第七話:村であれこれ活動する
さて、次の日から、ちまちまとこの小さい村周辺のスライムを倒しながら、小銭を稼ぐ。出現するスライムは、最弱スライムばっかり。あたしも、アレックスとクリスたちと暮らしていた時に何匹も退治したので、だいぶナイフの使い方が上達したのか、一人でも簡単に倒せる。たまに、大勢で襲いかかってきて、追い回される時もあるが、そういう時は、木の上に登って、あらかじめ何ヵ所かに置いてある、大きい石を投げつける。あっさり、ぐしゃっと潰れて簡単に退治できた。とりあえず、無一文なので、お金を貯めなくてはいかん。この村はこじんまりとした、人口も少ない静かな村だ。アレックスたちと暮らしていたときみたいに、木の上に自分の家でも作ろうとしたら、村の人に怒られた。勝手な事をするなと言ってるみたい。よそ者なんで、言葉も通じないし、あたしには、みんな、よそよそしいなあ。ちょっと悲しい。結局、いまだに冒険者ギルドに居候している。しかし、どうやら、何日経ってもナロードリア王国の警官は来ないので、外国までは追って来ないようだ。
ある日、雨がたくさん降っているので、仕事は休むことにした。冒険者ギルドの窓ガラスに強い雨がたたきつけてくる。椅子に座って、窓からぼんやりと外を見ていると、お母さんの顔が浮かんできた。体を悪くして、ベッドに横になっている。あたしは、すぐ側に立っている。その日も雨が降ってきた。窓からその風景を見ながら、お母さんが、「空と大地は昔、恋人同士で一緒だったのよ。しかし、その後、離されてしまった。雨が降るのは、二人が離されて、哀しくなって涙を流すからなのよ」って、どこかしら、ぼんやりとつぶやくようにしゃべっている。あたしは、その時、雨は、やっぱり単なる雨なんじゃないかなあと思ったけど。あたしのお母さんはロマンチックな人だったのかなあ。
そんなことを思い出して、なんとなく、もの悲しい気分になっていたら、村の人たちが大勢走っているのが見えた。何事かと、外に出てみると、近くの川の方へ集まって大勢で騒いでいる。川が増水して、堤防が決壊しそうだとあわてている。村人のみなさんが土嚢を積んでいるので、よそ者のあたしも、えっちらおっちらと重たい土嚢を運んで手伝う。けど、どんどん水位が上がってきた。決壊しそうな箇所があるぞ。これは、やばいんじゃないかと思っていたら、そうだ、この魔法銃の弾丸に、「土の固まり」って弾があったのを思い出した。「雪の固まり」の弾が大きい雪だるまになっていったんなら、これも、大きい土の固まりになるのではと、ちょっと、身振り手振りで、村人のみなさんにどいてもらって、その弾を撃ってみた。土の固まりが発射され、あっさりと、決壊寸前だった土手の穴がふさがった。それを見た、村人たちに、たいそう褒められた。川の決壊を防いだおかげで、一応、よそ者のあたしを受け入れてくれたみたい。やはり、何か役に立つことをしないとね。
その後、仕事の無い日は、村の畑の作業を手伝ったり、細々な雑用をしたりして、村の人たちとしゃべったりしていたら、簡単な日常会話くらいはできるようになった。当分、この国で暮らすつもりなので、冒険者ギルドの主人に、「読み書きを教えてください」と、またうるさくわめいたら、仕方がないなあといった感じで、毎日、ヒマを見ては少しづつ教えてくれた。しかも、頭が悪く覚えのよくないあたしに対して、懇切丁寧に授業してくれる。やっぱり、いい人だ。ちなみに、お名前はレオンさん。
レオンさんに読み書きを教えてもらいつつ、相変わらず、ちまちまとスライム退治をする。しかし、そんなに毎日スライムが出現するわけではないし、ヒマな時もある。そういう時は、村人から頼まれて、暖炉の煙突掃除を引き受けたりした。大人が煙道に入るのは難しく、あたしぐらいの大きさが一番、ちょうどいい体格らしい。小さい村なんで、家も小さく、ほとんど真っすぐな煙突ばかりだけど、中には、宿屋みたいに、くねくねと曲がった煙道が何本もあって、ちょっとした迷路のようになっているところもあり、あたしとしてはダンジョン気分を味わって、その点は楽しかったりした。ブラシで煙道に付いたすすをこすり落とす作業はちょっと大変だったけどね。全身すすだらけになったが、結構な報酬をもらった。業者に頼むより、ずっと安いらしいんだけど。初めて、真っ黒な姿で冒険者ギルドに戻った時は、レオンさんがあきれて、ギルドの建物にある風呂に入るのを許してくれた。あたしが風呂に入っているあいだに、服を洗濯までしてくれて、その代わりに近くの村人の家から、子供用のパジャマを借りてきてくれた。いい人だなあ。まあ、ロビーがすすだらけになるのが嫌だったのかもしれないけど。
