弱った男は正直萌える
どんよりとした曇り空のとある日
りさはインクを買いに、魔法ドコロにお使いに来ていた。
重いドアを開けてりさは明るく元気な声を出す。
「カロル―、きたよーいつものくださいなー」
そう言って奥にいるカロルを呼ぶと、いつもと様子の違う彼が姿を見せた。
足取りがフラフラしており、瞳は濡れ、顔が赤い。
「ああ、リサ。いらっしゃい……」
辛そうに声を絞り出すカロル。
「どうしたの!?カロル!」
「ちょっと熱っぽくて……自分で自分に魔法をかけることは出来ないから治せなくて。薬草を調合する体力も無くて……」
ごほごほとせき込むカロル。
「早くお医者さんに行きなよ!」
「やだ、医者嫌い。寝てれば治るか……ら……」
カロルがそう言うとばたりと冷たい床に倒れる。
「カロル!!」
小さく悲鳴をあげるりさ。
慌ててカロルの腕を自分の肩に回し、運ぼうとする。重いが、男性にしては小柄なので、非力なりさでも何とか運ぶことができた。
いつもの魔法陣のある部屋ではない、もう一つの部屋に入るりさ。以前カロルに
「この部屋何?」
と聞いたら
「僕の部屋」
と答えたのを覚えていた。
「お邪魔します」
りさは静かにそう言うと、部屋に入った。
その部屋は床には何冊もの魔法書が乱雑に置かれ、木製の机の上は薬草と小さな鍋が置かれている。小さなキッチンもあり、シンクは洗い物がたまっていた。壁には何着か同じようなローブがかかっていた。
部屋の隅にあるベッドに寝かせ、顔にかかった髪を優しく払うりさ。
カロルはうんうん唸っている。
「どうしよう、このまま放って帰るなんてできないよ」
りさは苦しそうなカロルをみてぽつりと呟いた。
***
カロルが目を覚ますと、なんだかいい香りがすることに気付いた。
(なんだろう、この香り)
ぼんやりした頭で考えると、りさが声をかける。
「あ、カロル。気づいた?」
「うん……ここまで運んでくれたの?ありがと」
「いいんだよ、弱ったときはお互い様だから。それよりカロル、これ食べられる?あ、勝手にキッチン借りてごめん」
りさがそう言うと、カロルは彼女の持っているお盆の上にある物をまじまじと見つめる。
黄色いみぞれ雪のようなそれは、摩り下ろしたりんごで、これまた薄い黄色のどろりとしたものは、玉子粥だった。
恐る恐る、小さく一口だけ口にするカロル。
「なにこれ、初めて食べたけどおいしいね」
堰を切ったようにどんどん食べ進めるカロル。
「口にあってよかった。これね、私が熱出すと、お母さんがいつも作ってくれたの」
「そう、いいお母さんだね」
そう言ってりさに小さく微笑みかけるカロルは、熱のせいで目が潤み、頬も赤くなっている。
そんなカロルの姿を見て、りさは少しドキッとした。
(ちょっと悪いけど弱ってる男の人ってなんかぐっとくるんだよな)
と、申し訳なさそうに笑った。
「この恩は、必ず返すよ」
「いいよ、カロルが元気になればそれで」
カロルから花ビラが舞う。照れた証拠だ。
「……すぐ治してお礼するから」
「いいっていってるのに」
少し元気になったカロルは、いつもの調子を取り戻していた。
一方その頃恋文屋サリューではケインがりさの帰りを心配しており、何かあったのではと、あとちょっとで王国騎士団に捜索願をだすところだった。
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