をするとルチアとジュリアが入って来た。明日のクレリノとの打ち合わせに向けてまずは自分達だけで話し合いをしようと決めてあった。しかし、話の方向がおかしくなってはいけないとジュリアが話を聞いてくれる事になった。

 この3人は時と場合によって場を仕切る人が変わる。戦闘時はルチア、冒険者ギルドなどで代表として話すのはリック、そして話し合いなどの込み入った話題になる場合はエル。それぞれが得意と言うか向いている状況を担当している。


 「じゃあ、まず決めておかなければいけない事はパーティー口座をどう扱っていくかって事だね。」

 「そうね。お金を貯めていくって言っても収入に個人差あるしね。」

 「でも、ギルドからの報酬は均等に分配されるんだろ?なら同じ額を口座に入れてっても問題ないんじゃないか?」

 「リック、僕たちの一番の収入源を忘れてない?」

 「あっ!そうか。商業ギルドの納品報酬は個人個人なのか。」

 「そう。だから冒険者ギルドの報酬だけで言えば、恐らく今後はリックとルチアの方が僕より多くなっていくと思うんだ。逆に商業ギルドの報酬は僕が多い形になると思う。」

 「多い少ないって言っても今の冒険者ギルドの報酬と納品依頼の報酬じゃあまりに差があるよな。」

 「そうよね。だから、今のペースで『同じ割合の報酬』を口座に入れてたらほとんどエルの入れてくれたお金って事になりかねないわよね。」

 「うん。だから大事なのは『同じ金額』を口座に入れていくのが一番良い気がするんだ。」

 「そうだな。その方が揉める要素は少なそうだ。それに俺たち以外のメンバーが増えた時にも分かってもらいやすいだろうし。」


 では、その金額をどうするかと言う事になった。ただ銀行口座を作り依頼を受けていた生活もダン達の援助があったおかげでエル達はワックルトでの滞在に一切お金を使っていない。なので、自分達が一日ワックルトに滞在するとしてどれほどのお金が必要かと言うのは分からないのだ。

 なので、明日の打ち合わせの時に自分達が今までの依頼でどれくらいの報酬を得たのかをクレリノに聞いてそこから滞在費を引き、生活費を引いた中で無理ない金額を決めようとなった。と言う事は自ずとランクが上がれば貯金額も増えていくと言う事で全員が了承した。


 「でさ、せっかく貯めるなら額の目標って言うかさ、何を買いたいかって事を決めとかないか?」

 「あっ、そうね。その目標があれば頑張れるし。」

 「あっ・・・それなら僕、買いたい物があるんだけど・・・」


 エルからの提案を聞いた二人は大賛成し、明日それもクレリノに伝える事にした。それを聞いていたジュリアも笑顔で見守っていた。


 次の日、朝から3人は冒険者ギルドの依頼ボードの前にいた。相当早い時間から来たので銀ランクの依頼ボードから上位は冒険者がごった返している。3人共が今日はいつもと違う依頼を受けてみようと言う話になっていた。エルは色々とある依頼の中で自分に向いてそうな物を探す。


 すると、横から女の子に声をかけられた。


 「あの・・・すみません。」

 「はい。」


 エルが振り返ると外套のフードを被った女の子だった。フードを取って顔を見せた女の子はあの騒動の時に男達に絡まれていた女の子だった。


 「あっ!あの時の!」

 「はい。本当にありがとうございました。助かりました。」


 エルと女の子が話しているとリックとルチアも加わり、女の子は3人に何度もお礼を言った。

 女の子はヴィオラと言う名前でワックルトの出身だと言う。あの騒動の後の話を聞くとザックと一緒にカウンターでパーティーメンバー募集の登録をして良い冒険者を紹介して貰えるまで依頼を受けながら講習会を受けていたそうだ。

 そして二ヶ月前から紹介された冒険者達とパーティーのような形で依頼を受け始め、今訓練会を目指して日々努力しているらしい。すると、女の子は後ろを振り返りテーブル席に座っていた同い年ほどの男の子と女の子を呼んだ。


