02-26.クレリノの提案
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さっそくサレンはクレリノに席を譲り、自身は椅子を少し引いて後ろから見守る。
クレリノは真新しいファイルを持ってくる。背表紙にも表にも何も書かれていない。
「でっ・では、さっそくお話させていただいて宜しいでしょうか?」
「緊張しないしない!俺たちまで緊張しちゃうよ。気楽にいきましょう。まだ外で魔物とやるランクにもなれてない新人ですから。」
そう言ってクレリノをリラックスさせようとしているリックにジュリアとサレンは微笑む。クレリノももう一度ゆっくり深呼吸をし、3人と向き合う。
「ありがとうございます。こちらが皆さんの活動実績や報告書を収めていくパーティーファイルになります。まだ当然何も入っていません。一番最初にこれに挟むのはこれから皆さんに作っていただくパーティー登録表が最初になります。」
「パーティー登録表?」
「はい。パーティー結成が許可された方に記入していただくものですね。主にパーティーメンバーの名前、現在のランク、パーティーネーム、ハウスがあればハウスの場所などですね。これは毎年更新していただく必要があります。」
「って事は毎年ワックルトギルドに来なきゃいけないって事?」
「あっ・・えっと、ちょっとお待ちください。」
そう言ってクレリノは横に置いてあった本の頁をめくる。そして指で確認し、本を閉じる。
「お待たせしました。更新は王国内全てのギルドで行えますので、もし遠征等でワックルトにいなくても問題ありません。活動拠点が変わる事もありますし。」
「なるほど。分かりました。」
「すみません。すぐにお答え出来なくて・・・」
クレリノは少し落ち込むが3人は笑顔だ。エルがクレリノに気にしないでと笑う。
「同じ新人ですから。お互いゆっくり勉強していきましょう。」
「はい!ありがとうございます。」
「では、パーティーネームは少なくとも来年度の更新までには決めておいてください。早ければ早いほど助かりますが、今後皆さんを表す名前となりますので後悔ないように話し合ってくださいね。あっ、ちなみに変更は出来ませんので。」
「マジか・・・責任重大だな。」
「後でゆっくり話し合おう。」
「では、パーティー口座はいかがなさいますか?作る場合は冒険者ギルドが代行で作っておく事も出来ますが。」
「あっ、作ってもらえるんですね。じゃあ、お願いします。」
パーティー口座については以前にジュリアに教えてもらっていて、絶対に作っておくべきとレオやダンからも言われたのでこれに対しては話し合いは既に済んでいる。明日には口座とタグが用意出来るとの事だった。
ここでジュリアがクレリノに質問を投げかけた。
「クレリノさん、あなたが思うエルさん達が今後気を付けておく事とか意識しておくべき事は何でしょうか?これはサレンさんに聞いたりするのではなくて、クレリノさんが今感じている事を素直に聞かせてもらいたいんです。」
「えっとぉ・・そうですね。先ほどサレンさんから報告のあった少し揉め事になっている冒険者との問題が気にかかっています。相手は領主様のご子息との事で、事情を聞けば相手方に非があるのは明らかですが相手は特権階級と言ってもいい貴族様です。まさかとは思いますが領主様がご子息の肩を持たれるような事があればワックルトでの冒険者生活が脅かされかねません。」
「なるほど。それの解決法はどう考えてらっしゃいますか?」
「厳しい言い方をさせていただければエルさん達単独で解決するのは無理です。これに関してはエルさんのご指導をされておられるサーム様に事態をお預けして、エルさん達が出来る事はこれ以上の関りを持たない事と身の安全を常に最大限警戒し続ける事くらいしかありません。」
「他に何かありますか?」
「そうですねぇ・・・」
クレリノは腕を組んで考える。傍から見ると非常に可愛らしく和む光景だ。
「まだエルさん達とお話させていただいて間もないので、皆さんの性格などを理解出来ていない中での提案となるのが申し訳ないんですが。やはり一番は達成報酬の分配で揉めないって事が一番だと思います。」
「それはなぜですか?」
