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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第二章 冒険者、エル
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02-25.パーティー結成

いつもお読みいただきありがとうございます。

 予想通り、あの騒動の時の男達だ。本当に自分は厄介事を巻き込む性分なのだとエルはうんざりする。しかし、これこそがレオにあの日言われた「自分の行動で起こってしまった事」なのだ。向き合わねばならない。


 エル達はすぐに席を立ち、声の方向とは逆の方へ体を流しながら目線を声の方へ送る。顔を真っ赤にして足元の覚束ない男が3人近寄って来た。そのうちの2人は騒動の時の男達だった。


 「おいおいおい!!まさか半年も経ってまだ訓練会なんか受けてるのか!才能が無いんじゃないかぁ。無駄な事せずに家で大人しくしてろよ!」


 ホールに響き渡るような声で近寄って来るが男達は自分達がどれほど酔っているか分かっていないようだ。リックがチラッとカウンターを見るとサレンがこちらを見ながら歩いてきていた。エルに「来てる」とだけ告げる。


 「何を騒いでいるのですか!!」

 「おいおい。俺らは別に何もしちゃいないぜ?こいつらには前に迷惑をかけちまったからなぁ?しっかり挨拶しておかないとと思って声をかけただけだぁ。なぁ~?」


 サレンの言葉にそう言って後ろの男達に同意を求める「領主の息子」と名乗っていた男。連れの男達は汚く笑う。エル達はそれに反応する事無くその光景を黙ってみていた。


 「それとも何か?ギルドってのは冒険者同士が会話する事にまで口を挟んでくるのか?えぇ?」

 「騒動を起こしたと言う過去がある者同士が大声でホールで向かい合えば職員としては介入する事も検討します。当たり前ではないですか?」

 「サレンさん。僕たちは大声は出していません。」

 「そうでした。失礼しました。」


 サレンのその返し方でエルは思わず吹き出しそうになるが何とか堪える。領主の息子はその様子に苛立ち始める。


 「おい。ガキ。あまり舐めた態度を取ってるとこの街を歩けなくなるぞ?」

 「冒険者への恫喝と捉えて宜しいですか?」

 「喧しいッッッ!!」


 男の態度に注意を促したサレンに怒気を含み叫ぶ男。サレンがスッとエル達の前に立ちはだかる。すると男はサレンの襟元を掴み引き寄せようとした。


 その瞬間、サレンは男の手首に手を添えながら右足で男の足を払う。

 すると男は体をぐるんと宙で廻し頭から床へ叩き付けられた。一瞬にして男の意識は飛んでいた。他の男達に向けてサレンが言葉を掛ける。


 「意識を失っているようなので後ほど通知にて知らせますが、ギルド職員への暴力行為がありましたので制圧行為で事態を収拾しました。如何なる理由があろうともギルド職員への暴力行為は容認しておりませんので、ギルド規定に基づきこの者のギルド登録を抹消します。異議申し立てがあれば申請書を後日提出してください。では、連れてお引き取りを。」


 襟元を直しながら冷静に対応するサレンに男達は怯え、意識のない領主の息子を引きずりながらギルドから退散していった。

 サレンは振り返りエル達の目線に合わせる為に屈んで話をする。


 「今回は私達を頼っていただけたようで。」

 「騒ぎになってしまって申し訳ありません。」

 「いえ、このタイミングを狙って自由にさせていた私共にも非はございますので。確実に規定違反をしてくれないとこちらとしても処分出来ませんので。」

 「逆恨み、あるんじゃないですかね?」

 「恐らくは。ダン様には伝えておきますので事態がはっきりするまでは共に行動をお願いして宜しいですか?」

 「はい。・・・でも、サレンさん!強いんですね!!」

 「冒険者を相手に仕事をするギルド職員がまったく荒事に向かない訳が無いと頭の回らない輩だから平気で職員の襟を掴んだりするのです。私達もそれなりに鍛えておりますので。」


 そう言ってサレンは胸元からネックレスに通されたタグをエル達にちらりと見せる。そのタグは綺麗な白銀色をしていた。エル達は目を見開き、サレンの顔とタグを何度も見る。


 「はくぎ・・・」

 「エルさん。もう引退している身です。形だけのタグですので。」

 「サレンさん!カッコ良い!!」

 「ありがとうございます。ルチアさん。でも、冒険者に制圧行為をするような職員は恰好良いとは言えないのですよ。」


 サレンはそう言いながらエル達に礼をしてまたカウンターへと戻っていく。エル達もテーブル席に座り直し話を続けた。


 「全く・・・迷惑な話だ。」

 「たぶんギルドの外で狙われる可能性、あるよね?」

 「そりゃあるでしょうね。ダン先生達にまたご迷惑をかけてしまうわ。」

 「自分達の身を守れないうちは関わるな・・ホントに言われた通りだ。」


 エルがぼそりと呟くとリックとルチアも下を向く。自分達の幼さが歯痒かった。あの騒動の時にもう少し冷静に行動出来ていれば、これほど事態を大きく長引かせる事も無かったかも知れないのに。


