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虎招亭 ①

― ロンディウム市街 中央区 時計塔 ―


 最上階へと向かう昇降機の中、アイシャは逸る気持ちを抑えていた。火の国への遠征が貴族院で多数可決されたとルーファスから聞いたばかりだ。今は雷の魔女のもとに向かい、遠征の承認、即ちイズナディア女帝の裁可が得られたのかを確認しようとしていた。


 昇降機にはルーファス、ヴァンデール、そしてヴェルミオンが一言も発さず緊張した面持ちで到着する時を待っている。ヴェルミオンは雷の魔女の許可を得て時計塔の保護下に置いていた。


 アイシャたちが二日連続でハイデ公園に現れない場合、ヴェルミオンは危機を知らせにガーネットへ帰還する手筈だったが、そのことを魔女に伝えた所、直ぐにムーナを差し向けてくれた。


(国としては敵対しているのに、アルメリアは私たちを客人のように扱ってくれている。)


 アイシャは腕に乗るヴェルミオンへと視線を向ける。深紅の不死鳥は体長に比して驚くほど軽く、一切身じろぎしないためアイシャに負担を感じさせない。


(アルメリアの目的は何だろう?)


 火の魔女との信頼関係に依るものなのか、アイシャたちは殆ど不自由することなく時計塔内で過ごせている。それが却って物事が上手く進み過ぎていると感じさせた。


 ルーファスの手によって昇降機が停止し扉が開く。魔女の真意を把握するのはこれからだった。






 アルメリアの研究室に入ってすぐ、アイシャは口を開いた。


「アルメリア! 遠征は決定したの?」


 執務机に向かい何かをしたためていたアルメリアが顔を上げ、静かに答える。


「ええ。たった今、ムーナから連絡を受けたわ。女帝陛下の裁可を得たとのことよ。」


 ムーナは背後の止まり木に控えていた。アイシャが口を開く前に、ヴァンデールがアルメリアを問い詰める。


「帝国の狙いはどこだ? ヒブラルタル海峡か?」


「その通りよ。帝国軍は周到に準備を進めてきた。出動の許可を得た彼らは、今日にでもここを発つでしょう。」


 ヴァンデールの指摘をアルメリアがあっさりと認める。執務机の右横に控えたルーファスが思わず魔女に視線を向けた。


「そうなれば三日後にはヒブラルタル海峡に到着する。早く王国に戻って知らせないと……。」


 アイシャの言をヴァンデールが引き継ぐ。


「もう俺たちを時計塔の管理下に置く必要はないはずだ。まだこの腕輪を外せないと言うのであれば、力づくで脱出を試みるぞ。」


 ヴァンデールが脅すような口調で告げる。


「落ち着いて。貴方たちをこれ以上ここに留めるつもりは無いわ。ルーファス。彼らの腕輪を外して。」


「ああ、分かった。」


 ルーファスが二人に近寄り、懐から取り出した鍵で腕輪を外す。自由の身になったアイシャは安堵を覚えた。


「アイシャ。当初の手筈通り、俺が先行して王国に戻り、事の次第をカトレアに伝える。お前は何とかして王国に戻る方法を探せ。可能な限り戦争が起こる海域は避けるんだ。」


(戦争が起こる海域は避けろ? 戦交官である私に何を言っているの?)


 深紅の瞳に強い光を宿しながら、アイシャは自らの意志をはっきりと告げる。


「いいえ、私は戦場に行くわ。」


 その瞬間、全員が動きを止めた。


「馬鹿なことを考えるな。お前が戦場に行って何ができる?」


「いつまでも子供扱いしないで! 私は戦交官なのよ。」


 父親面をするヴァンデールに対し、アイシャは苛立ちを露わにする。武官の一種である戦交官は、遂行する任務が特殊なため、上官の命令が無い限り戦争への出動は必須ではない。


 それでも、いち早く気付いた自国の危機に対して手をこまねくことは、戦交官としての矜持が許さなかった。


「……もう時間が無い。二度は言わんぞ。大人しくガーネットに帰るんだ。」


「……。」


 アイシャは父親を睨みつける。ヴァンデールがヴェルミオンに視線を向けた。


「こいつを頼む。戦場に行こうとしたら、力ずくで連れて帰れ。」


〈了解した。〉


(ちょっと、ヴェルミオンまで!)


 アイシャは目を見開いて、すぐ傍の作業台に身を移していた不死鳥を見つめる。


「旦那の言う通りだ。いくら何でも戦場に乗り込もうなんて無謀過ぎる。」


「あんたは黙ってて!」


 最も口を挟んで欲しくないルーファスに噛みつく。その様子をアルメリアが興味深げに見つめている。 


「安心して。アイシャは我々工部省が責任を持って火の国へ送り届けるわ。」


 冷笑していたルーファスの表情が凍る。


「……お嬢ちゃんには誰が同行するんだ?」


「勿論、貴方よ。やってくれるでしょう?」


 口元に笑みを浮かべる魔女に、アイシャはカトレアと同種の匂いを覚えた。


「……ああ、分かったよ。やればいいんだろ。」


 吐き捨てるようにルーファスが承諾する。


かたじけない。こいつを頼む。」


「ええ。」


 ヴァンデールが魔女に礼を述べた後、一瞬にしてその姿を消した。


(ふん!)


 アイシャは腕を組み、苛立ちを何とか鎮めようとする。ヴェルミオンを説得しながら、ルーファスの協力を得て戦場へ乗り込むのは骨が折れそうだった。


 思案に沈むアイシャにアルメリアが声をかける。


「アイシャ。取引をしましょう。」

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