表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/16

プロローグ 悪魔のささやきに抗う日常

キャスト紹介

月宮瞳(27)162センチ おとなしくて尽くすタイプ。高校を卒業後、一般企業に就職。クズ男の妻のように尽くして働かない彼に文句も言わない日々。


三木隆志(男:27)182センチ モデルとして事務所に登録している。芸能人として成り上がることを目標としているが、現実は素行の悪さから全く売り出されず。ニート同然で養われている。


こんな生活をあと何年続けていくんだろう。仕事を急いで片付けながら、そんなことを不意に考える。


「お疲れ様~。月宮さん、この後飲みにいかない? 飲み放題だけどいい酒揃ってる店あるんだ」


「先輩、また新規開拓ですか~? そういうことならご一緒しますよ!」


「そうなの~! 店員にイケメがいてさ。で? 月宮さんはどうする?」


会社の制服を脱ぎつつ問いかけられて、私は薄いシャツの上に古びたニットのカーディガンを羽織りつつ、


「すみません。彼が待っているので帰ります」


と申し訳程度に笑みを浮かべつつ断る。この同僚は社内のゴシップが大好きなので話しすぎないようにしているけれど、入社一年目に色々と訊かれるまま答えるという大失敗を犯しているので…


「あぁ、あのニートな彼氏でしょ? いい加減に別れちゃいなよ~。夢があるとか言ってばかりで役に立たないじゃない」


あっさり急ぐ目的を明かされてしまう。大声で遠慮なくというのが私と彼女の力関係を物語っているようで、気に入らないけれど黙っておく。


「そうなんですか!? 瞳ってば、自分のことはちっともしゃべらないんだもの~」


「男に依存しちゃ失敗するよ~! 昨今の女は自立してなきゃ損するよね」


頷きあう同期を尻目に使い古したバッグを片手に更衣室を出ていきつつ、


「それじゃ、失礼します。お疲れ様でした」


と笑みを浮かべたままで告げる。それからは大急ぎで駅前のスーパーへ向かう。選ぶのは私の好きな魚料理でなく、肉料理に使える食材ばかり。


「昨日は唐揚げにしたから、今日はハンバーグにしようかな」


そんなことを呟きつつ高価な牛ひき肉を選んでカゴに放り込む。あとは彼が食べてくれそうな野菜をいくつか選んで、最後に頑張っている自分へのご褒美に、黒いパッケージのダークチョコを選んで…


「私一人なら野菜だけでもいいのに… 魚は食べてくれないから困るよね」


レジに並びつつ小さく呟く。今は春だけどインフルエンザが季節外れに大流行していて、誰もかれもがマスクをしているから独り言を漏らしても気づかれない。…本当は安い魚のアラで何か作りたいのにな。


本音を飲み込んで薄っぺらい財布で料金を支払う。店員さんの接客だけは丁寧なのが、どこか惨めに感じるけれど気づかなかったことにして、大急ぎで家へ帰る。



家へ帰ったら急いで夕食の支度をして、洗濯物を片付けて… ゆっくりお風呂に入っている余裕は今日もなさそう。…仕方ない、仕方ないんだ。お湯をぜいたくに使うなんて、今はできないんだから。


「彼が売れてくれるまでの我慢、そうだよね」


言い聞かせて彼の待つアパートのドアを開く。ワンルームの部屋に敷きっぱなしの布団の上で、スエット姿の彼… 隆志がスマホで誰かと連絡を取り合っていた。


「お! 今日、空いてるんだ! 急いでいくよ~。昔から言ってるだろ? 俺は推しの為なら何でもできる男だってさ~」


また浮気かな… そんなことを思ったけれど、気付かなかったことにして小さな台所の作業台に買ってきた食材を広げていく。


隆志は、本当は夢なんかなくて…… 私の稼ぐお金だけが目当てで……


そんな悪魔のささやきが聞こえてくる。意識して聞かなかったことにして、夕食の支度を急ぐ。


「ちょっと出てくる。朝まで帰らないからな」


スマホを切ると、急いでブランド物の服に着替えながら言う。私にお帰りを言うこともない。…本当は、私は都合のいい女でしかなくて……


「分かった。朝食だけ用意しておくね」


「頼むな」


そんなことを言いつつ私の財布をあさって、有り金を全て取り出す。


「ちょっと待ってよ…! 今月はそれで最後なのに」


「モデルは人脈作りも大事なんだよ!! 俺の芸能活動に口出しすんじゃねえ!」


そう怒鳴り散らしながら空になった財布を乱暴に投げつける。今日は平手打ちがない分だけマシなんだ。…まだ大丈夫、愛されているんだ。私は彼女だって思えるから。


言い聞かせて、高価な香水のにおいをさせて出ていく隆志を見送る。



…不意に涙が浮かぶ。惨めで辛くて。でも、耐えるしかなくて。


「お金、全部持ってかれちゃった。お給料日までどうやってやりくりしたらいいんだろ… あと三日だから食べなきゃどうにかなるかな」


慰めるように呟いて、取り出した食材を全て小さな冷蔵庫に片づけていく。代わりにチョコレートを一粒つまむ。


「大丈夫… まだ頑張れるよね。努力していれば、きっと幸せになれるよね」


こうして何度自分を励ましただろう。


…どうせ無理なのに。報われることなんてないのに。もう何年も芸能活動なんかしてないくせに。

…また浮気されてるくせに。本当は何もかも分かっているくせに……


「うるさい! そんなことあるわけない!!」


心の中から響く悪魔のささやきを封じ込めて無視して、今日も私は私に嘘をつく。お腹が空いているせいだと言い訳して、シャワーを浴びてホットミルクを飲んで、まだ訴える空腹を無視して粗末な布団に身を横たえる。


こんな時は早く寝てしまうに限るから。眠ってしまえば、辛いこともなにもかも忘れられる。明日の朝から、また頑張っていけるから。


……誰か、誰でもいい。私を助けて。


そんなことを祈りながら無理やり眠ろうとする。



思い出すのはまだ高校生だった頃だ。隆志は学校内でも大人気のモテ男で。ファンクラブまで出来ていて、女子生徒から王子様みたいにチヤホヤされていた。時々、私の所に来てはモデル事務所からの名刺を自慢したりして…


そんな隆志が本格的にモデルを目指すと決めたのは卒業式。取り巻く女の子たちを無視して、私を選んでくれた。一緒に東京に来てほしいと言ってくれて…


今でもその瞬間の喜びと幸福感は忘れられない。…私も勝ち組になれたような、そんな気がしたんだ。あれが幻だなんて思えない。でも、では? 今の暮らしはどうなんだろう。


これが私の望んだ生活? 違う! 私はモデルとして芸能人として売れた隆志の傍に並んで歩くのが夢だ。でも、いつ? いつ夢が叶うの?


隆志は今頃、なにしてる? 本当は分かっているくせに。どうして私にはキスさえしてくれないのか? 一緒に眠ることもしないで夜になると外に出てしまうのか? 少ない給料を誰につぎ込んでいるのか?


ジワジワとお腹の奥から嫌な気持ちが浮かんでくる。寝ている間も、私の心は休むことを許してくれないみたいだ。


…逃げたい。幸せになりたい。こんな人生、生きていたくない。


祈りながら必死で瞼を閉じていた。眠ることができたのは深夜になってからだった。


始めました( ^^) _旦~~ まあ、のんびりお付き合い下されば幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