 3人が落ち込んでいると後ろから声が掛かる。


 「おやおや、あれだけ良い模擬戦をした3人がどうしてこんなに落ち込んでるんだい?」


 振り返るとサームやダン達が立っていた。エル達は椅子から立ち上がり、先ほど起こった事を伝えた。するとダンとサームは苦笑いしながら顔を見合って、サームが優しくエル達の頭を撫でる。


 「ちゃんとレオの教えを守ってくれたんじゃな。」

 「でも、またどこかで嫌がらせに合うかも知れません。」

 「こればかりは予想がつかんのぉ。まぁ、奴らが目的としておるのはエル達じゃ。レオとジュリアには申し訳ないが付き添いを厳重に頼めるかの?」

 「もちろんです。お任せください。」


 すると後ろからギルド職員に声をかけられる。


 「エルさん、リックさん、ルチアさん、訓練会お疲れさまでした。同時に申請されておりましたパーティー申請の審査結果が出ましたのでカウンターまでお願いします。」


 エル達はカウンターへと案内される。大人数になるのを避ける為、ジュリアのみ付き添う。依頼ボードから一番離れたカウンターは人の影も少なく落ち着いて話せるようだ。そこにはサレンともう一人女性の職員が座っていた。ドワーフ族のようだがエル達よりも少し年上に見えるが職員の中ではかなり若く見える。

 サレンが姿勢を正しエル達に頭を下げる。隣の職員もそれを見て慌てて頭を下げる。頭を上げたサレンの表情は晴れやかだった。


 「エルさん、リックさん、ルチアさん、申請いただいておりましたパーティー申請ですが、今日の訓練会の内容も考慮させていただき無事に許可がおりました。本日より皆さんの依頼はパーティー単位として報酬が記録されていく事となります。」


 それを聞いたエル達は思わず「やった!」と声を上げた。その後すぐに恥ずかしそうにサレンに謝る。


 「いえいえ。お気持ちは十分に理解できます。本当におめでとうございます。今後のパーティーとしての活動については講習会でも少し説明はあったかと思いますが、ここでもう一度説明させていただくと共にさらに詳しい部分も追加でご説明して宜しいでしょうか?お時間は大丈夫ですか?」

 「はい。大丈夫です。」


 代表してリックが答える。サレンは笑顔で頷きながらちらりとジュリアに視線を送る。するとジュリアも小さく頷く。時間は問題ないようだ。説明は続く。


 今後大きく変わる点を説明された。


 ・依頼の達成実績が個人単位からパーティー単位へ・・・これは今までなら依頼に参加した者が達成した実績を積み上げていく方式だったが、今後は『パーティーに参加しているが依頼には参加していない者』にも達成実績が計上される方式になる。当然参加した者の報酬額の7割と言う報酬上限はあるが『どのランクの依頼を何件受けたか』と言う実績では全員が公平に計上される。


 ・銀行でパーティー口座を利用可能に・・・銀行でパーティーとしての口座を作れるようになる。しかし以前講習会で説明があった通り、この口座で依頼報酬を受け取る事は出来ない。これはギルドの規定の中にもある『報酬の均等分配の徹底と管理体制の構築』の為である。

 では何の為に使うのか。はっきり言ってしまえば達成報酬は個人個人にギルドが振り込んだり手渡しするが、その後どう管理するかは冒険者の責任と言う事になる。冒険者の私生活までギルドが管理出来る訳がない。なので個人に振り込まれた報酬をいくらかパーティー口座に移してパーティーとして購入する物が出来た時にそこから捻出する為に口座を作る事を推奨している。


 ・パーティーハウス購入や建築資金の信用貸付・・・講習会でも説明のあったものだ。今のエル達ではまだその審査は下りないだろうが忘れずに知っておいて欲しいとサレンが説明する。恐らく銀ランク昇格手前くらいになれば少額の貸付は受けられる事が多いと教えてもらった。


 ・資料室と会議室の解放・・・これは宿などでパーティーとして打ち合わせが難しい者にギルド内の会議室を無料で貸し出す制度と資料室にある今までに出された事のある依頼の履歴や達成報告書、そしてギルドで扱う素材やそれが獲れる地域や魔物の生息場所などをまとめた資料が読めると言う制度。

