02-01.小さな冒険
いつもお読みいただきありがとうございます。この話から第二章に入ります。何度も読み直しながら色々と試していく形になりそうです。またご意見等もいただけると助かります。
まだ朝の陽が昇りきらない早朝にエルの一日は始まる。小屋の前にあるテラススペースにごろんと横になり、深呼吸を繰り返しながら魔力循環を試みる。自分の中にある魔力を体全体に巡らせていく。温かな魔力がエルの体の中をゆっくりと巡り始める。その速度を速めて見たり遅くしてみたりして自分の思い通りに魔力が流せるように繰り返す。そんなエルの横でポムが体を伸ばしたりエルのお腹に乗っかったりしてリラックスムード。そんな時間が半時間ほど続く。
循環の練習が終わると、ライトの魔法を発動させて今度は魔力操作の訓練だ。ライトの明るさを強めたり弱めたりしながらその光球を自分の傍から離したり近づけたりする。光球を離して操作する事は目の前で操作するよりも魔力の練り方が難しい。だからこそ急ぐことなくゆっくり丁寧に魔力を練り上げる。この二つの訓練に朝と夕方に一時間づつ時間を費やす。
「おっ!おはようエル。早いな!」
エルは光球を維持したままレオの挨拶に答える。
「おはよう!レオ。今日はワックルト行ける日だし、楽しみで早く目が覚めちゃった。」
「ははは!まぁ、今日までレミト村までしか行ってなかったからな。初めてワックルトに行ってから三か月経ってるしな。そろそろ顔出しとかないと真っ赤な顔してオーレルが怒鳴り込んで来そうだ。」
「オーレル様に会えるの楽しみだなぁ。ボアの皮のなめし方を聞きたいんだ!何か上手くいかなくて。」
「オーレルはその辺は超得意分野だからな!嬉しそうに話してくれるよ。きっと。」
初めてのワックルトから森の小屋に戻って早三か月。その間、毎日のように魔力循環・操作の練習を繰り返し、サームから教わる薬学や錬金術の内容も少し専門的な内容になってきた。しかし、まだ調合などは教わっていない。しっかりとした基礎知識を学んでから、と言うのがサームとエルボアの育成方針らしい。
しかし、エルからするとその基礎知識ですら、もちろん新しく、学ぶ事は本当に楽しかった。森への採取に出る際はレオやダンもサームと共に付き添ってくれる事が多く、今までよりも少し離れた場所まで採取に行けるようになり採れる種類は格段に増えた。これにはサームも喜んでおり、素材として納品出来る物の種類が増えてギルドにも喜ばれているようだ。
授かったスキルだが『万物鑑定』に関してはまだ授かったばかりで熟練度が低く鑑定出来るのは名前・種別と簡単な説明だけだった。スキルの発動条件は「これはなんだろう?」と思いながら植物や物質を見るだけだった。好奇心旺盛で様々な事に興味のあるエルだから、はっきり言えば常に鑑定スキルを発動しているような状態だ。
【効率化】に関してはやはりまだ何も分かっていない。何かを効率的にしてくれるのかも知れないが、それがスキルによるものなのか成長や慣れによってのものなのかの判断が付かない。これに関してはまだまだ模索が続きそうだ。
レオは少し準備運動をしたかと思うと素振り用の大剣を持ち出しゆっくりゆっくりと振り始めた。エルはこのレオの素振りを見るのが本当に好きだった。最初は自分の今日の体調や振りに違和感がないかどうか確かめるようにゆっくりゆっくりと振っているが、段々とその振りに鋭さが増してくる。剣を振ったり方向を変える時に鍛えあげられたレオの全身の筋肉がグワッと膨れ上がる。最後は大きく振りかぶり一気に振り下ろし地面擦れ擦れでビタッと止める。その一部始終を見落とさぬようにとエルは真剣に見つめる。
「・・・ふぅ!エル、ちょっと打ち込み受けてやるよ。」
「良いの!!??」
「あんまりやり過ぎると森の中で歩けなくなるからちょっとだけな。」
「やった!」
エルは小屋の入り口に立てかけている木剣を握りレオの前に立つ。レオもエルと同じサイズの木剣を持っており片手で構えてエルに向き合う。エルは両手で柄を握り剣先をレオに向けて隙を伺う。レオはジリッジリッと間合いを詰めてくる。その間合いが近付き過ぎないようにエルは逆に間合いを開けていく。
エルはそんな間合いから一気に右へ飛び退きレオの剣先が自分から外れた瞬間に一気に間合いを詰めてレオの左側から横一文字に斬りつける。しかしレオは体を反転させながらクッと肘を引いて木剣でエルの木剣を受け流すようにする。力いっぱい横に振り抜いた木剣を受け流された事でエルは態勢を崩されて前のめりになる。それを見逃さずレオは流れたエルの木剣に上から自分の木剣を当てる。それによってエルの手は痺れ、木剣を落としてしまう。エルが痛みに耐える瞬間にレオの木剣がエルの首筋にあった。
