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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第二章 冒険者、エル
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02-15.冒険者講習会

 「よし、全員席に着いてるか?1,2・・・・・よし、全員いるな。今日の講習会の指導員を務めるザックと言う。現役の冒険者で冒険者ランクは白銀だ。」


 ザックがそう紹介すると講習生の中からどよめきが起こる。職員が来て説明されるものとばかり思っていたら来たのは現役の冒険者で、しかもランクは白銀だ。まだ登録が終わったばかりのような冒険者からすれば口を聞く機会すらないような上位冒険者である。

 講習生の反応に構わずザックは言葉を続ける。今回の講習は冒険者としての基本的な心構えの他に今後活動していく上でトラブルとなりやすい事や気を付けて行動しなければいけない事を説明していく。それを守らなかったからと言って冒険者資格が剥奪されるような事は無いが、他の冒険者からの信頼は持ってもらえないだろうとやんわり脅しをかける。


 少し緊張感をはらんだ会議室内でザックは講義を続けていく。とは言っても内容は本当に基本的な事で、エル達が今までにダン達から教わってきた『冒険者としてどうあるべきか』と言う心構えを再度ザックから教えてもらうような流れだった。冒険者の活動全てが日々自分達と共に街で暮らす人々の幸せに繋がっていると言う事を忘れないようにしなければいけない。自分の利益ばかり追いかけて他人を蹴落とす・見下すような真似をしていると必ずその行為は何倍にもなって自分に返って来ると言うような内容だ。

 しかし、エル以外の講習生のほとんどにはあまり内容は響いていないようで、どちらかと言えば冒険者になった事で広がる自分達の生活への楽しみに意識が持っていかれているようだ。恐らくこの講習会も世話になっている先輩冒険者やギルドに言われて仕方なく受けにきているのだろう。


 説明が続いていく中でエルが特に真剣に聞いたのはパーティー活動とクラン結成の話だった。まだ登録したての冒険者達にはクラン結成は時期尚早ではあるが、事前に聞いていないと言う事例を失くす為に講習会で話すようにしているようだ。


 「この中にも今後パーティーを組みたいとかすでに組むように動いている者もいると思うが、ここで気を付けておいて欲しい事がある。それは報酬の均等分配と管理だ。パーティーとしてギルドに登録すると依頼は今までのように個人(ソロ)では無く複数(パーティー)での受注となる。複数で受けた依頼の場合は報酬は『実際に依頼に参加するしない関係なく全員の口座へ規定に基づいて分配』で振り込まれる。それはパーティーとしての役割に関係なく報酬は均等に分ける事が望ましいと言うギルドの考え方によるものだ。」


 その言葉で会議室内がまたざわつく。やはり自分が活躍すれば割合を多く得たいと思う者が多いのだろう。そのざわつきを聞きザックは軽く壁を叩き皆を黙らせる。


 「はっきりと言っておく。近接職がパーティーで一番敵に近付き攻撃を与えるから最も危険なジョブだから報酬も多くあるべきだ、なんて考えの奴がいるなら今からでも遅くないから冒険者を辞めるか、どうか頼むから他人とパーティーを組まないでくれ。そんな考えの奴が将来有望な冒険者を連れて全滅なんてされたら、こちらは後悔してもしきれない。」


 ざわついていた冒険者達は一気に表情に緊張感をにじみ出す。白銀冒険者の厳しい言葉に現実を突きつけられる。


 「はっきり言っておくが近接戦闘に長けてる者が活躍して依頼が達成出来るなんて精々銀ランクになる頃までだ。そこから先はパーティー全ての役割を完璧に果たしながらでないと依頼達成なんて出来やしないぞ。近接・遊撃・斥候・魔法職・遠距離・ポーター・情報職、その他にも役割はあるがその全てが役割をなしてこそ高難易度の依頼にも望めるんだ。」


 そこでルチアが急に手を挙げた。ザックはルチアを見る。


 「どうした?えっと名前は・・・」

 「はい。鉄ランクとして新たに登録していただきました。ルチアです。先ほど指導官の仰ったポーターと情報職と言うのはどう言ったジョブなんでしょうか?」


 お互いが初対面を装った。白銀ランクと駆け出しが知り合いと言う構図は周りからの嫉妬とやっかみを生みやすい。そこを打ち合わせなく出来るルチアもさすがだ。


 「そうだな。説明しておこう。知っている者ももう一度頭に入れておくように。さきほど言ったポーターとはパーティーの荷物を運ぶ事を専門に雇われている、いわゆるサポーター職だな。依頼中に解体や採取で手に入れた者を他のパーティーメンバーから預かり管理する。そうする事で戦闘職のメンバー達は荷物を背負う量を減らせて移動が出来る。なんだそんな事と思うかも知れないがこれはランクが上がり移動距離が長くなったりすれば本当に助けになるジョブだ。依頼廻しの上手いパーティーなんかはポーターだけ外部から雇い入れる事もあるくらいだ。もちろんうちのクランにも何人もいるし、あの有名な白金ランクの創竜の翼にもポーターはいる。」