そんなふうに過ごしていたら、この村に来てから、四ヵ月くらい経った頃、雪が降ってきた。もう、十二月、冬か。小さい頃はお母さんと一緒のベッドで、固まって寝ていた。お母さんの温もりが懐かしいなあ。
ある日、寒い中、スライム退治が終わった後、冒険者ギルドに戻って暖炉の前で冷えた体を温めていると、カッコいい冒険者の男性が入ってきた。暖炉の前に座り込んでいるあたしに向かって、にこやかに近づいてくる。よく見ると、お父さんだ。あたしはびっくりして、起き上がった。生きてたんだ! 「エイミー、大きくなったなあ」と抱き上げてくれる。思わず、あたしもお父さんに抱きつく。
気がつくと、あたしは、毎晩寝ている定位置の部屋の隅っこに運ばれていて、暖炉はすでに消えていた。なんだ、夢か。もう、お父さんはこの世にいないんだよなあ。懐かしくも、ちょっと、悲しい気分になった。けど、あたしは、確か、暖炉の前にいたはずなのに。うつらうつらしていたら、つい、そのまま眠ってしまったのかな。ただ、いつもより多くの毛布にくるまれていた。これは、レオンさんが毛布を増やしてくれたんだろう。本当にやさしい人だ、いつかお礼をしたい。レオンさんは何が好きなんだろう? やっぱり、お酒かな。
その後、レオンさんに読み書きを教えてもらった成果を試したいと思って、村の掲示板を見に行ってみた。すると、一応、何となくは読めた。そこには、村で起きた事件や活動の細々とした報告の他に、「グライダー大会開催」とあった。はて、グライダーとは何だろうと、今日、行われるその大会の開催場所に行ってみると、少し小高い丘に大勢集まっている。空を見上げると何か変なモンスターが空中を飛んでいると思ったら、人間が木の板にぶら下がっていて、それが飛んでいるぞ。気球のようにただ浮かんでいるだけじゃなくて、ちゃんと操縦しているようだ。すごい! 見物人に、「あの人は魔法使いですか」と聞いたら、「普通の人がグライダーというものを操縦しているんだよ」と教えてくれた。魔法が使えない一般人でも、鳥のように空を飛べるんだ! カクムール王国は進んでいるなあ。どうやら、つい最近、グライダーなるものが発明されたようだ。気持ちよさそうに飛んでいる。風よけのためか、頭に耐寒帽子と防風眼鏡を付けている人もいる。しかし、よく見ると飛び立とうとして、全然、飛べずに、ただ坂道を走っている人や、いきなり急降下で落っこちている人もいる。グライダーの形も大小さまざま、いろんな種類があって、千差万別だな。
そして、着地する時はカッコよく、地面に降り立つ人もいれば、足をバタバタさせて、すッ転びそうになっている人もいる。機体の下に車がついていて滑るように着陸するのもあった。中には、ひっくり返ってしまって壊れてるグライダーもあった。おまけに、巨大なグライダーは着陸したら、一旦、ばらして部品ごと持って行くか、または、グライダーをそのまま大勢で担いで、丘の上まで運んでいる。車が下についているグライダーは、そのままロープで引っ張っていて、比較的運ぶのが楽そうだ。
あたしは、その人たちに、「鳥のように羽ばたいて離陸することはできないんですか」と聞いたら、そういう事をやっている人もいるが、全く、飛べないんだそうだ。橋の上から、両腕に翼をつけて、羽ばたいて飛んだら、真っ逆さまに川に落ちて、危うく溺れ死にそうになった人もいるみたい。要するに、大きい紙飛行機みたいなもんかなあとあたしは思った。見ていたら、あたしも飛んでみたくなった。「グライダーに乗らしてくれませんか」と頼んだが、「子供はケガするとまずいので、ダメ」と断られちゃった。まあ、仕方がないか。けど、でっかい紙飛行機なら、あたしにも作れるのではないかなあ。草っ原に寝転んで、陽が落ちるまでグライダーが飛んでいるのを眺めながら、いつか自分も乗ってみたいと思ったりした。
