02-14.メルカとのひと時
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全員の準備が整い朝食を食べながら談笑する。昨日の話をした事で少し三人とダン達の間が近くなったようにも感じられた。ノーラもジョバルも元創竜の翼のメンバーだったと言う事を教えてくれてた。二人も創竜の翼に所属していた頃に貴族になる機会はあったそうだが、二人はオーレルに間に入ってもらって失礼のないように断り、それを理由に創竜の翼を抜け結婚しこの宿を始めたのだそうだ。
この話にはルチアが「素敵!」と感動しきりだった。身寄りの無いルチアにとっては冒険者を続けていく中で自分の家族を作っていったノーラとジョバルに憧れのようなものがあるのだろう。ノーラはその話になると普段の威勢のいい顔は消え去り恥ずかしそうに奥へ引っ込んでいった。ジョバルはルチアに質問攻めにあっていたが、照れる事無く答えていた。リックは冒険者としての経験と収入を捨てて宿屋をする事に怖さは無かったかと質問した。するとジョエルは
「俺たちのように王国内の色んな場所へ行き、その土地土地の宿にも泊まってきた。冒険者が宿に対して求めている物を商人たちよりは理解出来ているつもりだ。それに商売のアドバイスはダンから貰えたしな。」
聞けばダンの実家は大きな商会らしく、ダンも幼い頃は店を手伝っていたのだと言う。そしてジョバル達が宿を開くときに実家に頼み商売に詳しい者を助言できる形で手伝わせていたようだ。ダンがこれまで予定を組んだり様々な事の調整をしてくれてそれが得意な理由が分かった。
その後、一行は宿のすぐ近くにある銀行へ三人の口座残高を確認するために訪れた。昨日あのような事はあったが、その後ちゃんと納品依頼は済ませてきている。その分の達成報酬も口座に入金されているはずだから、残高を確認して装備を購入するかどうかを決めようとなった。
銀行内のホールには左右にいくつかの小さな小部屋があり、ホール奥にカウンターがあって職員達が並んでいる。ダンは三人を右側の小部屋の一つに連れていく。その小部屋の中には台座とボードがあり、台座にはタグを置けるようなくぼみがある。
「そのくぼみに登録証のタグを置くと、目の前のそのボードに残高が表示されるから。」
「お金を引き出したい場合はどうするのですか?」
「その場合は面倒だけどカウンターで下ろしてもらう必要があるね。でもね、ほとんどのお店やギルドでのお金のやり取りはタグで出来るからお金を引き出す必要はほとんどないよ。」
「そうなんですか?」
「うん。お金を引き出して持ち歩く事があるとすればレミト村とかのギルド支所や銀行が無いような場所だったり、街や村とは離れた場所で商売してる人達の所へ仕入れに行ったりする時だけかな。だから、街中でお金を硬貨で持ってる人はほとんどいないね。強盗や追いはぎもほぼ街の外での被害だね。」
三人はそれを聞いて安心した。現段階では外に出るにも街の中でもほぼダン達が同行してくれているし、もし何かの形でタグを盗まれてもお金を引き出すには本人確認が必要だ。ここでの本人確認には血の照合を行う為、他人はお金を引き出せない。体の一部や血を抜き取って等と考えても先ほどのダンの説明通りお金を引き出すのはカウンターで職員の前でしか行えないので、そう言った小細工はすぐにバレてしまう。
まずはリックがタグを台座の上に置く。するとボードに『38,000JEM』と表示される。リックがダンの方を見るとダンは笑顔で説明してくれる。
「リックの残高は38000ジェムだね。二度の納品でこの金額は鉄ランクでは凄い事なんだよ?」
「そうなんですか?」
「もちろん。だってこれを3日に一度のペースで行ってごらん。それ以外の日は魔物討伐依頼や体を休める事に使ったとしても、ざっくりで1か月で40万ジェム近い収入だよ。それが3人。生活費を出し合って1か月宿を抑えたとしても貯蓄していける収入だよ。はっきり言って銅ランクの下位よりは収入は多いだろうね。」
「そうなのか。へへへへ。」
リックは満足そうにタグを取り外し、今度はルチアがタグを置く。するとボードには『42,000JEM』と表示される。それを見てリックは不満そうにルチアに絡む。
「どうして同じ納品の数だったのにルチアの方が多いんだよぉ。」