「参りました・・・」
「間合いの計り方は良かったな。でも、自分よりも体の大きい人間に力勝負はするべきじゃないな。エルの今の長所は何だ?」
「小さい事・・・」
自分で言っていて情けなくなる。体が小さくまだ力もない。鍛えられたレオからすれば敵にもならない。自分の非力さが時々嫌になる。
「そうだ。今のエルが成長途中である事が戦いの中で長所になる事もある。」
「・・・そうなの?」
「そうだ。実際、俺の構えから外れて間合いを詰められるだけの速さを手に入れてるじゃないか。これは体が育てば失われていきやすいものだから、維持するのは本当に難しい。今の長所を生かすためにはどうすれば良いのか考える事も大事だぞ。」
「長所を生かす。」
「そうだ。相手よりも力が弱く速さがあるならその速さの優劣を更に広げてしまえばいい。どう言う戦法が考えられる?普段教えてるのは?」
「えっと・・・相手の視力を奪う、相手の機動力を奪う。だから・・・あっ!さっきの攻撃も横に斬るんじゃなくて顔とかにいくように見せておいて足を狙うとか太ももを切るとかすれば相手の動きを鈍らせれるのか!」
「そうだ!分かってるじゃないか!戦いの場と言うのはどんなに頭に詰め込んだ知識も吹っ飛んじまうくらい冷静さを失うもんだ。だからな、難しいかも知れないが冷静さを失わない事を心掛けろ。仲間が傷付けられようがどんな絶望に追い込まれようが、冷静に周りの状況を読み続ける事だ。まぁ、その戦い方はダンが一番得意だから今度また聞いてみると良い。」
「はい!ありがとうございました!」
エルは腰を折って深々と礼をする。その頭をぐりぐりと手荒く撫でてくれる。そうしているとサームの小屋にある一周り大きい小屋から声がする。
「今日はワックルトに行くと言うのに朝から稽古ですか!疲れたら歩けなくなっちゃいますよ!エル様、汗を流して着替えてくださいね。レオも!準備してください!」
「はいはい!ほら、エル。行こうぜ!」
ジュリアの声に二人はいたずらを注意された子供のように笑いながら井戸まで駆けていった。この井戸はジュリアの水魔法によって水脈を見つけてダンとレオが掘ってくれた物だ。今まで川まで何往復もしていたし、サームもあまり得意ではない水魔法を使っていたので本当に助かっている。レオは井戸から水を引き上げ桶をエルの頭の上でひっくり返す。ザバァッ!と頭から浴びた水は気持ちいい。レオも同じく頭から水を被り頭を振る。
「エルも少し体力付いてきたな。今回はワックルトで少し時間があるから用水路の清掃依頼受けてみるか?」
「受けたい!!!」
「良し!まぁ、ダンに相談してからだな。今回はジュリアとサム爺は留守番だからな。あんまり予定外の事をすると叱られちまう。」
「分かった!」
ここまでの三か月間、エルは二度レミト村を訪れている。道中で野営の仕方を覚えたり小型動物を捕まえる為の罠の作り方や設置方法をダンから習ったり、レミト村では孤児院の年長組と共にダンから剣術を教わったりもした。孤児院のリックもエルと共にレオから剣術を教わっており、冒険者になりたいとレオに話していた。レオ達と一緒に生活して指導してもらえているエルを羨ましがっていた。
今回はまずレミト村を目指し、レミト村で一泊。その後ワックルトへ向かい、買い物やエルボアに現状の勉強の進み具合の報告などが主な予定だった。予定の割りには日程は緩めに組まれていた。なので、冒険者ギルドの依頼を受けて見たり商業ギルドの納品依頼も受けてみる予定にしていた。
本格的なエルの新生活のスタートが始まる。それはレオ達の中にも若干の緊張感と嬉しさが入り混じっていた。この三か月間、エルは本当に真面目に日々の勉強と鍛錬に取り組んでいた。弱々しかった体も少し筋肉が付き、考え方や性格が少し前向きになってきたようにも感じる。そして何よりたった三回の訪問ではあるが、孤児院でたくさんの同世代の子供達と交流出来ている事が大人ばかりと生活しているエルにとって非常に大きな経験になっていると感じている。それはリックと言う年齢の近い友人も出来た事も大きく関係しており、その事でエルの鍛錬にもより身が入っているとジュリアやレオは感じていた。
朝食が終わりダンの準備も整うと、エルは少し大きめのリュックを背負い小屋の前で皆を待つ。今回からはエル自身の荷物に関してはダン達がマジックポーチで預かる事は止め、エル自身に運ばせる訓練も始める事にした。この事にはジュリアは少し反対の意を見せたが、ダンとレオが冒険者として間もなく活動を始めるならこう言った事も慣れていかなくてはならないと説得し今回からその形になった。
「エル様、意外にリュックの荷物は自分の動きを制限して疲れも溜まります。ダンやレオが魔物を察知した際にはまずリュックを投げ捨てて身軽になってください。」