 創竜の翼の名前が出ると講習生から少し歓声が沸く。やはり白金ランクの認知度はさすがだ。そしてザックは続けて情報職の説明をする。


 「情報職と言うのはまだ駆け出しの皆には聞き馴染みはないと思う。これは大人数のクランなどを立ち上げた後には必須と言っても良い職業だ。情報職はパーティーとして実際に依頼に参加して魔物を狩ったりする事はほとんどない。パーティーとして成功し冒険者ランクが上がっていけばパーティーハウスやクランハウスと呼ばれるメンバーが全員で使える一軒家だったりを所有するようになってくると思う。その家の管理はもちろん依頼を実行するメンバーが依頼先へ向かっている間に次の依頼の為の情報を集めたり必要な道具を揃えたりする役職だ。これこそ常に依頼で動き回る事になる上位ランク冒険者には必須中の必須だ。自分達のスケジュールや生活を管理し、クランによっては報酬などの資産の管理をする者もいる。まぁ、これは参考程度に知識として頭に残しておくと良い。」


 今度はエルが手を挙げる。


 「まだ先だとは分かっていますが、パーティーとクランの違いを教えていただきたいです。」

 「分かった。パーティーとは最少人数2人から5人までの集団の事を言う。そしてそのパーティーが最大人数5人の状態で2組集まって10名になるとクランと呼ばれるようになる。ほとんどのクランはもともと二つ別々のパーティーで活動していた者同士が共に行動し始めてクラン登録する事が多い。」

 「人数が条件だけですか?」

 「人数は絶対条件ではあるが、その他にもクランを組む必要があるだけの依頼を達成しているかやそれに見合うだけのランクに達しているかなど、まぁはっきり言ってしまえばギルドの審査が一番の判断材料となるって事だな。」

 「ギルド判断・・・」

 「極端な事を言えば鉄ランクの冒険者10人集まってクラン作らせてくださいなんて言ってもギルドが許可出来る訳ないだろ?他にはランクが上位でも全然依頼も受けずサボってる奴ら同士が組んだって達成率が上がるとも思えないだろ?そう言う部分をちゃんと判断されるって感じかな。」

 「わかりました。ありがとうございます!」

 「よし。では、次に冒険者パーティーに与えられる優遇措置について話しておく。パーティー結成の許可が冒険者ギルドから下りた冒険者はいくつかの優遇が受けられるようになる。まずは先ほど話したパーティーハウス、いわゆるパーティーの拠点となる物件を購入または建設する際にギルドを信用相手として登録し、購入・建築費を分割で業者に支払う事が出来る。これは依頼を頑張ってはいるがまだ全額を揃えるには厳しいパーティーなどにギルドが金を貸してくれると思えばいい。当然審査はあるし、かなり厳しいモノだからパーティー組んだからってホイホイ受けに行っても門前払いされるだけだぞ。」


 リックが手を挙げて質問する。


 「物件を買う場合はワックルトの街の物件でのみですか?」

 「いや、これは王国全ての街の物件に共通して受けられる。しかし、審査を行うのは『その物件のあるギルド支部』だから当然一度も依頼を受けた事のない土地のギルドよりも自分達がホームとして活動しているギルドの方が審査は通りやすいと言える。土地とか依頼状況とか関係なく審査が通るようになるのは金ランクでコンスタントに依頼をこなせるようになってからだな。あと、ギルドがない村や町に関しては一番最寄りのギルドが審査を行う。」


 それを聞いてリックとルチアは顔を見合わせえて喜ぶ。と言う事はレミト村で物件を購入したり家を建てたりする場合はワックルトの冒険者ギルドが審査先になる。自分達の自立に向けた具体的な手段が分かって少し嬉しさが見える。


