第十一話:ルーカス孤児院
さて、ルーカス孤児院の近くにあるアオイノ村という場所の冒険者ギルドに、あたしはアレックスとクリスで行って、修行中のユリアーナと、ついでに強引に鷲のユリウスも登録する。なぜか、あたしがリーダーになった。一番年上のアレックスから、「お前がリーダーでいいよ、いろいろとカクムール王国で経験を積んだらしいからな」と勧められたからだけど、どうでもいいや。あたしは平等主義。さて、仕事はというと依頼されたのは、結局、やっぱりスライム退治。冒険者ギルドの主人に年齢的にどうのこうのと言われる。まあ、仕方がない。あたしは大蛇にサイクロプス、ワイバーン、オーク集団、巨大ムカデを倒したんだけどなあ。まあ、魔法銃のおかげだけどね。
そう言えば、もう魔法銃の弾が無い。ルーカスさんに魔法銃の弾がなくなったから、補充したいと頼んだら、弾はあと一つしかないと言われた。もうたった一つしかないのか。その弾とは、「脱出」という弾だ。確か、魔法銃をくれた時に、なぜかはずしていた弾だな。撃つと安全なところに脱出できるそうだ。
「でも、欠陥があるからだめだな」
「どういうことですか?」
「撃たれた相手が脱出するんだよ」
もし相手が敵だったとして、そいつを逃がしてどうすんの!
「そうだ、自分で自分に撃てばいい、そしたら絶体絶命の時に安全な場所に脱出できるんじゃないですか」
「その場合は、撃った本人が死ぬかもしれないんだ。だから、魔法銃を渡すとき、この欠陥のある弾は危ないから、お前から取り上げたんだよ。そもそも、この魔法銃は子供用のおもちゃみたいなもんなんだよ、ごめん」とルーカスさんに謝られた。
なんだってー! おもちゃの銃でいろんなモンスターやらと戦っていたのか、あたしは!
いや、おもちゃの銃でも、いいことを思いついたぞ。
「ユリウスがゴンドラを掴んで吊り上げている時に、ゴンドラにみんなで乗って、この「脱出弾」をゴンドラに乗ったあたしがユリウスに撃てば、ユリウスとゴンドラに乗っている全員で脱出できるんじゃないですか」
「その場合は、撃ったお前だけ取り残されるぞ」
うーん、一人だけ残されるなんて、悲しいぞ。やっぱり使えないな、この弾は。あたしとしては、この魔法銃は金色で素敵なんで、使わなくても腰のホルスターに差しておきたいんだ。ベルトを腰に巻くので、なんだか外見がカッコよくなるしね。けど、弾が入っていないと、この間のマルセルみたいにバカにしやがるから、一応、ちょうだいとルーカスさんに頼んだら、「自分には絶対に撃つなよ、気をつけろよ」と忠告しながらも、「脱出弾」を譲ってくれた。多分、使わないけど、安全装置をしっかりとめて、装填だけはしておこうっと。
しかし、この話を聞いていたクリスから、「暴発とかしたら、どうすんだよ。お前、死んじゃうぞ」と脅かされた。うーん、暴発事故で死ぬのは嫌だなあ。アレックスからは、「中身を抜いて空砲にすればいいんじゃないのか」と提案されて、そうするかと思っていたら、ユリウスが良い考えがありますよと言いだした。
「悪人を追っているときに、脱出できると思わせて、自分自身を撃たせたらどうですか、そうすれば倒せますよ。または、悪人に追われている時に、絶望的に危険な状況になってどこにも逃げられないってときに、わざとこの銃を落として相手に拾わせて撃たせればいい。そうすれば、エイミーは安全なところに脱出し、悪人は逃げられなくなるのではないでしょうか」
おお、素晴らしい、正義は勝つ。ハッピーエンド! ユリウスはあたしの千倍は頭が良いのではないかな。そう言うわけで、この「脱出弾」は魔法銃に装填したままにした。
ところで、魔法使いのルーカスさんの家は広いんだけど、さすがにユリウスは大きすぎて入れない。そこで、孤児院の隣に家を建ててやることにした。フィリップ爺さんが張り切っているけど、大丈夫かな、滑り台の件があるしと心配してたら、「バカにすんな!」と怒られた。けど、わずか一日で壊れる滑り台の製作者が作った家なんぞに怖くて住めないぞ。「地震が起きて潰れて下敷きになりそうで心配だ」と言ったら、「あれは、お前らが一度に全員で乗ったからだろ、三十人も乗ったら壊れるに決まっている」とまた怒られた。言われてみればそうですね、すみません。
アレックスとクリス、みんなも協力して、すごい立派なのができた。家の中で羽ばたくこともできる。ユリウスもご満悦のよう。まあ、一部屋しかないけど。上の方に大きい丸い窓があって、そこから外を覗くことができる。ユリウスが窓から顔を見せると、巨大な鳩時計みたいで面白い。フィリップ爺さんは張り切り過ぎたのか、ちょっと、腰を痛めたようだ。奥さんのアナベルおばさんも前から腰が痛いと言ってるし、夫婦で大丈夫だろうか、心配だ。