「リック。ギルドの職員さんの話をちゃんと聞いてなかったのね。採取の仕方が綺麗で状態も良いから採取ボーナスを付けるって言ってたじゃない。」
「あっ、そう言えば・・・」
「そうだね。これは植物素材だけに関わらず魔物の討伐部位の納品時にも言える事だから、普段から気を付けて採取・解体の技術は磨いておくと良いよ。」
ルチアは満足そうにタグを仕舞う。最後にエルがタグを置く。ボードには『315,000JEM』の表示。この表示を見てエル達3人は驚く。しかし、ダンとジュリアは驚いた様子はない。3人を見てクスクスと楽しそうだ。
「エル。これが幻霧の森の素材の貴重さの表れだよ。これだけの金額が動くから昨日の職員はエルの納品を怪しいと思ったんだろうね。まぁ、エルに尋ねる前にちゃんと調べるべきだったけどね。」
商業ギルドに記録されている納品履歴を見れば、エルは一度エルボアの店に同等の素材を納品している履歴があったはずだ。それを確認もせずエルを疑った事が今回の騒動に繋がったと言う訳だ。
「すげぇなぁ!エル。これだったら植物素材の納品だけで生活出来るじゃないか。」
「まぁ、確かにそれも可能だろうけど、そうなるとエルはずっと森とワックルトの往復をしなければならなくなる。儲けは出るけど依頼の選択肢は狭くなって他の成長が遅れてしまう可能性はあるね。」
「そっかぁ!確かに冒険者として色んな依頼したいもんなぁ。」
「まぁ、そこはエル君とリックと3人で相談して決めていこうよ。」
「そうだな!それで良いか?エル。」
「もちろん。3人でちゃんと話し合いながら決めていこう。」
ジュリアは3人の雰囲気に頼もしさを感じていた。冒険者パーティーと言う物は得てして実力がある者や決定権を持つ者が判断を独占する事が多い。戦闘の中であればそれで良いのだが、活動全体がそうなると余程決定権を持つ者が周りの意見を汲み取れる人物で無ければ、他のメンバーは不満を抱えてしまう。そう言った事でせっかくランクを上げて来たのに途中でパーティーを分けたり、最悪解散となる事も珍しくない。
そんな中で3人が今の段階からしっかり3人の意見をお互いに汲み取ろうとしている姿勢は今後に期待が持てる。きっとパーティーは今よりも人数を増やす時が訪れる。その時も後から入るメンバーが今の3人のやり方を見れば自分の意見を言いやすいし、相手の意見を聞くと言う癖を付けやすい。
「じゃあ、確認も終わったし講習会を受けにギルドへ行こうか。」
「「「はい!」」」
冒険者ギルドのホールにいる冒険者の数はいつもより少なめだった。やはり朝の早い時間帯が一番賑わっているのだろう。エルが先頭となってカウンターへ3人は向かう。対応してくれたのはサレンだった。講習会を受けたい旨を伝えると、一時間半後にあるからそれまでホールか食堂スペースで待機してもらって構わないと言われた。
そこでダンがエルの事も含めてギルドマスターに報告をしたいとメルカの予定を聞く。するとこのまま案内できるとの事でエル達も含めて2階のギルドマスターの部屋へと通された。メルカは一行を迎え入れソファへと座らせる。ダンはメルカに昨日の一件を話し、エルに身分を明かした経緯を説明する。それを聞き終えメルカがエルに頭を下げ話し始める。
「身分を隠していたと言うのであればエルに対してそれを黙っていた冒険者ギルド・商業ギルドの職員・マスターも同罪であろう。私もそれが良策だと思っていた。しかし、エルの気持ちを考えておらなんだな。本当にすまん。エルよ。」
「いっ・・いえ!!もう今は全然!分かった時はビックリしてちょっと受け止めるのが怖かったですけど、ダンさんやジュリアさんもちゃんと時間をかけて説明してくれましたから。もう大丈夫です。」
「そうか。私も事情は知っていただけにエルにはすまない事をした。」
ダンの報告が終わると講習会までまだ少し時間があると言う事でジュリアがルチアに声をかける。
「ルチアさん。メルカ様にお聞きしたい事があるのではなかったでしたか?せっかくでしたらこの機会に聞いてみてはいかがですか?」
「ほう。ルチア、何を知りたい。」
「はい。今はまだ魔力循環と魔力操作を訓練しているので風魔法は覚えていないんですが、以前にメルカ様が風魔法を弓の戦いに活かすと良いとおっしゃってたんですがその後自分でも色々考えてみたんですがどうやって魔法で弓の戦いを活かすと言うのかが分からなくて・・・」
