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迷子のエルフ

晴天の空が晴れ渡り、太陽がさんさんと降り注ぐとある日の午後のこと。

人で賑わう大きな市場を、興味深げに見渡す、少年の姿があった。

少年の歳の頃は14~5歳ほどで、シルバーの髪を、低い位置でひとつに結ってる。ウサギのような赤い瞳と尖った長い耳が特徴的だ。

少年の名前はアーサーという。


(100年振りに街に降りてきたら様子が変わっていて、ワシびっくり)


石で舗装された道路や、そこら中に立っている街灯に、頑丈そうな武器を売る店、素晴らしい技術で繊細に丁寧に作られた緻密な工芸品が置かれた店などが、少年の知的好奇心を満たす。


(さて、堪能したし、そろそろ住処に戻るかの。ヴェルニカ山を目指して歩けばいつか着くじゃろ)


少年は大きな山目指しててくてく歩く。


***


(……中々着かないのう)


気づいたら日はどっぷり暮れて、夕方になっていた。少年の影は濃く落とされている。

アーサーはがっくしと肩を落として途方に暮れる。


(困ったのう……お、なんか呑気そうな女がいるの。あやつに声をかけよう)


「これ、そこの人の子よ。ヴェルニカ山へはどうやったら行けるのかの」


少年は、買い物帰りと見られる呑気そうな女性───恋文屋のりさに声をかけた。


「ヴェルニカ山ですか?この道まっすぐ行けば30分くらいで麓に着きますよ」

「ほう。なんじゃまっすぐ行くのであったか!礼を言う。」

「でも着く頃には真っ暗になるよ?お家の人心配するんじゃない?」

「ははは、何、わしは気楽な独り身じゃ。心配するものはいない」


笑い飛ばすアーサー。


「あっ……ごめんね、辛いこと聞いて」

「何、仲間は街に順応して、老いぼれのワシだけが意固地になって山に1人で住んでるというもの。お主は何も悪くないぞ」

「そう……ところで随分おじいちゃんみたいの話し方するんだね。僕いくつ?」

「ワシ?600歳じゃが」

「!?」


目を白黒させて驚くりさ。思わず買い物袋を落としてしまった。


「ワシ、エルフエルフ。長命種の」

「そ、それは大変失礼しました」


慌てて荷物を拾うりさ。

そんなりさに構わずアーサーは続ける。


「ははは、新鮮に驚いてくれて嬉しいのう。人の子よ、お主、名はなんという?」

「りさです。恋文屋で働いています」


そう言うと、アーサーは興味深げに頷いた。


「ほー、恋文屋?今はそんなのがあるんじゃの。これだから人間は面白い!あ、ワシの名前はアーサー!よろしくの。ではりさ、世話になった」


そつ言ってりさにくるりと背中を向け、ずんずん歩いていくアーサー。

りさは慌てて追いかけて叫ぶ。


「逆です逆!こっちの道をまっすぐ!」

「ははは、すまんのう」


(この人、ちゃんと1人で帰れるのかな)


りさは心配になる。


「あの、良かったら山の麓まで送りましょうか?」

「何、本当か?それは助かるのう。じゃがそうなると、お主が家に帰る頃には真っ暗になっておるぞ?危険では無いのか?」

「街灯が沢山ありますし、騎士団が警備しているので問題ありませんよ」

「ほう、この100年で治安は随分よくなったようじゃの。ワシ、驚き!ではお言葉に甘えるかの」


2人並んで山の麓目指して歩く。


「この辺も随分変わったものよのう」

「何年ぶりにここへ来られたんですか?」

「大体100年くらいかの」

「100……それはいやがおうにも変わりますね」

「魔術も発達して便利な世の中になったと見受ける。人の子ら、中々やるのう」


そう言うアーサーの横顔を見つめ、りさは遠慮がちに尋ねる。


「あのー、失礼だったらすみません。私エルフの方に会うの初めてで」

「なんじゃ、そうなのか?」

「長く生きるってどういう感じですか?人間のことやっぱり憐れむ感じでしょうか」


りさがそう聞くと、アーサーは


「そうじゃのう……」


と考えた。


「まぁなんか、短命すぎて笑えるとは思うの」

「あ、笑えるんですか」

「うむ。あとはそうじゃの、人間共は手先が器用じゃから、もっと生きれば面白いのにとは思うのう」

「なるほど」

「そうじゃなあ……あとは、どんなに可愛がってもすぐに死んでしまうのは悲しいのう…たった60年ぽっちで死ぬなんて…まだまだ赤子ではないか」


りさは、赤ちゃんの格好をした老人の姿を想像し、思わず吹き出す。


「うん?どうしたのじゃ、リサ」

「いえ、エルフの方って聞いてたよりも気さくなんだなと思いまして」

「まぁエルフにも色々あるからの。ワシがたまたまこういう性格なだけで、プライドが高く、すーぐ矢を射る物騒なやつもおる」

「ああ……エルフを一纏めにしちゃってゴメンなさい」

「よいよい!リサ、お前面白いのう!ワシお主を気に入ったぞ!」

「それはありがとうございます」


そんな風に話していたら山の麓についた。


「助かったぞ、りさ。今度きちんと礼をするからの」

「いえそんな、気にしないでください」

「それではワシの気が収まらぬ。今度恋文屋とやらに行くから、楽しみに待っておるのじゃぞ」

「はい、気長に待ってます」


じゃあのー!と言って山に消えるアーサー。

りさは、初めてエルフに会った興奮を必死で抑えながら、家に戻るのであった。


***


月が高く登り、星があたりを照らしている。一筋の星が流れたが、街の者は誰も気づかなかった。

ただ1人だけ、山に住むエルフだけがその星を目に捉えていた。

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いつも励みになっています。


新キャラのショタジジイはいかがでしたでしょうか。私は割と気に入ってます。

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