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よいこのための、さいゆうき  &  西遊記の現代科学  作者: 何十億人か目の西遊記ファン
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白馬龍のお酌技術(西遊記第30回から)

「西遊記の現代科学」の続きです。他の話を旧自サイト閉鎖に伴ってこちらに移動させた機会に、新規に書いた分です。


西遊記の生成過程の伝統に従って(旧自サイトでも宣言したように)著作権を放棄します。(原作者を騙らない限り)改変・再使用はご自由にどうぞ。

 三蔵一行は4人と1頭で、白馬も重要なメンバーである。

 その白馬が頑張る所が2カ所あり、うち第69回は薬の材料提供者という非常にしょぼい(でも一番有用な)役目だが、第30回では主体的に立ち回る。物語的には、破門された悟空を八戒に呼びに行かせるための説得材料として「頑張ったけど怪我を負った」というアリバイ作りの立ち回りとなる。その際に、弱いながらに特殊技術を披露する。それが逼水(ひっすい)法だ。それは杯に水を盛る際の技術である。

 逼水(ひっすい)法には2つの原理が働いている。一つは竜巻と同じ原理の気圧勾配で、もう一つが表面張力以の調整だ。

 龍の行なった技術だから気圧勾配のみで十分だろうと思うのは早計で、西遊記第30回の記述にあるような「注いぐことでより高く盛る」という静的な描写は出てこないだろうからだ。となれば、龍のもう一つの「水本体を操作する能力」が関係しているはずなのである。


 ビールをグラスに注ぐ時、泡立ち具合を間違えるとグラスからこぼれるが、慣れると表面張力の範囲ギリギリでこぼれずに済む。底の浅い杯に酒を注ぐ際も、そのままでは余りにも量が少ないので、表面張力でギリギリまで増量する場合がある。後者は杯の容量に対する表面張力増量分の比率が馬鹿にならない。

 飲む時によほど注意しないとこぼしてしまう(というか酔っぱらっていたらアウトの)注ぎ方だが、意地汚い酒飲みなら喜びそうだし、なにより、酒がこぼれそうでこぼれない様子の美しさは、酒飲みでなくとも楽しめる。だから娯楽の少なかった時代には、酒席での楽しみの一つだっただろうし、注ぎ手にこの増量を競わせる余興もあっただろう。

 表面張力を物理学的に支えているのは分子間力で、それが液体と気体とで全然違うことから起こる。だから液体側の性質や杯の性質を変えることで、強めることができる。これが逼水(ひっすい)法に使われているのだろう。 <

 白馬は三蔵の危機にあたり、接待係の女に化けて油断を誘い、隙を作って敵に傷つけようとした。その際に敵の気を引く手段として、酌をする際に、杯に酒を高く盛る逼水(ひっすい)法を使った。

 女に見せかけて相手の隙を作り敵を刺すというのは、本邦でもヤマトタケルが熊襲の王を刺した時に使ったと古事記に書かれているほどに古くからある逸話だが、西遊記は、隙を作る初手に「杯に酒を高く盛る技術」を使う芸の細かさを見せるのである。人が魅力的なのは顔かたちより、その技術にあると主張しているようなものだ。


 具体的には、どうやって分子間力を高めたのだろうか?

 一般に、分子間力は電解質が混ざるほど高くなるし、融点に近くなるほど高くなる。例えば食塩水は真水よりも表面張力が強いし、液体金属である水銀となると真水より表面張力が一桁強くなる。金属に至っては、融解温度の直ぐ上ぐらいだと、相当に高い帳面張力となる。

 また、温度が下がるほど表面張力が強くなるし、温度の代わりに融点が高くなっても表面張力が強くなる。そもそも固体とは分子の熱運動の力が分子間力に負けた状態であり、固体に近い状態の液体ほど強いのは当たり前だ。例えば、氷点下への過冷却をしたビールを冷やしたグラスに注ぐと、泡立ちで過冷却が解消されて、凍りながら普段の表面張力の限界以上に盛り上がる。

 西遊記第30回の記述によれば、13層の塔(仏塔の一種で、地面から鋭角に突き出た尖塔)のように盛り上がったとある。杯の直径を5cmとすると10-15cmの高さといったところだろうか。日常ではちょっとお目にかかれなさそうな高さである。

 

 常識的に考えれば、これは幻覚の類いだろう。酒に電解質の幻覚剤を入れでば、実際に表面張力を高めることで、その「高いぞ」という感覚を増幅させることは可能そうだ。

 だが白馬は西海龍王の子供である。西海龍王は4大龍王の一人であり、その住処は火山島や海底火山の真下の筈だ(第1回・第3回参照)。ということは、マグマも溶岩も見たこともある筈だ。

 溶岩流の先端は、到着時は、ほぼ固体だけど一応流動性のある液体の分類される。そしてそれはほぼ垂直に切り立つ。つまり溶岩並みの粘性(分子間力の働きやすさの目安)を与えれば、白馬龍が見せた「13層の塔のような盛り方」は可能な筈だ。この場合、酒に何を混ぜればそのようなモノができるかという疑問は残るが、そもそも注ぐ方の入れ物は白馬龍が持ってきたモノであって、始めから酒でなかったのかも知れない。


 ともあれ、西遊記の当時、表面張力の現象が知られていたばかりか、混ぜ物や材質によって、これが変わるという性質も知られていたと思われる。これは、水銀や硫黄が仙道の道術修行でよく使われていたという背景を考えれば頷けるものがある。西欧の化学は練金術が発達させたが、中国の化学は仙人修行が発達させたのかも知れない。そして化学が発達したからこそ、火薬の発明に至ったのかも知れない。中国の古代化学(道教)は馬鹿にならない。


written 2020-9-19


ここまででも既に飛び飛びですが(そもそも第7回以降は21回と28回しか書いておらず、その後10年以上もほったらかしだった)、このあとは、良くて一行メモしかありません。今回の移転で抜けのあった回を補充し、旧作もかなり手を入れて書き加えましたが、そろそろマンネリを感じるので、一旦中断します。金角銀角の直前で切りが良いし。


金角銀角(とくに瓢箪は数個の技術の塊)や虎鹿羊仙のと対決(雨乞い、首切り)など、外せない話はまだまだ多いので、いつかは書くと思いますが、過去10年以上も書けなかったことから、他の作品の移転が終わっても、数年単位の間隔でしか書けないかも知れません。


移転で分類に困った「おまけ」を追加するかも知れません。なので移転が終わった段階で、続きをかけそうになかったら、一旦完結マークをつけると思います。

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