「act11 蘇生の真実」
二人が山裏に辿り着いた時には全ては終わっていて、そこに残っていたのは不自然に溶けている地面とその中心に意識を失ったまま立ち尽くしているガブリエルとそれを支えるウリエルの姿だった。おそらく彼女が暴走していたのを止めたところなのだろう。
「ま、マリン……!」
「キミ達か。一切合切解決、とはいかなかったがとりあえず我が妹の暴走くらいならオレでも止められることがわかった。今日の一番の収穫だな」
「やっぱり暴走してたのか。普通じゃないとは思ってたけど、いざ目の当たりにすると凄まじい魔力だった」
「我が妹の魔法暴走のことを知っていたか。キミ、思ったより信頼されてるな」
「そ、そうなのかな。イマイチ実感ないや」
「そうだろうとも。少なくとも我が妹が過去の話をしたというだけでオレの知っている中では最大の進展だ。なにせ、その話をしたくないのと後ろめたさで家を出た程だからな」
ははっ、と大声で笑っている横で微かに微笑んでいるようにも見える表情を見せたガブリエラを見て男二人もほっと息を吐く。それに遅れて後ろから歩いてきたのはラスティーナ。その姿を見るなりウリエルは露骨に不快感を表情に現した。
「ほら、心配いらないって言ったでしょう?」
「む、オマエか。何故姿を見せている、と言いたいがオレの魔法に巻き込まれないようにカレラを足止めしていたのだな」
「私に課せられた仕事は『彼らを守る』こと。別に姿を見せちゃいけないとは言われてないわけだしねー。しっかり契約は果たすわよ」
「……まあ、オレ自身はあまり心配していなかったがジイサマ達が過剰に怯えているのでな」
「私を守るためでもあるって? お優しいこと」
「人を見るなり舌なめずりする癖も止めた方がいい」
「善処しまーす」
「キミの実直なとこは割と好きだが」
「それは言葉通り受け取っていいのかしら?」
「勿論だめだ。今のは失言だったようだな」
険悪なのか親しいのかよくわからないような雰囲気で会話は続いていきそれを眺めるキールとガイナは互いに顔を見合わせて首をかしげることしかできていない。
自分達を守ることが契約、その内容通りに受け取るなら仕事かなにかだろうか。
「ウリエル、ラスティーナさんはタナトスとの戦いに参加しないのか?」
ガイナは先程本人から否定された質問をもう一度繰り返す。険悪な雰囲気を出しながらも直接依頼したといことは実力自体は確かなもので、それも昨日今日と証明されている。そのタナトスがどの程度のものかまだ詳しくは知らないが少しでも戦力があるに越したことはないはずだ。
そう伝えるとウリエルは俯き苦笑いをする。まだ出会ってから二日しか経っていないがこうもはっきりマイナスの感情を表に出すのは珍しいと思っていた。
「コレは愛を知らんモノに攻撃するための異能を持たない」
愛を知らない獣に対する攻撃手段がないというのはてっきりラスティーナなりのこだわりかとも思っていたが全く同じような言い方をウリエルもしたということは本当にそういう魔法なのだろうか。
——よくよく考えればまるで愛を知ってるヤツに対しては攻撃できるともとれる言い回しだな。
「いやいや、攻撃だけにこだわらなくてもあの蘇生みてぇな魔法があるだけでどれだけの人が助けられるかわかんないでしょ。全員は助けることは無理でも被害は少しでも減らせるはず——」
「反対だな」
キールがしびれをきらせて食い気味に質問したのを悲しそうに、残念そうに否定したのはやはりウリエル。無理、とは言わず反対と言ったのは何か意図があるのか。
しばらくしていいだろう、とため息を吐く。
「私の異能は私の視界に映っている愛を全人類に分け与えるっていうものなのよねー」
「…………つまり?」
何か聞いちゃいけないことを聞いているような気分になる。そしてこの後「あぁ、聞かなければよかった」と後悔することになるだろうとそんな予感がした。
「《《受けた傷を全人類に均等に分配しているんだ》》。一人二人が一日一回死ぬような傷を分配したとて数億もの人間で分け合えば傷にもならないだろうが戦いで何千、何万人の傷を分け合うとなれば話は別だ。幼い子や年老いた人々は当然致命傷となるしそうでなくともゆったりと人類が絶滅に向かうだけだ。故に使えなくはないがオレは反対だ」
聞かなきゃよかった。これではこれからの修行も気軽に死ねない。自分のしたことで他人が被害を被ることはとても恐ろしいことなのだとこの前知ったばかりなのだ。
顔が強張った少年二人を見て笑みをこぼしてうんうんと頷くウリエル。何を笑うことがあるか。キールとガイナはこんなにもびくついているというのに、そういうところだぞウリエルゥ!
「まあキミ達には良い薬になったみたいだな。軽々しく死ねると言って命の価値を落としてほしくはないし、それにこの戦いはキミ達が死ねば他の一般人にまで被害が及ぶ」
「…………」
「だからキミ達は最後まで戦い抜け。生き残れさえすればどうとでもなるが死ねばそれまでだ」
「……」
「……」
「必ず生き残れと言っている!」
「は、はい!」
「お、おす!」
「厄災の獣を倒すこと以上に戦いに生き延びる。オレはそのためにキミ達を鍛えるのだ」
二人の頭をポコポコと軽く叩くと優しい口調と、
「さ、今日は少し早いがここまでだ。数分とはいえ今日は色々と疲れたろう。《《今日は夜更かしなど夜運動なんぞせずにゆっくり眠るといい》》」
「なっ……!?」
「え、なんのこと? お前夜こっそり鍛錬でもしてたのか? つれねぇな、それなら俺様も誘えっての!」
「は、はは……。今日は素直に寝ます……」
「期待しているぞ、少年達」