「はい。これは私が資料室やファイルの整理などで気付いた事なんですが、パーティー結成から3年以内にパーティーが瓦解し機能出来なくなったり、最悪解散の選択をしたパーティーの半数以上が報酬の分配で揉めた事が原因でした。それは細かい理由は様々でしたが、一人の決定権や権力を持った者が公平に分けなかった事やパーティーでの貯蓄をしておらず、いざ資金が必要になりメンバーから集める事になったときに揉めるなどの理由が大半でした。この事からエルさん達のパーティーの中でもしっかりとパーティー独自のルールを決めておく事が大事だと思います。」
「なるほど。では、パーティー発展の為のカギになるとすればなんでしょう?」
これはジュリアの中では少しいじわるな質問のつもりだった。クレリノはまた少し考える仕草をする。
「これに関してははっきりとしたアドバイスは今の私には出来ません。申し訳ありません。」
「あら、どうしてですか?」
「あまりにもエルさん達のとコミュニケーションが足りていません。皆さんがどんな冒険者になりたいのか、どういうパーティーになっていきたいのか、それが魔物討伐をメインにするのか、商業ギルドの依頼を受けながら資産を増やしていきたいのか、パーティーの方向性が分からなければご提案をしても皆さんの参考にならない事もあります。それはこれから皆さんが依頼を受けられる中でお時間ある時に会話を重ねさせていただいて、私自身も勉強して方向性の選択肢をご提案出来ればと。」
その言葉にジュリアはもとよりサレンも少し驚いた表情になる。ジュリアはサレンに頭を下げる。
「サレンさん。ありがとうございます。エルさん達には恐らくクレリノさんが必要です。本当に良い方を紹介していただきました。」
サレンも椅子から立ち上がりジュリアに頭を下げる。
「そう言っていただけて光栄です。誠心誠意、サポートさせていただきます。」
エル達も満足そうだった。答えは簡単だ。まずはパーティーとしてしっかり話し合いをする事。そして今は依頼を一件一件確実に達成して銅ランクに上がる事だ。そしてクレリノとの会話も必要だ。自分達の事をしっかりと理解してもらわなければならない。
その後、話をして明日は簡単な依頼を全員で個別に終わらせてその後にギルドの会議室を借りてクレリノを含めて他の冒険者がどんな活動をしているのかを聞きながら、自分達の方向性を何となくでも決めていきたいと伝えた。クレリノも了承し、この日ギルドでの要件は終了した。一行は宿に戻って昼食を済ませる。
午後からはエル達はいつもの依頼を半日だけ受けるようにした。店舗を手伝うような依頼は依頼主さえ了承すれば一日でも半日でも達成のサインは貰える。先ほどギルドにいた時にクレリノに確認を取ると3件とも依頼が出ていたので、クレリノに依頼先に確認を取ってもらっていた。昼食後にすぐにギルドに行くと依頼主が構わないとの事だったので、そのまま依頼を受ける事にした。
エルにはダン、リックにはレオ、ルチアにジュリアが付き添い警戒は怠らない。今回急遽午後に依頼を入れたのはエルボアに素材納品する事とパーティー登録が無事に終わった事の報告に行った方が良いのではないかと、ギルドのホールでルチアが提案してくれたからだ。
普段は気が強く厄介事に首を突っ込んでしまうような所が目立つが、やはり色んな所に気が付き言葉にして表現出来るルチアの長所をエルは見習いたいと思っている。
エルボアの店に着き依頼書を渡す。エルボアは特に驚く事も無く「あぁ、来たのかい」くらいな雰囲気だ。先に納品を済ませる。今回は前回よりも少し量が多い。エルボアが鑑定している間にエルは店内の掃除と陳列棚の補充を始める。
何かを指示しなくても仕事を見つけて動き始めるエルの背中を優しい眼差しでちらりと見たエルボアはその後ダンが笑顔でこちらを見ている事に気付き、ふんと鼻息を吐いて鑑定作業に戻る。
「終わったよ。こっちおいで。」
納品素材の良し悪しの説明を受けながら手作業で作った低級ポーションをエルボアに見てもらう。一つ一つの工程が丁寧になってきて低級ポーションの中ではかなり良い品質になってきたと評価してもらった。
「本当ならとっくに見習いになってても可笑しかないだろうに。サムは一体何をやってるんだか。自分の弟子が世に出る機会を遅らせるなんて・・・」
「いえ、今は見習い登録が無くてもしっかりと技術と知識を蓄えていく事が一番だと思ってますから。お師匠様にも感謝しています。」
「まったく・・・良い弟子に恵まれたね。」