さて、いいかげん、スライム退治も飽きたんで、「もっと面白い仕事をさせてください」と、またもや冒険者ギルドで騒いだら、レオンさんは、ちょっとうんざりした顔で、「サイクロプス退治というのがあるが、どうだ」と言われた。「サイクロプスっていうのはどんなモンスターですか」と聞いたら、「一つ目の巨人で、人間の大人の三倍はあるぞ」とレオンさんが立ち上がって、怖い顔をもっと怖くして、あたしに向かって、太い両腕を大げさに振り上げる。怖いならやめろと追い返すつもりだったらしいが、あたしは受けた。必殺の魔法銃があるもんね。サイクロプスは、たまに村の端っこの、ダニエルさんという人の畑に来て、食い物目当てに暴れるらしい。けど、「もう冬だから、大根くらいしかないし、来ない可能性が高い。多分、来ないんじゃないかなあ」とレオンさんが予想した。但し、来なくても、一応、畑の番人としての多少の報酬が出るそうだ。あたしは、その畑に行って、堂々と腕を組んで待つ。「ヒーローは一人で戦うもんよ!」とは言うものの、ちょっと寒いな。上着がほしい。
指定された畑で待っていると、天気が曇ってきた。サイクロプスを待っている間に魔法銃の確認する。弾は、「雪の固まり弾」と「火弾」、「土の固まり弾」は使ったんで、残りは、「冷水弾」、「雷弾」、「竜巻弾」、「花粉弾」、「熱水弾」、「石弾」、「鉄弾」、「縄弾」だ。うーん、この中で一番強力そうなのが、やっぱり、「雷弾」かと思い、その弾を魔法銃に込める。それにしても、この魔法銃の弾の中で、「花粉弾」とか「縄弾」って、なんに使うのか、いまいちよくわからんなあ。そんなことを考えつつ、サイクロプスを待つ。しかし、なかなかサイクロプスが来ない。いつまで経っても来ない。どこまで待っても来ない。こりゃ、来ないのかなあと、眠くなったので、つい横になって昼寝しちゃった。
気がつくと、頭に角が生えたサイクロプスが目の前にいた。でかい! 確かに大人の三倍はある。あたしの顔を興味深そうにのぞき込んでいる。「うわ!」と叫んで、思わず反射的に寝たまま魔法銃を撃つが、はずしちゃった。弾は遥か上空へと飛んで行った。サイクロプスが怒って、でかい棍棒持って追いかけて来たので、畑の中を必死になって逃げ回る。「ひえー! 助けてー!」と小石を拾って、サイクロプスに投げつけるが、当たっても全く役に立たない。畑の中をドタバタと逃げながら、魔法銃に新たな弾を込めようとするが、サイクロプスに追われてるので、うまくいかない。サイクロプスが振り回した棍棒があたしの頭を掠った。「殺されちゃうよー!」と逃げ回っていると急に空が暗くなったと思ったら、突然、でかいサイクロプスに雷が落ちて、黒焦げになってぶっ倒れた。あの「雷弾」は空に向かって撃つものだったのだろうか、それとも自然現象かな。雨も降ってきたし。まあ、結果オーライ。雷は金属よりも、背の高いものに落ちるんだなあ、マリア先生が言ってた通りだ。けど、サイクロプスが暴れたおかげで、畑の大根などがメチャクチャになってしまった。畑の主のダニエルさんに文句を言われちゃった。「申し訳ありません」と謝る。「けど、まあ、かえって、畑を耕す手間が無くなったよ」と、一応、約束通りけっこう高額な報酬をもらった。
だいぶ、お金が貯まったので、そこで居候はやめることにして、冒険者ギルドの主人で顔が怖いけど、実はやさしいレオンさんにはお礼を言って、宿屋に泊ることにした。久々にベッドで眠れると、スキップしながら、村の真ん中辺りにある宿屋に行く。隣に服屋兼雑貨屋のような店があったので、ちょっとした外套とパジャマを買った。宿屋に行って、カウンターで手続きをしていたら、車椅子の人がいる。歩けないのかな。かわいそう。従業員に聞いたら、車椅子割引サービスあるそうだ。ド田舎なのに先進的だなあ。廊下でその車椅子の人に会ったので、部屋まで、その車椅子を押してやったら、感謝された。その後、共同風呂に入ったりして、すっきりする。部屋に戻って、「わ~い、久々のベッドだ」と飛び跳ねていたら、隣の部屋の人にうるさいと怒られた。やれやれ。仕方がないので、とりあえず、おとなしく寝ることにした。
