西遊記の現代科学:序
旧自サイト閉鎖に伴っての移転した『西遊記の現代科学』の冒頭部です。
旧自サイトでも宣言したように著作権は放棄します。(原作者を騙らない限り)改変・使用はご自由にどうぞ。
西遊記主人公の孫悟空は、天地の精華を享けて石から生まれた事になっている。
ここで大抵の読者は「これはファンタジーである」と決めつけるだろう。
だが、そういう読み方だけで本当に良いのだろうか? いかなる書物も、成立当時における科学知識に立脚している筈であり、西遊記も例外ではない。いや、それどころか科学知識を駆使している向きすらある。そういう歴史的科学知識を読み取るのも一興といえよう。
例えば、悟空の生誕の記述を良く吟味してみよう。生命の起源に関する研究で最近分かっている事は、始めにアミノ酸ありきである。アミノ酸の材料は炭素、水素、窒素、酸素とそれらの化合物であり、合成の為のエネルギー源は太陽か宇宙線か地熱である。原料を見るならば、炭素が石のように堅い事はダイヤモンドがそれを証明しているし、更には「使いやすい形の原材料」が彗星や隕石によって地球にもたらされたと考える向きすらある。また、地球では見つかっていないものの、宇宙の惑星の中には硫黄やケイ素を主成分とする生命体があってもおかしくない。すなわち、生命の原料はシンプルな元素であり、一括りに石と看做す事が出来る。一方のエネルギーはいずれも天地から供給されるものだ。単純化すれば「物質とエネルギー流の結合により生命が生まれた」のであり、科学的に正しい範囲内で、確かに生命は「石が天地の精華を享けて生まれた」と表現できる。けっして、気まぐれな神様や排他的な神様が作ったものではない。
こうしてみると、西遊記の冒頭は、世に流布する全ての創世伝説の中で唯一まともな科学に近い。
このように、一見荒唐無稽に思われる西遊記の記述も、深い科学的意義を秘めている。「西遊記の現代科学」シリーズでは本作に隠された科学的意味を独断と偏見に基づいて紹介したい。
written 2006-4-9