 「よし、だいたい理解出来たか?質問があれば受け付ける。」


 すると前の方に座っていた小さな体の女の子が手を挙げる。


 「ソロで活動していてパーティーを組みたいと思った場合はどうすればいいのでしょうか?自分で探すしかないですか?」

 「いや、それに関してはギルド職員に相談すると良い。自分がいくつか依頼を受けた事があれば相性の良さそうな冒険者を紹介してくれるし、職員に相談した時点で『パーティー募集者』として登録してもらえるから他のパーティーを探している冒険者とも出会いやすくなる。もし探す予定があるならこの後カウンターホールで職員に相談すると良い。なお、強制的な勧誘は禁止事項で罰則もあるからな。」

 「ありがとうございます。」


 女の子が小さな声でザックに礼を言う。すると会議室の後ろの方に座っていた2人の冒険者がコソコソと話し始める。エル達が目線を送る。その女の子をニヤニヤしながら眺めていた。当然、背中を向けている女の子は気付いていない。

 嫌な予感のする3人。その後もいくつか質問があり講習会は一時間ほどで終了した。会議室から全員が出ていく中で3人はわざと最後に会議室を出た。そしてあの質問をした女の子を遠くに認識しながら廊下を歩く。

 すると先ほどの男たちが女の子へと近付き肩を掴む。女の子は体をビクリとして振り返る。


 「おい。パーティーメンバーを探してるんだろ?俺らのパーティーに入れてやる。」

 「いえ・・・カウンターで登録してもらって相手を探しますので大丈夫です。」


 女の子は怯えながらもしっかりと自分の考えを述べる。男たちは苛立った様子で肩に置いた手に力を込める。


 「逆らわない方が良いぞ。どうせお前のような奴と組む冒険者なんていないんだからな。」


 そこで男の背中をポンポンと叩く手。男が振り返るとルチアが立っている。


 「女性に断られたのに無理に誘うのは男としてカッコ悪いわ。嫌だと言われたなら自分を改めてからまた挑戦するか潔く諦めなさい。」

 「なんだとっっ!!誰に口を聞いてるか分かってんのか!?」

 「ただの鉄ランクの新米でしょ。お互いに。そんな言葉は金ランクぐらいまで出世してから言いなさい。」


 ルチアの口撃は完全に相手を封殺する。どんどんと男たちの顔が赤くなり怒りが込み上げてきている。が、ルチアは全く気にも留めない。それを付かず離れず見ているエルがリックに小声で言う。


 「ルチア、自分より体の大きい男の子にすごいね。」

 「俺らだって伊達に孤児院の中でたくさんの子供達と育ってないさ。血の繋がりのない子供達を結束させるって結構大変なんだぜ?まぁ、そろそろうちの姫のお手伝いしますか。」


 そう言ってリックはルチアの横にひょっこり顔を出す。


 「あれ?パーティーに誘うのは女の子って言ってなかった?こんな頼りなさそうな男ならいない方がマシじゃないか?」

 「こんなの誘う訳ないでしょ。自分の顔面の出来も分からずに女の子に暴力振るうような奴はこちらから願い下げよ。」


 男たちは我慢の限界が近付いている。自身が声を掛けた女の子から注意が逸れている男達。エルはそっと女の子をその輪から連れ出す。


 「巻き込んじゃって・・・いや、巻き込まれに来てごめんね。すぐに終わるから。」


 女の子は驚いた顔でエルを見上げる。そしてエルはゆっくりと男たちの後ろから近づいていく。


 「お前ら!!許さんっっっ!!殺してやる!!!」


 男が自分の腰に刺した剣に手をかけて抜きかける。

 ルチアは手に握っていた外殻の硬いチタの実を親指で弾き男の手にぶつける。

 男は痛みと共に一瞬、剣から手を放す。その瞬間、リックは男へと間合いを詰め自身の持つ木剣の柄を男の腹へとめり込ませる。

 男は苦痛で体を曲げると、すでにリックの木剣が男の首筋へ置かれていた。


 もう一人の男が助けに入ろうと駆けだそうとした時、後ろから近づいていたエルが男の膝関節を後ろから蹴り抜く。男はバランスを崩し腰を落とすとエルは後ろから口に手をまわし首筋へ同じく短い木剣を当てる。


 「偉そうな事を言うならまともな実力を身に着けてからにしてほしいわ。」

 「まったくだ。」


 エルは男の自由を奪いながら、ぷっと吹き出してしまう。今のリックとルチアの様子はどう見てもレオとジュリアのそれだ。二人ともレオとジュリアに稽古をつけてもらっている間に影響されてしまったようだ。


 「何をしている!!!!」


 ホールを劈くような怒声と共に現れたのは指導官を務めていたザックだった。

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