「ふむ。なるほどな。ではな、私の言葉を頭の中で想像してごらん。」
そこでルチアに話したのは弓はどうすれば威力や命中率が増すか、と言う事だった。力強く引けば当然威力は上がるし弦の張りを強くすれば矢を強く打ち出せる。しかし、それは矢のコントロールをする事の難易度が非常に高くなってしまう。強く引いていると言う事は腕にいつも以上に力が入っていると言う事で、当然慣れるまでは腕が震える。射出時にはごく僅かのズレでも目標に到達する頃には大きなズレになってしまう。
そこを魔法で補うのだ。例えば風で矢の軌道を変える、矢の後押しをして威力を高める、などだ。魔法の鍛錬が上手く進めば矢を放ちながら風の刃を飛ばし、相手に魔法防御と物理防御を同時にさせると言う高度な戦術も出来るようになる。
まだまだそこまでの技術は先の話ではあるが、今のルチアのように何度も何度も自分で試行錯誤する事が大事だとメルカは説く。その上でルチアの利点を最大限に活かすようアドバイスする。
「良いかルチア。今のルチア達の最大の利点はこれほどまでのメンバーにアドバイスと稽古をつけてもらえると言う環境にある。魔法はジュリア、剣術ならレオとジョバル、生産面はサーム殿、そしてルチアの得意な弓ならばノーラは恐らく現役を離れた今ですらワックルトでは上位の実力の持ち主だ。」
ノーラが冒険者として現役の時は弓術士として名を馳せた。狸人族は力が強く、察知能力に長けている。なので普通は近接戦闘のジョブに就く事が多いのだが、パーティーとして成長するに従い遠距離攻撃の充実を図る中でノーラがその役割に回った。すると、その才能は一気に開花しパーティーの戦力を大いに向上させる結果となった。
ルチアは宿での稽古の時はノーラに指導を仰ぐ。巡り合わせであるかのように同じ狸人族で、ルチアは今の段階でスキルだけで言えばノーラ以上のスキルを手に入れた。それを聞いたノーラが自分以上の弓術士に育て上げて見せると自ら指導を名乗り出てくれた。
ノーラと共に稽古出来る時間は短い。だからこそ村に帰ってから出来る訓練法をいくつも教わった。まだ指導は始まったばかり。これからの伸びしろに期待しかない。
「ノーラは風魔法は使えなかった。だからと言ってノーラのように戦えないと言う訳ではない。ノーラとは違った戦い方が出来ると言う選択肢があるんだ。それは指導するノーラも理解してるだろう。しかし、大切なのはルチア自身が学び鍛える中で常に前向きに課題に取り組むと言う事だよ。」
「はい。」
「私のようにギルドマスターの地位にある者が一人の冒険者に肩入れするのはあまり褒められた事では無いからね。大っぴらに出来ないけれど、ジュリアから風魔法習得の許可が下りたら一度顔を出しなさい。すこし指導とまではいかないが教えられる事があるはずだ。」
「ありがとうございます!!」
どう言った形であれ、この辺境都市に優秀な冒険者が増える事は悪い事では無い。それをしようとして様々な問題が発生するがそれを処理するのはサレンである。本当に長い間の付き合いでその辺の連携はサレンが心得ている。傍から見れば損な役回りと言えるが、サレン自身はメルカの役に立てる事に喜びを感じているので余計な心配と言える。
ともあれエルとの事の報告も済み、ルチアの相談も無事に終わったので一行は講習会を受けるべく一階へと移動する。しばらくすると講習会を受講する者が呼ばれ大きな会議室へと案内される。部屋の中には3人の他に10人程の冒険者がおりエル達が最年少のようだ。
他の冒険者からジロジロとした視線を送られながら3人は並んで席を取る。
そして指導官が中へと入って来た。鍛え上げられた体は圧倒感があるが表情は落ち着きを感じる。3人はまさかこの人物に驚きを隠せない。
会議室の上座にたったのは、ザックだった。
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あまり気になってはいないかも知れませんが、現在は走竜2頭はオーレルと共に王都に行っております。レオ達が森で暮らし始めた事で森狸の寝床で預かっていましたが、今回のオーレルの王都訪問で共に行動しております。




