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ファンティーゴ!  作者: 悠季 弓仏(ゆうき ひいろ)
第1章 『黎明の大後悔』
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第2悔 『この男、クリストフ』



 翌、昼過ぎ。

 目を覚まし面倒くさそうにベッドから上半身を起こしたボボンは、その燃え盛る炎のような色をした髪の毛を(たくわ)えた頭を()きむしろうとしたとき、異変に気付いた。


「いっ! つつ……何だこりゃ?」


 稲妻のような形の眉毛(まゆげ)をつり上げ、飛び散る火の粉のような瞳で自分の右腕を鬱陶(うっとう)しそうに確認した。

 昨日、ノニーに向かって手を振り続けた後遺症が、真っ青な(あざ)のようになってボボンの利き腕を支配していた。


「そうか……ノニー……行っちゃったんだよなぁ……」


 ボボンは何故か、もうノニーに会えない気がしてならなかった。 

 ――こんなことになるくらいなら、真面目に自分の想いを伝えるべきだったかな?

 彼は、少なからず後悔していた。

 

 普段ならノニーに会いに図書館に行く興奮を抑え切れず、遅すぎる朝食を鼻歌混じりで用意している昼過ぎのこの時間帯。

 今日のボボンは一向に活力が湧かず、ベッドから抜け出ることが出来なかった。


 決して大袈裟(おおげさ)ではなく、今のボボンにとってノニーの不在は生きる目的を失ったも同じことなのだ。

 

 燃えたぎる情熱の発散の場が消えた。


 人にしろ、物事にしろノニーの代わりになるものなどそう簡単に見つかるはずもない。

 目を覚ましてから一時間でボボンの精神は極限まで鬱屈(うっくつ)していた。

 

 そこへちょうど、ボボンの耳にアパルトメントの玄関の呼び出しを鳴らす音が聴こえてきた。ドアの中央上部に取り付けられているノック用の金具をだ。

「……ったく……誰だよ……」

 一度は居留守を決め込もうとしたが、再び鳴ったノック音がボボンを苛立たせた。

「どうぞ! 開いてますよ!」


「なんだなんだ、おい! つれない返事じゃないか!」

 ドアを開けて入って来たのは、スラリとした長身に毛先がカールした黒い長髪をなびかせ、整った顔を無邪気にほころばせる友人クリストフ・コンクーだった。


 常に派手で奇抜(きばつ)なオリジナルデザインの服を身にまとい、今をときめくファッションデザイナー兼モデルとして活躍する国民的な人気者の彼は、ボボンとは同い年の無二の親友同士。物心がつく、ずっと以前からの間柄(あいだがら)で、ボボンを『フェルディナンド』と呼ぶ数少ない人物の一人だ。

 それだけにボボンの機嫌が何によって左右されているかもあっさり見抜いていた。


「ノニーがいなくなって寂しいだろうと思って面白そうなニュースを持って来てやったんだぞ!」

 

 そんなノニーも新たな国民的アイドルとして旅立ったのだから、自分だけが取り残されている気がしてならないボボンは滅入ったが、クリストフは構わず続けた。

「エンリケ皇子が明日、ルームの戦勝記念広場で演説をする予定なんだ」


「それのどこが面白いニュースなんだよ……」

 ボボンは驚いてベッドから飛び起きる準備をしていないことはなかっただけに、このありきたりな知らせには心底ガッカリした。寝床についた肘をのばして、首を枕にあずけ直した。

 が、クリストフはあり余る自信を表情に(たた)え言い切った。


「世界をより良く変える方法を見つけたから発表するらしい」


「また漠然(ばくぜん)と大きく出たな」

 ボボンはそう言いながらも、何かが起こるんじゃないかという期待感からようやく微笑んだ。気付いてみれば、無意識にベッドから片足を出していた。

 

 しかし、『果報は寝て待て』などとも言う。

 片足を再びベッドの中に引っ込め、ボボンはその格言どおり明日のエンリケ皇子の演説を寝て待つことに決めた。


 目でさっき来たばかりのクリストフに訴える。

 クリストフもため息をつきながら、苦笑して応じた。

「現金な奴だ! 僕だって忙しいんだぞ。そんな顔しなくても出て行くよ」


 物わかりの良すぎる親友は、そう言いながらベッドに横たわるボボンの肩をポンと叩き、後ろ手で別れの挨拶をして部屋から出て行った。

 

「ありがとうよ……親友! そして……おやすみぃっ!」


 ボボンはドアの向こうに礼を言い、眠りにつく前特有の幸福感と共に毛布に包まった。

 明日、エンリケ皇子が演説をする時間まで、まだ二十四時間近くあった……。

         



 第2悔 『この男、クリストフ』 おわり。:*+゜゜+*:.。.*:+☆    





 テーレッテー!


 第一章には、エログロ描写がないので、そのまま再編集を進めていきます。

 




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