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錬金術の森~未成年孤児エルの半生~  作者: 一仙
第一章 森の迷い子
35/97

35.ユニークスキル

いつもお読みいただきありがとうございます。

 ジュリアに連れられて孤児院の外に出てきたエル。外の広場では十数名の子供たちがワイワイと遊んでいた。その中にいた年長の男の子がエルの方へ走って来る。見た目から年齢もエルに近そうだ。

 少年はエルの前で真剣な顔で話しかけてきた。


 「お前、この孤児院で住むのか?」


 ぶっきらぼうな言葉にビックリするエル。どう答えていいか分からず、隣にいるジュリアの顔を見上げてみると笑顔でそっと背中に手を添えてくれた。エルは少年と向き合う。


 「ううん。シスター様に頼みごとがあって来ただけだよ。」

 「そうか。また子供が連れてこられたのかと思ったんだ。ごめん。」

 「ううん。大丈夫。」


 二人はそのまま下を向いて黙ってしまう。話す事も無いし、離れていくのも違う気がしてどうして良いか分からない。助け船はジュリアから出された。


 「こんにちは。はじめまして。ジュリアと言います。こちらはエルさんです。お名前聞いても良いですか?」


 少年は明らかに赤面してドギマギしている。ジュリアのような綺麗な女性に話しかけられれば緊張しない訳がない。少年は緊張しながらもジュリアの問いに答える。


 「あっ!僕はリックです。この孤児院にいる子供で一番年上で・・・」

 「そうですか。だからエルさんに話しかけてくれたんですね。普段から他の子達の面倒も見ているのですか?」

 「うん。全部シスターにお願いしたら大変だから・・・遊び相手くらいは俺にも出来るし・・・」

 「そうですか・・・では、リックさん、エルさんも一緒に遊んでもらっても良いですか?」

 「えっ!・・・良いよ。行くか?」

 「・・・・良いの?」

 「かけっこ好きか?」

 「やった事ないんだ・・・」


 同い年どころか子供同士で遊んだ記憶などないエルは寂しそうに俯く。するとリックは満面の笑みでエルの手を引く。


 「なんだ!じゃぁ、やってみよう!来いよ。」


 手を引かれながらエルはジュリアの方を振り向く。ジュリアは本当に楽しそうな笑顔でエルに微笑みかけている。エルは遊んで良いんだと理解し、リックに引かれていく。


 (エル様には今までに経験出来ていない事がたくさんある。この孤児院の子供達と触れ合う事でエル様の心に良い変化があると良いのだけど・・・)


 広場でエルは他の子供達と一緒に走り始めた。何人かが横一列になって合図で一斉に走り始める。少し戸惑っているような表情のエルはそれでも一生懸命走っていた。走り切るとさきほどの少年リックがエルにハイタッチをする。エルは驚いた様子だが楽しそうに「足早いね!」と話しかけてくる幼い子たちに囲まれて少し楽しそうに見えた。

 きっとこう言った何気ない経験が今のエルには圧倒的に足りていない。錬金術や薬学・魔導学の勉強も確かに大事だが、エルが本当に必要としているのはこう言ったありふれた日常の経験なのではないか。ジュリアはこう言った経験をたくさん見つけてあげたいと思った。


 今度はエルが小さい女の子をおんぶして広場をゆっくり歩きながら女の子と話をしているようだ。エルも女の子も終始笑顔で話が弾んでいるようだ。しばらく歩いた後、広場に座り話を続ける。そこに他の子達が集まり始めエルはあっという間に囲まれてしまっていた。そんなエルの様子を幸せそうにジュリアは眺めていた。


 孤児院の中からシスターと一行が姿を現す。子供たちは一斉にシスターの元へ駆け寄っていく。中には数名がレオの元へも駆け寄っていたが、もしかすると昨日来訪した時に交流があったのかも知れない。エミルは子供たちを落ち着かせて話を聞かせる。


 「はい。皆さん。こちらは冒険者の皆さんですよ。大変ありがたい事に沢山の食材を寄付してくださいました。皆さんでお礼を言いましょう。」

 「「「「ありがとぉ~~ございますっっ!!!」」」」


 元気な声が広場を包む。子供たちは嬉しそうにしていた。するとエミルにリックが質問する。


 「シスター!その冒険者さんはエルの知り合い?」

 「そうですよ。エルさんのお兄さんお姉さんのような方達ですね。」


 するとリックは隣にいるエルに問いかける。


 「エル、親はいないのか?」

 「うん。僕は自分でも覚えてないくらい昔に捨てられたんだ。」

 「そうだったのか・・・良い人に会えて良かったな!」

 「うん!リックくん。また、遊びに来ても良い?」

 「リックっ!同い年なんだからくんなんていらねぇよ。俺もエルって呼んでるんだから。ほら!リックっ!」

 「・・・分かった。リック!」

 「へへへ!いつでも遊びに来いよ。」

 「ありがとう。」


 そんな二人のやりとりに皆笑顔だ。幼い子達もエルに近寄って「エル兄ちゃん」と早くも懐いている。子供達は恐る恐るサーム達に近寄っていく。サームもオーレルも目線を下げ優しい笑顔で子供たちを迎え入れる。たくさん交流して帰る頃にはサームのローブを掴んで「帰っちゃダメ」と寂しそうに見つめる子まで出てきたほどだった。