しかし、眠れない。いまだに孤児院で夜中に暴れていた習慣が、まだ残っているのだろうか。眠れないので、例のマリア先生の件について考える。誰がマリア先生を殺したのだろうか。強盗かな? けど、強盗が食事用フォークを使うだろうか。首に刺さってたって話だけど、マリア先生は背が高いから、あたしみたいなチビには無理だなあ。やっぱり、大人か。院長は病院だし、マルセル事務長は病気だし、残るはシャルロッテ先生とフィリップ爺さん、給食担当のアナベルおばさんだけだ。この三人が犯人とは思えん。やっぱり強盗か。それとも、先生がしゃがんでいる時に児童の誰かが刺したってことも考えられなくはないなあ。けど、なんでマリア先生を殺すんだろう? だいたい、あのフォークは全然尖っていなかったんだけどなあ。
そんな事を考えていたら、あれ、なんだか煙くさい。これは火事だとあわてて、廊下に出ると、給湯室が燃えている。部屋に引き返して、魔法銃を取ってきて、「冷水弾」を込めて発射すると、冷たい水が銃口から噴射されて消火できた。まあ、ボヤ程度の火事だったけど、宿屋の主人に、「ありがとう、大火事にならずにすんだよ」と感謝され、今日の宿代は無料にしてくれた。
あれ、気がつくと廊下の野次馬の中に、例の車椅子の人が立っている。「おい、あんた立てるじゃん」と指摘したら、あわてて全速力で走って、宿屋の玄関から逃げて行った。割引サービス目当てかよ、せこいなあ。まあ、あたしには関係ないから、どうでもいいかと思っていたら、宿屋の主人が、「いま、逃げていった奴は詐欺師で、おまけに、宿屋の金を盗んでいきやがった」とあわてふためいている。泥棒か。それはいかんと、あたしは魔法銃を持って、追いかけた。宿屋を出ると、月明かりの中、車椅子詐欺師兼泥棒の奴が村の出口に向かって走っているのが見えた。大人なのに、意外と走るのが遅いな。あたしも走って追いかける。逃げてる奴は車椅子詐欺で座ってばかりいたので、足が萎えてしまったのだろうか、子供のあたしより遅い。村を出た小道辺りで、追いついた。さて、これは魔法銃に活躍してもらおうと、弾を調べると、「縄」って弾があったな。突然、「泥棒を捕らえて縄をなう」って言葉を思い出した。頭の悪いあたしには珍しく難しいことわざを覚えていたなあ。事が起こってから、慌てて準備を始めることみたいだけど、もしかして、泥棒をお縄にちょうだいするための弾ではないか。そう言うわけで、泥棒目がけて、「縄弾」を発射してみた。すると、縄の固まりが発射され、そいつに当たるやいなや、縄が泥棒をぐるぐる巻きにして、逮捕成功。泥棒を捕まえたんで、宿屋の主人から、今日から一週間、無料で宿泊にしてくれた。正直、貧乏なので、ありがたい。
翌日。さて、今日は久々に休むかと、村を散歩する。寒いので、外套を着て、村の中をウロウロするが、この小さい村には特に楽しいものはないんだな。周りの風景はきれいだけど。川岸に行って、アレックスやクリスたちと暮らしていたときみたいに、石を水面に投げて、飛び跳ねさせたり、木片を拾って、ボートに見立てて川に流しても、一人じゃつまらんな。この村は、あたしと同世代の子供も少ないんだよなあ。
そう言えば、例のグライダーというものはやっていないかと、再び、グライダー大会をやっていた丘に行ってみると、一人だけ、あたしよりちょっと年上くらいの少年が、グライダーの準備をしているのを見つけた。その子に声をかける。
「あたしの名前はエイミーです。よろしければ、グライダーに乗せてくれませんか」
「一人では乗せられないな、二人でならいいよ」
その子のお名前はトムさん。笑うと、のぞいた白い歯が光る。なかなかの二枚目だ。ちょっと、地上で練習する。わりと小型のグライダーだ。三角形のような翼にベルトが二つ付いていて、それに胴体と足先を載せて支えるようだ。最初は地上で練習。何度か、グライダーを持って、平地を走る。意外と重いな、これで空を飛べるんかいなと最初は思ったんだけど、たまに風が吹くと、急に軽くなったりする。その時、飛び上がると、あたしの背の高さくらいまで浮いたりする。なんか面白くなってきたぞ。