 男の子の名前はエドガー、女の子の名前はティルダと言い兄妹だと言う。エドガーもティルダも近接職を目指していたため、支援職を目指すヴィオラをパーティーに誘ったのだそうだ。今は訓練会に何度も参加して連携の訓練をしているそうだ。


 「本当にありがとう。あの時声をかけてくれなかったら私何されてたか分からなかったから。」

 「その後、何か嫌がらせされたりとかはしてない?」

 「うん。特に何もないけど。」

 「良かった。もし何かあったらすぐにギルド職員のサレンさんに相談してみて。きっと良い解決法を教えてくれるはずだから。」

 「分かった。サレンさんね。本当にありがとう。エル、リック、ルチア。また会えたら嬉しいわ。」


 そう言ってヴィオラ達はカウンターへと向かっていった。


 「何も無かったみたいで良かったな。」

 「うん。やっぱりパーティー登録するって鉄ランクではなかなか難しいんだね。」

 「そうだな。でもさ、俺らも結構どころかめちゃくちゃキツイ稽古してきたんだからさ。」

 「そうだね。負けてられないね。」


 エル達はもう一度依頼ボードと向き合う。リックは「防壁の補修作業」を選んだようだ。以前にレオが教えてくれて身体強化の練習にもなるし筋力も付くから前衛にはお勧めなのだそうだ。ルチアは食堂の手伝いを向こうから依頼されたようだ。昨日少しだけ手伝いに行ったら今回の遠征の間、来られる時は来て欲しいと依頼を受けたのだそうだ。その事をクレリノに話すとルチアの仕事ぶりが評価されての事だからぜひ受けるべきですとアドバイスしてくれた。


 エルが選んだ依頼は「道具屋の荷物整理」と言う依頼だった。クレリノに聞くとそんなに頻繁に来る依頼ではないが店主は気の良い人で働きやすい店だと言う。エルはこれも経験と今回はこの依頼を受ける事にした。


 3人が依頼を受けている間はダン達は遠巻きに見守ってくれているらしい。エル達は依頼の最中はダン達に気付いた事は無い。依頼主に怪しまれないように見守ってくれているのだろうか。


 道具屋に着きドアを開け挨拶すると、裏から大きな声で「こっちに来てくれ」と呼ばれる。

 一度店を出て店舗の横にある脇道から店の裏に回る。すると若い男性が大きな倉庫の中から出て来た。店の裏口のそばにある水桶で手を洗いエルに握手を求める。


 「ギルドからだね。この店の店主の息子のダリだ。今日は宜しくな。」

 「冒険者ギルドから来ました。エルと言います。よろしくお願いします。」


 エルが自己紹介するとダリは明るい笑顔で握手してくれた。聞く所によると店主が体調不良で店に出られなくなったのだが、今日が王都や他の街からの商品の搬入が重なっている日でどうしても一人では店も見ながらは出来ないと言う事になりギルドに依頼したのだそうだ。

 仕事の内容を聞くと馬車から裏庭に運ぶまではダリも一緒に手伝ってくれるらしいが、そこからはエルだけで倉庫に運んで欲しいとの事。搬入は3件、馬車2台半くらいの荷物らしいが今日は重い物はほとんど無いので子供のエルでも大丈夫だろうとの事だった。


 「任せてしまってすまないな。馬車を通りに置きっぱなしにしてると衛兵に怒られるからさ。荷物を裏庭にさえ運んでしまえば後はゆっくり仕舞う場所を教えられるから。バタバタするのはその裏庭への運び込みの時だけだよ。」

 「分かりました。あの良かったら運び込む倉庫を見せてもらう時間はありますか?」

 「あぁ。もちろん。まだ時間に余裕はあるから今のうちにどこに何を置くのかざっくり教えておこう。」


 倉庫の中は大きな棚がいくつも並べられていて奥半分に棚があり、手前側には麦や鉱石など重い物が置かれてある。なるほど重い物を手前にした方が運ぶ距離が少なくて済むと言う事だ。

