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そんな人に私はなりたい


曇天の空がヴェルニカ王国を包み込んでいるある日に、りさは王宮へ手紙の依頼を受けるため外出していた。


「フランツ、いつもありがとう」


りさは馬車の中で、王宮に行く日に必ず迎えに来てくれるフランツに礼を言う。


「気にするな、俺が好きでやってるからな。こうして七日に一度はりさとゆっくり話せる貴重な時間を作ることができたんだ。悪くないだろう」


そう笑うフランツから手紙を受け取った。


「今回は俺の番だからな。一生懸命書いたから読んでくれ」


その言葉にフフっと笑って手紙を大事そうにかばんにしまうりさ。


「今読まないのか?」


残念そうな顔でりさの顔を見るフランツ。王国騎士団長にはもっとしっかりしてもらいたいものだ。


「一生懸命書いてくれた手紙なんでしょ?大事にゆっくり読むよ」


とりさが言うとフランツは花がほころびそうなほど笑顔になった。


「そういえばヴィンセントさんから手紙を貰う日だな、今日」


思い出したようにぽつりと呟くりさを、フランツは見逃さなかった。


「リサはあんな奴と文通をしているのか?」


気に食わない、といった態度をあからさまにとる。


「なんか成り行きでそうなっちゃったんだよ。

私だってめんどくさいよ、一銭にもならないし。

それなら金貨くれるフランツとの文通のほうがまだやりがいがあるってものよ」


はあ~と深いため息をつくりさとは対照的に、一転して嬉しくなるフランツ。


「俺との文通はやりがいがあるのか?」

「まぁそりゃヴィンセントと比べたらね」

「つまり俺の方がヴィンセントより良いということだな?」

「そういうことになるねぇ」


りさがそう話すとあからさまにご機嫌になるフランツ。

そういえばヴィンセントとフランツは犬猿の仲だったことを今思い出した。

まずい話題を口にしてしまったなぁとりさは考える。

次からは気を付けようと心に固く誓ったのであった。


そうこうしている間に馬車が王宮へ着く。


「ではいつものように、用が済んだら鍛錬場に来てくれ」

「うん、そんなに待たせることはないと思うからよろしくね」


そう言って手を振り合い、二人はそれぞれの持ち場に向かっていった。


「ヴィンセントさん、こんにちは。いつものです」

「あぁ、貴女でしたか。もうそんな時期でしたか」


七日に一度、王宮にやってきて依頼書を受け取ることになっているのでヴィンセントともすっかり顔なじみだ。


「では依頼書と約束のお手紙をお渡しします」

机の引き出しから書類を取り出し、手渡しするヴィンセント。

ちらっと引き出しの中が見えたが、綺麗に整理整頓されていた。

(性格が出てるなぁ)とりさは小さく笑う。


***


まだ陽の高い内に帰ってこれてよかった、と馬車の窓から景色を見てそう思うりさ。

日照時間が長いと、なんだかウキウキする。

馬車を下り、送ってくれたフランツに礼を言ってりさは店に戻る。


「ただいまもどりました~」

「おかえり、リサ」


ケインが優しく出迎える。

依頼書の束をテーブルにトスンと置く。そして、ヴィンセントからの手紙を開封する。


「うわ、こりゃモテない字だな」

「勝手に読まないでくださいよ!」


ケインの言うように、汚い……いや、個性的な字で読むのに一苦労したが、書いている内容は大体わかった。


【リサ様


スライムの子が独り立ちする季節となりました。

リサ様はいかがお過ごしでしょうか。

私は、愚かな人間が余りにも多く、世を嘆いている次第です。

欲深く、人のものを簡単に奪い取ったり、暴食をきわめ、病人には冷たく。

多くの国民たちは素晴らしい者ばかりですが、そうでないものもいるのが事実。

どうすればよいのでしょう。リサ様のいた国の人たちはどのような人だったのでしょうか。


ヴィンセント】


愚かな国民を憂いている内容だった。あまりに彼らしい。

りさはウームと返事を考えていたが、ある有名な詩を思いついた。


「うん、これがぴったりじゃない?」


***


7日後。

リサが王宮に出向かう日だ。慣れたようにヴィンセントの部屋をノックする。


「こんにちは、りさです。お返事書いてきましたよ」

「そうですか、ご苦労様です」


ヴィンセントに手紙を渡すと、すぐに読まれてしまった。


「ふむ……この詩は?」

「私の国の有名な作家のものです」

「……感動した!!!」

「へっ?」


ヴィンセントは感激のあまり目頭を押さえている。

そ、そんなに!?やっぱあの作者さん、すごいな!

と感心するりさ。


「この詩をわが国民にも知らせるべきです! !意識が変わるはずです!」

「いや、どうだろう……著作権はとっくに切れてるから問題ないと思うけど…」

「リサ様!ありがとうございました! 今からお触れを立てても良いか国王に聞いてきます!」

それでは!と部屋を出ていくヴィンセントに、りさはぽかんと立ち尽くすしかなかったのだ。


***


「そんな面白いことになったんだね」

「あんなテンション高いヴィンセントさん、初めてみましたよ」


恋文屋に戻り、談笑する二人。手にはカモミールのお茶が入ったマグカップ握られている。


「で、どんなすごい詩なの?おじさんも興味あるな」

「ええとそうですねえ、

【雨ニモマケズ 風ニモマケズ

雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ 丈夫ナカラダヲモチ……】」


りさは有名な詩をそらんじて見せた。


「なんだリサ、急に呪文を唱えたのかと思ったよ」

「へへ、これ学校で習うので覚えちゃうんですよね」

「すごいな、りさは」


夕焼け空が優しく街を包み込む。鳥の親子が空を駆ける。もうすぐ夜がやってくる。

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