第6悔 『後悔三銃士、登場』
「エーリック! エーリック! エーリック!」
正午、コン・ゾン山周辺がエリクソン・シンバルディを求める声であふれていた。
そのただ中にいるディノ・コンチムとクリストフ・コンクーも、声こそ出しはしなかったものの、腕組をしてわき上がってくる興奮を何とか押さえよう、ごまかそうと必死だった。
「どうなる!? クリストフ! 情報通のお前なら何か知ってるんだろ!?」
そう言われて肘でつつかれたクリストフは、含みを持たせた笑みをその端正な顔にたたえながらも、知らぬ存ぜぬを貫く意志を手の平を上に向けひらりとさせることでディノに伝えた。
そうこうしているうちに神殿の正面に設けられた小さな舞台にトスカネリ卿が現れ、付近の市民が騒然となった。
今や後悔皇子エンリケより第二皇子に相応しいと言われるこの男は、颯爽とマントを翻し背後に三人の護衛を従え、片手に杖をつきながら悠々と舞台に登った。
衛士のひとりが高らかに角笛を吹くと、いよいよ民衆の体に緊張が走った。
トスカネリの演説が始まるのだ。
「リゴッドが誇る“救国の英雄”エリクソン・シンバルディが人類未到の“大後悔”に乗り出そうとしている今、諸君らにおいても壮健であること、心より嬉しく思う」
民衆による大歓声の代わりの拍手に手を上げて答えたトスカネリは、続けて自分の後ろたたずむ三人を紹介した。
「その前に、今後この国で起こる全ての“後悔”をエンリケ後悔皇子と私に代わり評価、認定することになるこの者たちを紹介しよう! 歓迎の拍手で迎えていただきたい! 『後悔三銃士』である!」
トスカネリが左手を掲げ民衆にその三人を紹介すると、彼らは一斉に舞台の前方に飛び出し自己紹介を始めた。
「この世に後悔あるかぎり! 歩みを止める理由はない!」
リーダーらしき男が叫ぶと、横並びになった三人が順に名前を叫んだ。
「タイタス!」、「ロニー!」、「キャス!」
「三人合わせて~? そう! 後悔! 三銃士!!」
軽快なリズムを口ずさみながら、おそらく徹夜で考えたのだろうということが伝わってくる即席感全開のポーズを爽やかに決め、三人は満足そうに再び舞台の奥、トスカネリの背後に引っ込んだ。
髪を後ろに撫で付け前髪の数本だけを異常に長く垂らし、両目の下に赤い筋のペイントを施した男がリーダーと思しき『タイタス』。
長髪をなびかせ、先ほど角笛も吹いていた艶やかな男が『ロニー』。
紅一点で高身長、金髪の美しい女性を『キャス』と言うらしかった。
全皇民が尊敬してやまないトスカネリの紹介とはいえ、民衆もさすがにどう反応していいのか分からず、まばらな拍手と口笛、「フゥー」という冷やかすような声が入り交じった。
多くの民衆は、この隊の結成がエンリケ後悔皇子の発案であることを心から望んだ。
「おい! あれ、お前も入れそうだぞ!」
そう冗談を言いながらディノが必死に笑いをこらえ、クリストフの顔をのぞきこんだ。
しかし、彼の表情は異様に堅かった。ディノは何か言ってはいけないことを言ってしまったのかと思い一瞬ひるんだが、その疑念は直後のクリストフの言葉で氷解した。
「……実は……僕も、エンリケ皇子の関係者から入らないかと誘われていたんだ……。アンナマリアが珍しく猛反対したこともあって、家族に不幸があって喪に服しているから、と嘘までついて断ったが……最初は僕をリーダーにして『後悔四天王』になる予定だったんだ……」
刹那の沈黙のあと、二人は顔を見合わせお互いに吹き出した。
「あっはははは! 入らなくて良かったなぁ、クリストフ! いや、違う! 何で入らなかったんだよ! 面白かったのに!」
ディノが大笑いすると、そばにいた民衆が不謹慎そうな目を彼に向け自重を促した。代わりにクリストフが頭を下げコトを収めた。
しかし、二人は再び顔を見合わせると、今度は一緒に声を出して笑い合った。
第6悔 『後悔三銃士、登場』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆
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薬を飲まないと鼻がどうにもならないし、飲んだら飲んだで目を開けていられないくらい眠いです。
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