地上で練習した後、丘の上に上って、グライダーにベルトで二人を並んで支える。丘から斜面をゆっくりと駆け出し、途中で一気に足で地上を踏み切る。すると、グライダーがスイーっと空を飛ぶ。ちょっと怖いけど気分が良い。鳥になったあたし。飛んでいる時間は三分くらいだけど。降りるときはスッと着陸できた。驚いたのは、このグライダーは折りたたみができるってことで、一本の棒状に丸くたたむことが出来るので、一人で持ち運びも可能だ。なかなか優れものだなあ。面白くて、しつこくトムさんにねだって、何度か飛んでいたら、変な大型の鳥が近づいてきた。よく見るとモンスターらしい。小型のドラゴンとコウモリを合体させたようなモンスターが襲って来た。「あれは、ワイバーンってモンスターだ」とトムさんが焦っている。あたしは、魔法銃を使って、「鉄弾」を装填して、ワイバーン目がけて撃った。どうやら、そのモンスターの目に当たったらしく、そいつは退散していった。地上に降りて、トムさんにお礼を言われた。
「危ないところだった、助けてくれてありがとう。このグライダーって、最近流行りはじめたせいか、モンスターたちも警戒しているようで、めったに襲ってこないんだけどね」
「いえいえ、こちらこそ、何度もグライダーに乗らせてもらってありがとうございます。もし、また機会があれば乗せてください」
「ああ、時機が合えば、いつでもいいよ」
日が暮れてきたので、トムさんと別れて、宿屋に戻ろうと村を歩いていると、この前、サイクロプスを倒した畑の主のダニエルさんに声をかけられた。「この間はご苦労さん、ところで、わしは果樹園も持っているのだが、そこにオークが十匹くらい襲って来るんだけど、そいつらも退治してくれないかなあ」と依頼された。もう、冬なんで果物の収獲は終わっているんだが、オークの連中にはわからないらしく、ウロウロしているそうだ。あたしは承諾した。
次の日、冒険者ギルドに行って、主人のレオンさんに、「オークって何ですか」と聞くと、「豚の顔をしたモンスターだ」と教えてもらった。「それじゃあ、十匹退治に行ってきます」とギルドを出ると、追いかけてきて、「お前一人でやるのか」と聞かれたんで、「ヒーローは一人で戦うもんよ!」とカッコつけて果樹園に向かうと、「お前、一人で大丈夫かよ」とレオンさんもついて来た。あたしのことを心配してくれてるようだ。全くもって、本当にいい人だ。
さて、果樹園に到着する。何だか、今日は風が強いなあと感じていると、オークがやって来た。確かに豚の顔をしているなあと思っていたら、百匹くらいの団体さんで果樹園を襲って来たぞ。話が一桁違うじゃないか! レオンさんもビビっている。すっかり囲まれてしまった。
こりゃ、魔法銃の出番だな、どの弾を使うかなと、強風の中、「竜巻弾」ってのを撃ったら、すごい竜巻が吹いて、オークの大群を全部巻き込んでいく。オークのほとんどは、逃げ出すか、竜巻に巻き込まれて、あっさりとはるか遠く、どっかに飛んで行っちゃった。あたしも巻き込まれそうになったけど、レオンさんが木とあたしを必死に掴んで、何とか助かった。けど、竜巻のせいで果樹園までメチャクチャになってしまった。これはダニエルさんにまた怒られるかと思って、謝りに行ったら、「この時期は無駄な枝とかを剪定する時期なので、まあ、いいや」と報酬はくれた。そして、レオンさんから、「すごいなお前、魔法使いだったのか」と聞かれたんで、思わず、「大魔法使いだ!」と名乗ってしまった。ウソだけど。
さて、またその次の日、冒険者ギルドに行くと、レオンさんがチョコレートを食べている。怖い顔に似合わないなあ。「チョコが好きなんですか」と聞いたら、ちょっと気まずそうな顔しながらも、「甘いもんが好きなんだ」と教えてくれた。そして、あたしにも少しくれた。そういや、初めてこの冒険者ギルドに泊まったときも、チョコレートをくれたなあ。よし、もう少しお金を貯めて、いずれはレオンさんにチョコをプレゼントすることに決めた。
「さて、何か仕事はないですか」と聞くと、あたしは、この前のオーク退治で認められたらしく、ダンジョン探索を提示された。地図を広げて、「この山の洞窟の穴に入れ」とレオンさんから指図される。あたしの生まれ故郷、ナロードリア王国に近い山だな。携帯ランプと剣も貸してくれた。剣を腰のベルトに差す。
ウヒョー! やっぱり冒険と言ったらダンジョンだよね。