「はい。分かりました。」
「エル。久しぶりのワックルトじゃ。たくさんの事をまた感じてきなさい。あと、オーレル殿とエルボアに宜しく伝えてくれ。」
「畏まりました。お師匠様。」
ダンとレオ、エルの三人はまずレミト村を目指し、森の中を進んでいく。今までのように道中で薬草や素材植物の採取や観察を行う事は無い。ダンとレオの方針で今回からは冒険者としての遠征の仕方を学ぶと言う目的がある。それにレオ達と暮らし始めてから採取のエリアが広がった事もあり、それほど珍しい種類を見かけないと言うのもある。エルはダンを先頭、レオを殿に挟まれながら周りに注意を払う。
「エルくん、こういった時に森の中で生活していると言う優位性が生きるよ。普段の森と違う雰囲気を感じ取れる事も索敵などには役に立つしスキル獲得の近道でもあるからね。」
「はい。以前にもダンさんに教わりましたが、こういった索敵などのスキルは恩恵で得やすいと習いました。」
「そうだね。他のスキルに比べれば非常に獲得しやすいと思うよ。」
索敵・気配察知などのいわゆる斥候役に必須と言われるスキルは遠征の度に常に使っているスキルで、スキルを得る以前でも似た状態を維持して遠征し続ける事から冒険者の中では比較的得やすいスキルではある。しかし、そこから熟練度を上げてより効果を向上させるにはなかなか大変なスキルでもある。なのでそのスキルがトップクラスに熟練しているダンのアドバイスはエルには非常に参考になる。
スキルが無くてもスキルの効果と同じような鍛錬(例えば気配察知であれば、周りの物音に注意する・暗闇を注視し続けるなど)を続けていく事によって、そのスキルを得る為の経験を積み続けていると考えればいい。なのでエルも小屋から採取に出る際は周りを注意深く観察する癖が身に付いた。
森の中で一泊する際もテントの張り方や結界石の置く場所のアドバイス、結界石を購入するにはどれだけの収入が必要か、効果はどれくらい維持されるのか等、今までは習わなかった実践的なアドバイスを多く聞けた。エルはそれを真剣に聞き、夜テントに入ってから持ち運んでいる木版に書き記す。羊皮紙やパルプ紙は非常に高く、エルがメモ書きとして使うにはまだもったいない。なので木版に書き留め、記憶したら表面を削り新しい事を書き込むようにしていた。
さすがにまだ徹夜での火の番には参加しない。と言うのも新人冒険者が野営をして依頼をこなし始めるのは銅ランクから銀ランクへ上がるか上がらないかくらいの頃からで銅ランクの内は日帰り出来る範囲での依頼がほとんどなのだ。なのでまだ野営の事を学んでも実際に火の番に参加させると明日からの移動に差し障るだろうとの判断だ。
朝早く目覚めテントの外で軽く木剣を素振りし、自分の荷物をいち早くまとめる。これは誰に言われるでもなく行動出来ている事はダンにもレオにも褒めてもらえた。特に幻霧の森でなくても森の中で野営する場合は太陽が出始め、ある程度視界が確保出来れば早めに移動する事が賢い。同じ場所にずっと居続ける事はそれだけ魔物に襲われるリスクが高くなる。
こうして森の中と草原で二泊し三日目の昼に無事レミト村へと到着した。レミト村へ来た時に必ず世話になる唯一の宿屋『レミト』に宿を取る。この村の面白いのは道具屋も素材屋も宿もたった一軒づつしかないので全ての店名が「レミト」なのだ。村人の中でも「道具屋」とか「〇〇さんトコ」など店名で呼ぶ習慣がない為、州都やギルドへの営業許可を取る際に面倒なのでレミトにしてしまったらしい。
「奥さぁ~ん!今回も世話になるよぉ!」
「あらあらぁ!レオさん、ダンさん。あれ?今回はエルくんも一緒?じゃぁ、三人部屋で良いですかねぇ。」
「頼むよ。今回は一泊してワックルトからの帰りにまた一泊する予定だから。」
「分かりました。いつもありがとうございますねぇ。はい。これ鍵ね。」
鍵を受け取り部屋に入って荷物を下ろす。ふっと体への負荷がなくなり、思わずため息が漏れる。
「疲れたか?でも、良いペースで歩けてたし上々だな。」
「そうだね。体力は問題なく付いてきてるよ。エルくん。」
「はい!!」
嬉しい言葉だった。日々の鍛錬が無駄ではないと実感できる。
「さぁ、孤児院に顔出しに行くか!」
「うん!!」
友人達との久しぶりの一か月ぶりの再会にエルの心は躍っていた。
誤字脱字ありましたらご指摘お願いします。今、各キャラクター目線での場面変化にするかどうか悩んでおります。その方が細かい心情の変化を書けるのかなぁとか。まぁ、そうなると大幅にストック書き換えになるので震えますが。(笑)
評価・良いね・ブックマーク、本当にありがとうございます。今後とも温かく見守っていただけたら幸せです。