呆れた顔のエルボアに苦笑いのエルとダン。
エルボアにパーティー登録の許可が下りた事を伝える。エルの頭を撫でながらエルボアはダンをジロリと見る。ダンの笑顔に少し緊張感が漂う。
「あんたから見て、その訓練会ってのはどうだったんだい?」
「問題ありませんでした。エル達と同じ時期に冒険者登録をした者の中では戦闘においては群を抜いて実力はあると思っています。後は慢心せず稽古を重ねてもらう。その一点だけです。」
「だそうだよ。エル。」
「はい!ちゃんと鉄ランクから確実に依頼を達成して街の人の役に立てる冒険者になります。」
「そうかい。そこがブレないなら間違ったもんにはならないだろうさ。頑張んな。」
そこでエルボアは顔をしかめながら現状に不満を漏らす。
「低級ポーションとは言え、これだけの品質を作れる者がいるのに馬鹿どもの見栄の為に前に進めなくなってる。馬鹿馬鹿しいとは思わないのかい?ダン。エルが見習い登録されればうちの店にも卸す事が出来るようになる。そうなればエル達のパーティーの金回りだって少しは潤うんじゃないかい?」
「確かに一冒険者の見習い登録の為に上位貴族が己が私怨で妨害する等と言う事はあってはなりません。これに関しては妨害を行っている個人はもちろんですが、それを認識しているいないに関わらず放置している薬師ギルド、そして国にも責任はあると思います。」
「こんな所で国の批判をするんじゃないよ。でも、まぁ・・その通りだね。馬鹿な奴に嫌われちまったもんだね。サムも。どうにもならんかい?」
そう問われるとダンはちらりとエルを見る。言うかどうか迷っている。しかし、隠し事はしない、相談して決めていこうと約束した。今の現状をエルボアに伝える。
薬師ギルド内の有志によってギルド内にある不正や協会長のやり方にそぐわない薬師たちに行われている妨害や圧力などの事実をまとめている事。竜の牙のメンバーがその調査に手を貸している事。協会長ワゴシ・ハールトン自身の不正を突き止めている所だ。
「おそらく数年のうちに薬師ギルドは大荒れになると思います。そこは駆け引きとタイミングですが、オーレル様と話した感じでは悪くないそうです。」
「そうかい。まったくあんなギルドなら潰れちまえば良いんだ。いっそ清々するよ。」
「まぁ、エルの見習い登録は済ませたい所ですがあまりお金を稼ぐ事ばかり考えるようにもしたくないので、今はサーム様とエルボア様の指導をしっかりと受けられる環境づくりが優先ですね。」
「ふんっ。良いように言っても状況は変わらないよ。」
そう言ってエルボアはまた新たにエルに課題を与える。
「研磨薬を作っておいで。品質は拘らなくていい。作れるようになる事が重要だ。期間も特に定めない。今はエルには冒険者パーティーとしての歩み始めの方が重要だ。時間のある時に少しづつ勉強すればいい。作り方はサムに聞いても良いし。ほら、これをやるよ。」
するとエルボアは棚から装丁の綺麗な一冊の本を取り出す。本の背には『基礎調薬手順』と書かれていた。エルは驚いて手を振って断る。
「こんな高そうな本、もらえません!!」
一般の生活では羊皮紙を使う事の多い中で、植物を使って作られる「紙」は非常に貴重でそれが使われている本などは非常に高額だ。ギルドでも記録をまとめる為に紙は使われているが本に使われる物に比べると品質は悪い。紙の生産方法も一部の地域で限定して生産されており、国としては広く生産を伸ばしていきたいがそれを良しとしない生産者達の動きがあり、生産方法は秘匿とされ国からも無理に公開させるような事は出来ず、羊皮紙や質の悪い紙で何とか事は足りている為、紙の技術は発展も拡大もしていない。
「良いんだよ。この本の中身はあたしからすりゃ諳んじれるくらいに読み込んである。だから本棚で触られずに飾っておくよりエルに使ってもらった方が本も幸せさね。」
そう言ってぐいとエルに本を押し付ける。エルは申し訳なさそうに受け取る。しかし、すぐに振り返りダンに頼んでマジックポーチに閉まってもらった。
「ありがとうございます!大事に使います。」
「そうしておくれ。」
また新たな知識を手に入れる機会にエルはワクワクしていた。
誤字脱字ありましたら教えていただけると助かります。また、感想・評価・アドバイスもお待ちしております。今後ともよろしくお願いいたします。