 一行は良い交流になって安心しながら孤児院を離れる。いったん宿に戻り、子供達と遊んでぐったりしているエルを休ませることになった。その帰り道でジュリアはエルと話していた。


 「エル様。孤児院の子供達と触れ合えて良かったですね。」

 「はい!楽しかったです。」

 「ほっほっほ!これから森で生活する中で何度もワックルトに訪れる機会がある。その道中の行きか帰りにこのレミト村に寄るようにするのも良いのではないか?子供達も冒険者やエルと会えるのは楽しみじゃろう。」

 「そうですね。そのように日程を組んでみるのも良いかも知れません。」


 そのまま一行は宿へと戻り、部屋に入ろうとしたがエルがサームに話があると部屋に集まる。

 三人部屋に一行が集まって話を聞く。エルは話しづらそうにしていた。サームがエルの気持ちを確かめる。


 「話しづらければ儂と二人でも構わんぞ。」

 「いえ、皆さんに聞いてほしいです。一人ではどうすれば良いのか分からないので。」


 エルがそう言うとダンはマジックポーチから丸い水晶玉に土台の付いた魔道具を取り出しテーブルの上に置く。この魔道具は魔道具を中心に一定の範囲の声をその範囲から外へ聞こえないようにする魔道具で、商業ギルドの二階などに設置されていたものと同じである。


 「エルくん。これで会話はこの部屋から外には漏れないから大丈夫だ。安心して。」

 「あっ・・ありがとうございます。実は・・・」


 サームはたった今孤児院でエミルから聞いた話を思い出していた。「エルは何か隠している」。それが自分の過去の事なのか。それとも自分達との生活に関する事なのか。ジッとエルの言葉を待った。


 「スキル恩恵の時の事なんです。」

 「ふむ。問題なく恩恵は授かれたと思っておったが、違うのか?」

 「実は・・・万物鑑定以外にもスキルを授かったのです。」


 そのエルの告白に一行はざわりと緊張感を高める。エルのスキル恩恵の結果はエミルの人物鑑定によって間違いないとの判断を終えたはずだ。人物鑑定で判定出来ないスキルがあったとでもいうのか。


 「何のスキルを授かったのじゃ。」

 「隠蔽と・・・・・・効率化と言うスキルです。」

 「効率化?・・・・」

 「隠蔽を得ていたから万物鑑定しかエミルさんは判別出来なかったんですね。」

 「隠蔽ってどんなスキルなんですか?」


 エルの質問にダンが答える。

 《隠蔽》とは自分の能力を他人から鑑定されるのを阻害出来るスキルで隠せる内容は人によって違う。と言うのもスキルは使い続ける事によって熟練度が増し、威力や効力が向上する。隠蔽は常に発動しているスキルなので普段生活しているだけでいつの間にか熟練度が上がっていて隠蔽出来る内容が増えていると言う事が多いようだ。と言う事は今のエルの隠蔽の熟練度では隠蔽と効率化を隠蔽出来ていると言う事だ。


 そこで全員が頭を悩ませたのが【効率化】の効果だった。何をどう効率化させるのか見当もつかない。何より効率化と言うスキルを聞いたことが無いのだ。推測も出来ない。そこで考えられる事とすれば


 「やはりユニークスキル・・・と言う事でしょうか。」

 「しか、考えられんのぉ・・・」

 「まさかユニークスキルとは。」


 ユニークスキルとは出現頻度の極めて少ないスキルで、ほとんどの場合がその者の職業や戦闘職、生活に密接した内容のスキルになっており戦闘職用のユニークスキル【氷龍の息吹】は自身の魔力の半分を使い自分に敵意を持つ者へ氷の吹雪を叩きつけると言う超広域攻撃魔法。ジュリアのユニークスキルであり、彼女が『氷龍の魔導師』の二つ名を持つきっかけとなったスキルでもある。