 資料室に関しては見られる依頼報告書は現在のパーティーランクの一つ上のランクまで。所謂、そのパーティーが受けられる依頼の範囲内のものしか見られない。


 とりあえず大きく変わる点は以上の4点だった。しかし、細々とした点もいくつかありそれは全て説明していると明日の朝になってしまうのでこれから少しづつ説明していくそうだ。


 そしてサレンが隣の職員をエル達に紹介する。


 「こちらは当ギルドの職員でクレリノと申します。クレリノ、挨拶を。」

 「あっ・・初めまして!クレリノと申します。パーティー登録おめでとうございます。」


 エル達がクレリノに頭を下げる。少し緊張しているようだ。


 「実はエルさん達にお願いと申しますか、ご提案をさせていただきたいのです。はい、実はこのクレリノをエルさん達のパーティーの専任担当としていただけないかと言う事なんです。」


 思いがけない提案にエル達は驚く。しかしジュリアは驚いた様子も無く落ち着いている。予想出来ていたのだろうか。


 「実はギルドマスターのメルカからも了承を得た上でのご提案なのですが、エルさんのスキルの関係やサーム様とのご関係の事も考えるとエルさん達の活動記録が職員が自由に閲覧できる状態にあるのは危険なのではないかとメルカに私から提案しました。もちろん情報管理は徹底しておりますが、それでも絶対とは言えません。これが以前のような身分を隠されていた状態だと新人パーティーに専任なんてと思われる冒険者が出てくる可能性はありましたが、ある程度の上位冒険者達にはエルさん達とサーム様、創竜の翼との関係は周知されてきました。ですので専任担当を付けて身の安全を図っていると分かってもそれほど反感は無いのではないかと。」

 「そこまで考えてもらって・・すみません。」

 「いえ、今後の事もありますので。」


 エル達はジュリアの方を見る。ジュリアも優しい笑顔で頷きながらエル達に話しかける。


 「良い判断だと思います。エルさん達がパーティーとしてしっかり自立出来るまでは息苦しくとも出来る用心はしておいた方が良いと思います。しかし、新人の職員のように思いますが、そこの辺りはどう言った思惑が?」


 少し冷ややかなジュリアの眼差しに少したじろぎながらサレンは説明を続ける。


 「はい。クレリノは奥の作業の研修期間を終え、カウンター業務に移ってきたばかりの新人です。そう言った不慣れな職員をと思われるかも知れませんが、全くどの冒険者も相手にしていないからクレリノ自身もエルさん達と共に冒険者サポートを学んで行きます。もちろん私が教育担当として教育はしますが、そうやってエルさん達のパーティー活動の手助けを中心にした何の知識も無い職員の方が妙な先入観などが無くサポートが出来るかと思い、もちろん他の職員にする事も出来ます。」

 「ちょっと話し合って良いですか?」

 「もちろんです。」


 エル達はカウンターに背中を向けて三人で集まり小声で話し始める。ルチアがジュリアのローブの裾を引っぱり会話に参加してもらう。


 「どう思う?」

 「特別待遇はあんまり嬉しくないけど、冒険者として始まったばかりなのにこれだけ騒動に巻き込まれまくってる俺らなら独自にサポートして貰った方が良い気もするな。」

 「ごめんよ。」

 「ばか・・あれは俺とルチアが先に手ぇ出しちまったんだ。エルのせいじゃねぇよ。な?」

 「うん。でもさ、クレリノさんもまだ分からない事だらけなんだろうからさ、一緒に上を目指すって考えたらさ、ある意味クレリノさんもパーティーメンバーでしょ?」

 「あっ、そうだね。そうも考えられるのか。」

 「だったら同じパーティーメンバーって考えて最大限私達の為に働いて貰った方が絶対にこの先安心だよ。だって他の冒険者と足並み揃える必要は無いんだしさ。ですよね?ジュリア先生。」

 「そうですね。ルールを逸脱しなければそこは冒険者の世界ですから努力した者が上に昇っていく世界です。」

 「よし、じゃあ、決まりで良いな?」

 「「うん。」」


 一行はサレンとクレリノに向き合う。クレリノの緊張が更に増しているように感じられた。


 「サレンさん。この提案、受けさせてください。クレリノさん宜しくお願いします。」

 「ありがとうございます。クレリノ、励みなさい。」

 「はい!!ありがとうございます。」


 エル達とクレリノはカウンターを挟んでガッチリと握手を交わした。

 パーティーとしての活動が始まる。

誤字脱字ありましたら教えていただけると助かります。また、感想・アドバイス・良いね・評価もお待ちしております。今後ともよろしくお願いいたします。

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