ルーカス孤児院は、一階は大部屋が一部屋あり、その中に五十台のベッドが置いてある。それぞれ、カーテンが天井から吊られていて、一応、プライバシーが守られるようになっている。あたしはいつも開けっ放しだけど。他に、食堂や炊事場、風呂、トイレなどがある。二階にはルーカスさんの部屋やシャルロッテ先生の部屋の他、空き室がいくつかあり、大きい講義室が二部屋ある。その他に、地下工房があり、そこでルーカスさんが趣味の彫刻を作っている。見に行ったら、犬や猫、ウサギ、イノシシ、熊、カエル、魚といった動物ばかり。まるで本物みたいな彫刻だ。小さいけど。「素人作品だよ」とルーカスさんが謙遜して笑うが、マルセルが描いたヘンテコな抽象画より、よっぽどいいな。そうだ、アレックスとクリスが飼っている黒猫のニャーゴに義足を作ってやれませんかと頼むと、「そういうのは作ったことはないが、やってみる」とルーカスさんは挑戦してみるようだ。
さて、ちまちまとアオイノ村周辺のスライムを倒しては、小銭を稼ぐ。今のところ、少しづつお金を貯めるしかないな。継続は力なり。あたしとユリアーナ、ユリウスは全額ルーカス孤児院へ寄付。アレックスとクリスもかなり寄付してくれる。ありがたい。孤児院の会計については、カロリーンやソフィーのような頭のいい子にまかせる。二階の一部屋を会計室にした。あたしは頭が悪いので、無理。
ところで、シャルロッテ先生だけで、約三十人の児童を抑えられるのかな。前の孤児院の時、マリア先生が殺された後は、裏の顔を隠してマルセルの奴が手伝ってくれていたようだ。一応、年長組の子にも手伝わせているんだけど、大丈夫かと思ったら、そこそこ、みんな行儀がいい。フィリップ爺さんに、「お前がいたから、みんなが悪い影響を受けて、夜中に暴れていたんじゃないのか」と嫌味をいわれる。うーん、そうかもしれん。とは言え、やはり、一人だと大変だな。もう一人、先生を募集したい。
と言うわけで、ルーカスさんに、「よろしければ、もう一人先生が来るまで授業をやってくれませんでしょうか」とまた強引に頼んだら、「しょうがないなあ」と言いながらも、応じてくれた。難しいことを教える魔法学校の先生だったから、小さい子供たちを相手に授業するのは、本人にとっては簡単なもんでしょう。
アレックスとクリスは、ルーカス孤児院から少し山を下りた、川辺に家を作った。掘っ立て小屋だけど。やっぱり川の近くがいいみたい。川魚が好きなのか、釣りが好きなのかわからんけど。あたしも、休日には一緒に釣りをして楽しむ。
ルーカスさんが、黒猫のニャーゴのための義足の試作品を持ってきた。短い右足全体を布で包む感じで先っぽは木でできている。ニャーゴに付けると、けっこう気に入ったようだ。うまく歩いている。
地味にスライム退治など働きながら、毎日を過ごしているうちに、ユリアーナが、わずか数週間で魔法を覚えた。呪文を唱えると、手の少し先から炎が出る。スゲー、カッコいい。魔法使えるの、いいなあ。それにしても、熱くないのかな。あと、重力を変化できるすごい魔法を覚えたぞ。あたしにかけてもらったら、地面にへばってしまった。「動けん、苦しいー!」とうなっていたら、「ごめんなさい」とユリアーナに謝られる。別に、気にしないでいいぞ。しかし、これで強力なメンバーがパーティに入った。ユリアーナはすっかりルーカスさんに心酔しているようだ。いつも、「ルーカス先生」と呼んでいる。
パーティが補強されて喜んでいたら、例のあたしより一つ年下のスザンナから、「あたいも冒険者パーティに入れてくんない」と言われたが、迷ったあげく、「あと、もう少し待って」と断った。やっぱり、どこかで線引きしないとなあ。「一応、パーティに登録はしとくけど」と答えたら、「何だよ、あたいは補欠かよ」と不快そうな顔をしたんで、「あんたみたいにリーダーシップを持つ子が孤児院に、常に居てくれた方がいいと思ったんだ」となだめたら、納得してくれた。本人はいつも、腰を痛めたフィリップじいさんの代わりに、斧でドカンドカンと薪割りをやっている。背が高いから、迫力がある。一応、ウォリアーでメンバー登録をしておいた。それにしても、なんでもかんでもあたしが決めているような気がするのだが、いいのかな。
いいか、あたしはリーダーに登録されてるから。