 ダン・ジュリアの説明を真剣に聞くエル。そうして自分が感じた疑問点を皆に投げかける。


 「ジュリアさんもユニークスキルを手に入れた時はどう言うスキルか分かりませんでしたか?」

 「そうですね。他の同じ名前のスキルを持った事のある人の記録もありませんでしたし、成長の声はそこまで説明してくれる訳でもありませんから。でも、私の場合はスキルの名前である程度はどのようなものなのかと言う予想は付ける事が出来ました。私は水属性が得意でその上位属性の氷属性も当然得意でした。そして龍の息吹と言う名前から龍の得意技であるブレスのようなモノだろうと。そこからイメージを固めていって、あとは練習あるのみでした。」

 「この魔法がユニークスキルで間違いないと思えたのはどう言う時だったんですか?だって、魔法使っている中で正解が分かっている訳ではないんですよね?」

 「そうですね。私の場合は魔法を使った時に今までに感じた事のない程自分の魔力が抜けていく感覚を覚えたんです。それはユニークスキルを試行錯誤している期間でも感じた事のないものでした。そしてその魔力の抜けを感じた魔法が今までの自分の氷魔法の中で比較にならない程の威力だったんです。それが判断材料でした。」

 「なるほど・・ありがとうございます。」


 効率化の名前だけではどう言ったスキルなのかは分かりそうもない。


 「それにそのスキルが鑑定のように自ら発動させるものなのか、隠蔽のように発動しっぱなしなのかも分かんねぇからなぁ。これはまぁ生活していく中で見つけていくしかないんじゃないか?あまり楽観的でもダメだろうけど、名前だけで判断すれば他人に危害を加えそうな感じもしないしな。」

 「レオの言う事も一理あるのぉ。あまりにスキルの意味に捉われ過ぎるのも良くないじゃろう。今はそれを頭の片隅に置いて生活していくしかないじゃろうなぁ。」


 エルは成長の声が教えてくれた事も皆に伝える。万物鑑定は構わないが効率化は無暗に人に話してはいけないと言われた事だ。それを聞いて皆はまた驚く。


 「成長の声で授かったスキル以外の事を伝えてくるなんて聞いた事も無い。」

 「そうじゃのぉ。しかし、成長の声がそれに釘を刺すと言う事はエルにとって効率化の秘匿は必要だと言う事じゃろう。」

 「皆さんに話さないと言うのは僕の中ではありませんでした。でも、一人で隠しきれる気がしなくて。だから出来るだけ早く話しておいた方が良いと思って。」

 「そう判断して僕らを信用してくれたのは嬉しいよ。僕らもそれぞれで色んな記録やスキルに詳しい人達にそれとなく話を聞いてみる事は出来るから。大丈夫。このスキルを身に着けたからと言ってすぐにエルくんに危険があるって事はないだろうし、僕らがこれからは一緒に暮らすんだからサーム様と二人で暮らしているよりは色んな事に対応し易くなるはずだよ。」

 「はい・・・そうですよね。ありがとうございます。」


 エルの相談から始まったこの話し合いはエルのユニークスキルらしき効率化に関しては現状誰にも話さないと言う事を共有し、明日に森へ戻る事に決まった。これ以上日程を伸ばすと次回の納品が遅くなる事もあるし、レオ達の家などの建築もあるからだ。本当に長く感じた。様々な経験をした。それは今までには経験出来なかったものばかりだった。

 明日から森へ戻る。エルの新しい生活の始まりが近付きつつあった。エルにはまだまだ分からない事だらけだが、これまで何度も聞いた言葉『焦らず学んでいく』だけだ。自分の目標への道はまだまだ遠い。それがどれほどの遠さなのかすら今のエルには分からない。それでも皆がいてくれる。今までのあの冷たい牢屋の生活とは違うのだ。

 夕食を終え、エルは部屋で休みダンやレオは村の雑貨屋や商店で森の生活で使う食材や細々とした物を買い出しに出かける。ジュリアはサームと話しながら今後のエルの指導方法等を話し合う。


 「ある程度の方針が決まったらエル様にもお伝えしてエル様自身のお考えも聞いてみた方が良いかと。」

 「そうじゃな。儂らの考えとエルの望みが違う方向を向いていてはいかんからの。」

 「そうじゃな。錬金術師・薬師はもちろん、あの魔力を考えれば魔導師と言う道もあろうし、ワシからすればあの着眼点と観察力があるならば政の事も習わせてみたい気はするのぉ。」

 「まだ様々にはっきりせん事が多すぎるが、とりあえずは着地点を見つけたと言う事かのぉ。」

 「あとはエル様自身がどうやって飛び立ちたいのかを見つけていく事ですね。わたくし達はそのお手伝いを出来れば。」


 少年が眠る中で大きく動き始める状況。明日、森へ戻る。

誤字脱字ありましたらご指摘お願いします。誤字報告ありがとうございます。訂正させていただきました。こういったご協力あって投稿を続けられております。

また評価・いいね・感想もお待ちしております。これからものんびり投稿してまいります。

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