第十三話:巨大蜘蛛退治
また、アオイノ村の冒険者ギルドに行って、「スライム退治以外に何かもっと報酬の高い仕事は他にないんですか」とギルドの主人にギャーギャーわめきちらしたけど、「無い」と冷たい返事。やはり、子供と思われてバカにされているらしい。それにしても、この村の冒険者ギルドの主人は冷たい。カクムール王国の、あの小さな村の冒険者ギルドの主人レオンさんはやさしかったなあ。それにくらべると、この人は何となく嫌な感じがする人だ。それともレオンさんが特別にやさしい人だったのかな。結局、またスライム退治を依頼された。
仕方がなく、またアオイノの森に行く。依頼は、前回の奴隷市が行われていた場所とは別の洞窟の入り口付近にいるスライム退治。さて、その洞窟に行ってみると、四人組の外国人にばったりあった。なんと、カクムール王国で巨大ムカデから助けてやった恩を忘れて、あたしを追いかけまわした、ろくでなし四人組だ。「お前は、巨大な鷲に食われたブサイク少女殺人鬼じゃないか、生きてたのかよ」と驚かれる。「ふざけんな! 以前、あたしが大蛇から助けてやった鷲さんのユリウスが、お前たち、ろくでなし冒険者から逃がしてくれたんだよ。あと、人殺しの疑いは晴れたよ!」と怒鳴ってやった。
どうやら、カクムール王国はモンスターを軍隊が退治して回っているため、冒険者の仕事が少ないので、こっちまで遠征してきたようだ。連中は、「じゃあな、ブサイク少女冒険者、ガキはスライム退治でもやってろよ!」とイヤミを言いながら、洞窟に入っていった。相変わらず、嫌なやつらだなあ。
さて、あたしたちが洞窟の入り口近くで、ちまちまとスライム退治を行っていると、外人冒険者たちの悲鳴が、洞窟の奥からかすかに聞こえてきた。何だろう、まさか、また巨大ムカデじゃないよね。とにかく、ブサイクと言われたことは置いといて、助けにいってやるか。入口が狭いし、ユリウスは鳥なので、暗いところが苦手だから外で待っててもらって、洞窟の中に入る。
しかし、これは、ついにダンジョン探険ではないかとあたしは興奮した。カクムール王国では、一人でダンジョンに入ったけど、ずっと、ただまっすぐ下りていくだけで面白くなかったな。あれは、今思うと洞窟とかじゃなくて、地震が起きたあとに岩の亀裂が出来ただけだったんではないかな。今回は仲間もいるし、冒険と言えば、やはりダンジョンだよねと思ったら、ちょっと階段のような箇所を下りて広い場所に出る。そこで行き止まりみたい。そこに行くまで、モンスターも出てこない。たったそんだけ。これじゃあ、ダンジョン感が無いなあ。ちょっとがっかりする。
アレックスが携帯ランプで上の方を照らすと、広い場所の上の方で、白いぐるぐる巻きにされている物体が四つある。よく見ると、さっきのろくでなし冒険者たちではないか。何とか生きているようだ。よく見ると、天井の隅っこに巨大な蜘蛛がいる。ムカデじゃなくてよかった。蜘蛛の巣が、天井の全体に張ってある。
クリスが片っ端から、天井に張ってある蜘蛛の巣の端っこ、根元の糸を弓矢で射って、引きちぎる。スゲー、ますます上達している。本当に、スライム退治も役に立っていたわけだ。まさに継続は力なり。巣ごと、巨大蜘蛛と糸でぐるぐる巻きにされていた外国人冒険者が、ドスン! と床に落ちる。巨大蜘蛛が襲いかかってきた。
アレックスが剣で立ち向かうが空振り。うーむ、こっちはあんまり上達していないみたい。アレックスはのんびり屋さんなとこがあるからなあ。アレックスが襲われそうになったので、あたしが、ナイフを投げるが巨大蜘蛛はすばしっこく動くのではずしてしまった。こりゃ、かなわんとあたしは思わず逃げるが、すッ転んで、顔面を床に打って、鼻血が出てしまった。「みんな、伏せて!」とユリアーナが叫び、後方から火炎魔法で攻撃する。瞬時に、巨大蜘蛛を黒焦げにして退治した。カッコいいなあ。あたしも頭が良ければ、魔法使いになれたのに。残念だ。
ろくでなし四人組をナイフで糸を切って、助けてやった。「ありがとう、ブサイク少女冒険者」と感謝された。ブサイクはよけーだろ。しかし、これで巨大蜘蛛を倒したので、一応、満足した。帰る前に、ちょっと近くの川に行って、顔面のキズをユリアーナに手当してもらう。気がつくと外国人冒険者がいない。先に、冒険者ギルドに戻ったのかな。
さて、冒険者ギルドに戻ると、報酬はスライム退治分だけ。「巨大蜘蛛を倒したぞ」と文句を言ったら、あの四人組に渡したそうだ。あいつら、金を持って逃げやがった。冒険者ギルドの主人に文句を言ったが、「お前らに巨大蜘蛛を退治しろなんて依頼はしていない」と相手にしてくれない。冷たいなあ。やれやれ。全く、あの四人組は本当にろくでなしだなあ。世の中には本当にしょうもない奴らがいるもんだ。それにしても、こうちまちまとスライム退治だけやっていては、ますますお金が足りなくなっていくのではないだろうか。これはまずいぞ。
おまけに、「お前、顔にケガしたのか。やはりガキは危ないから、スライム退治だけやってろよ、無理すんなって」と冒険者ギルドの主人に笑われてしまった。どうやら、ますます、冒険者としての信用を失ってしまったらしい、くやしいぞ。
悩みながら、孤児院に戻る。夕食は、美人のアマリアさんが作った魚料理だ。これは美味しいぞとバクバク食べながら、そうだ、とりあえず川で魚を取って、食費をおさえようと考えたあたしは、翌日、アレックスたちの小屋を訪れた。魚を釣るんじゃなくて、何とか大量に取る方法はないかと聞くと、「かご漁」ってのがあるのを教えてもらった。大型のかご網の中にエサを入れ、川に沈めたら、あとは一定時間待つだけ。入口が中に出っ張っており、魚は入る事は簡単でも、内側から出ることは不可能となっている。おお、これは頭の悪いあたしでもわかる簡単な手法だ。
試しに、ひとつ川に沈めて、次の日、引き上げてみたら、大量に魚が入っているのではないか。あとは、アマリアさんにお願いして、いろんな方法で料理してもらえれれば、みんなも、当分魚料理が続いても飽きないだろう。あたしは、かご網を大量に作って、川に沈めた。毎日、たくさん捕れるではないか。これは食費が浮くと喜んでいたら、数日後、近くの村の漁師さんが怒鳴り込んできた。どうやら、大量に魚を捕るこの「かご漁」ってのは、禁止されているようなのだ。すっかり平謝りして、許してもらったが、大量に作ったかご網が無駄になってしまった。貧すれば鈍する。困ったなあ。




