表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
生きとし生けるものたち  作者: 鹿角 望月
森に住む者
3/26

森に住む者②

 エルフの狩りは弓と植物を操作する魔法を使って行われる。


 正体のわからない音の聞こえる、村の東側へ行くことは固く禁止されている。


 そのせいで、エルフは西の方角で狩りを行っている。


 エルフの村の住民は多い訳ではないが、決して少なくない。


 その為か、近場では生き物の気配は全くと言っていいほどにしない。


 村から山を幾つか越えると、ようやく他の生き物の痕跡がちらほらと見え出してくる。


 足跡や糞、木の幹に縄張りを主張するための爪や角で付けられた傷。


 それらをよく観察すれば何時(いつ)着けられたものか、推測できる。


 そこから進んだ先を読み、獲物を見つける。


 気をつけなければならないのは、絶対に獲物を先に見つけること。


 エルフは非力だ。


 純粋な力比べであれば、エルフはゴブリンにすら勝てない。


 もし仮にゴブリン1匹と至近距離で戦えば負けるだろう。


 だから絶対に、獲物は先に見つけなければならない。


 今、アカシアの視線の先には2匹のゴブリンがいた。


 昨日降った雨のせいで泥濘んだ地面に残った足跡を追っているうちに見つけた。


 緑色の肌に、背丈はアカシアの半分程度しかない体には何も纏わず、雄の象徴が丸見えになっている。


 2匹か、とアカシアは心の中で考えていた。


 ゴブリンは恐怖で逃げることは決してない。


 例え相手がどれだけ大物で勝ち目がなくともゴブリンは立ち向かい、死んでいく。


 アカシアは素早く周りを見渡し、弓での狙撃に適した木を見つけると素早く登った。


 植物を操作する魔法で木の幹に段差を作ることで、道具もなく登ることができる。


 そして、ある程度の高さに登ってしまえば、ゴブリンからは決して手出しはできない。


 弓を構え、狙いを定める。


 魔法で作った()()()のある木の枝に蔦を張って作った弓だ。


 音もなく放たれた矢にゴブリンの体は貫かれた。


 相方に起こった出来事を理解する間も無く、残された1匹にも同様に矢が刺さる。


 ゴブリンが動かなくなってからも少し待って様子を伺いながら、アカシアは木から降りた。


 足跡から、2匹の他にはいないことはわかっていた。


 しかし、絶対ではない。


 少しの油断が、命取りになることもある。


 狩りも弓も魔法も全て、ミモザから教わったことだ。


 アカシアは手早く刺さった矢を抜き死体を漁り始めた。

 

 ゴブリンを狩る目的。


 それは村の近くに住む外敵の駆除のため。


 そして、『魂石こんせき』を取るためだ。


 魂石は魔族の体表に宿る。


 宿る場所と色はそれぞれ異なる。


 この2匹のゴブリンには腹と顔に魂石が宿っていた。


 ゴブリンから取れた砂粒ほどの大きさの、透明な2つの石。


 アカシアはそれを自らの魂石に押し付けた。


 右手の甲にあるアカシアの薄緑色の魂石に、水のように溶け合い1つになる。


 生きている者の魂石は透明で綺麗なままだ。


 宿主が死ぬとその魂石は濁る。


 そして、濁った魂石を透明な魂石に押し付けることで吸収できる。


 そうすることで取り込んだ魂石の分、その色は濃さを増し、宿主は強くなる。


 ゴブリン程度の魂石を取り込んでもすぐに効果があるわけではない。


 それでも確実に、その魂石は自分の力になる。


 そして、魂石の持ち主の魂を引き継ぐことができると言われている。


 強さと、そして、()()も。


 これを『魂迎え』(たまむかえ)と呼んでいる。


 しかし、ゴブリンの記憶を受け継いでも大して得られるものはない。


 ゴブリンの単純な思考で見てきたものは()()()て視認する事は難しく、どこを歩いているのかも全くわからない。


 これが、色の濃い魂石であれば何かが変わるのだろうか、とアカシアは思う。


 まだ、アカシアはゴブリンの魂石しか迎えた事がない。


 エルフの村の周辺には魔物が現れる事は珍しい。


 居たとしても大抵が他のエルフに狩られてしまう。


「村を、出たいな……」


 口から溢れた言葉は本心だった。


 山の向こうから聞こえる音の正体も、恐ろしいが確かめたい。


 村を出て、まだ見た事のない、いろいろなものを見てみたかった。


 エルフの村には、村の外から持ち込まれた珍しいものがいくつかある。


 光かがやく『鉄のナイフ』や不思議な音のなる『楽器』など、だ。


 実際に触った事もなく、しっかりと手に持って見たことがあるわけでもない。


 村の外にはそれだけではなく、もっとたくさんのものがあると思う。


 それらを見てみたかった。


 しかし、それが叶わないこともわかっていた。


 どんな危険が待ち受けているかわからない上、エルフの掟で村から抜けることは固く禁止されている。


 一度抜けたら、()()()戻ってくることは許されない。


 そうなればきっとミモザも悲しむだろう。


 だが、いつか村を出ようと密かに決めていた。そのいつかはまだわからないにしても。


 いろいろなことを考えながら、アカシアは村に留まり続けていた。


 魂迎えが終わると、ゴブリンの死体は魔法を使い、その血肉を糧に植物を育てる。


 こうすることで魔物がゴブリンの死体に釣られてくることを抑制できる。


 他の魂石は欲しいが、その為に危険を冒す事はできない。

 

 死体の処理が終わった頃には陽が高くなっていた。


 暗くなる前に家に戻らなければならない。


 闇夜はエルフに適さない。


 視界が見えなければ矢など当たるはずがない。


 荷物を背負い直し、アカシアは来た方向へと歩き始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