 ダリの説明では今日搬入される物は奥の棚に置く物ばかりで品切れになっている物はないから倉庫の中に運び込めばどこに置くかは分かるようになってるとの事。気を付ける事と言えば粉物や乾いた商品の近くには水分のある物を置かないようにしてほしいとの事だった。気を付けて棚に置いてあるつもりだが、時々間違っておいてしまっている時があるのでもし見かけたら直して欲しいと頼まれた。


 話をしていると脇道の向こうから「こんにちわ~!!着きましたよぉ!」と声がかかる。どうやら搬入の馬車が来たようだ。ダリと一緒に通りに出ると二台の馬車が並んで待っていた。


 「おいおい!二台いっぺんに来ちゃったのか!よし!エル君。運ぼう!!」


 エルは自分が持てそうな荷物を裏庭へと運んでいく。ダリからも「倉庫に入れるのは後にしてまずは荷馬車を通りから出したい」と言われた。荷馬車に乗っていた商会の一人が木箱などの重い物の搬入を助けてくれたので、かなり助かった。商会員は裏庭に運び込んだ木箱を開けて中からたくさんの商品を取り出していく。空になった木箱はどうやら持ち帰るらしい。


 二台の荷馬車から商品を下ろし終えて息を整えたのもつかの間、もう一台が搬入されてきた。裏庭はあっと言う間に商品でいっぱいになる。食品もあれば服や雑貨、様々な物を取引しているようだ。

 ダリはいくつかの商品はそのまま店舗へ並べるのでそのままで良いと指示をして店に戻った。エルはさっそく商品を棚に置いていこうと思ったが、ここで一つ考えたのは運んでいる物が何か分からなければそれが乾いた物か水分のある物か判断出来ないと言う事だ。


 (鑑定で何かを判別しながらやれば早く出来るよね。)


 エルは裏庭に置かれた商品を鑑定スキルを使って何の商品なのかを判別しながら棚に置いていく。その商品の名前と簡単な説明が目の前に透明ボードに描かれた文字のように現れる。しっかりと商品を確認し、同じ棚へ仕舞っていく。


 商品の詳細が分かるだけに棚に仕舞うのにも迷う事がない。次から次へと片付けていく中で急に《万物鑑定》のスキルが変化する。今までは物の名前と簡単な説明しか表示されなかったが、今表示されている小麦の表示ボードの下に


 『パンの材料  レシピを表示しますか? はい/いいえ』


 (え?レシピが見れるようになったの?)


 そう思いながらはいを押すと必要な材料と工程が表示された。一度鑑定スキルを切り別の食品を鑑定し直すと同じようにそれから作れるレシピが表示されるようになっていた。驚いているエルだが、とりあえずはまず仕事を終わらせなければと頭を切り替え、商品を棚へと移していく。なかなか商品の品数も多く大変ではあったが何とか昼前には終える事が出来た。


 店にいるダリに作業終了の声をかける。すると、ダリは驚いて裏口まで走って来た。


 「もう終わったのかい!?いやぁ!助かったよぉ!冒険者にお願いしてもダラダラと一日かけて終わりませんでしたみたいな奴ばかりだったんだ。エルが来てくれて本当に助かった!」


 ダリは感激しながら一つの包みをエルに渡す。


 「これ、昼食で渡すはずだったソーセージサンドだ。うちのかみさんが作った奴だから旨いぜ。今日はホントに助かったよ。これで終了で構わない。サインはここにしとくよ。えっと・・・はい。追加報酬も出るように書いてあるから。いやいや、良いんだ。ちゃんと受け取ってくれ。もし、また受けられる時があったら頼むよ。ホントにありがとう。」


 ダリに感謝され見送られながら店を離れる。追加報酬まで貰ってしまった。でも、自分の仕事を評価して貰える事は嬉しい。

 さて、午後から時間が空いた。リックとルチアはまだ仕事は終わらないだろう。どうする?


 決まっている。成長したスキルの確認だ。

誤字脱字ありましたら教えていただけると助かります。また、感想・評価・アドバイスもお待ちしております。今後ともよろしくお願いいたします。

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