購買部
ゆっくり投稿ですが続いてます
久しぶりに一人で学校に登校したら、着いて早々泣きそうな顔をした氷さんに謝られた。
どうやら作った弁当を家に忘れて来てしまったらしい。
氷さんでも失敗することがあるんだなあと微笑ましく思っていたのだが、当の本人は思い詰めた様子で俯いている。まるで俺がいじめたみたいになっているじゃないか。
クラス中の視線が痛い。特に猫矢さんの。
下手なことを言えば今にも飛びかかってきそうだ。
「お、俺は特に気にしてないよ。そうだ、後で購買にでも買いに行こう?」
氷さんに自分がお金を出すので好きなものを選んでほしいと言われたが、そこまでしてもらうわけにはいかないと断る。
ただでさえ弁当を作ってもらっているのにそれ以上してもらえばこちらが申し訳ない。
だが氷さんは見るからに落ち込み、猫矢さんが襲い掛かって来た。解せぬ。
――――
――
結局氷さんにおごってもらうことになってしまった。
申し訳ない気持ちで一杯だが、何故か氷さんは嬉しそうにしている。
だがこの学校の購買は戦場だった。
自らの胃袋を満たすため、何が何でも食えるものを手に入れるため、学校中の猛者が購買開くのをいまかと待ち続けている
特に人気なのがカツサンドだ。一日限定二十個しか販売されない特注品で、中には一年間購買に通い続けていまだ食べれない生徒もいるらしい。
「鈴木君もカツサンド食べてみたい?」
「そうだね、学校生活で一回ぐらいは食べてみたいよ。でも今日は焼きそばパンを――って氷さん」
俺の横にいたはずの氷さんは既に熱気あふれる戦場に立っていた。
自身よりもはるかに高い巨体を持つ生徒を押し退け最前列を陣取っている。
「氷さん⁉」
「待っていて鈴木君。必ず手に入れるから」
額に汗を流しながら微動だにしない姿を見ると、焼きそばパンの方が欲しいなんて言いづらい。
氷さんを信じて待つしかなかった。
開店時間になり購買が開いた瞬間、生徒たちが濁流の様に一斉に流れだした。
先頭を行く氷さんの横に四つの影が並ぶ。
「我こそは購買部四天王が一人! 真っ先に購入するがが小食でほとんど食べれない『疾風』の蚊藤!」
「邪魔」
「かああああ‼」
がりがりの生徒が何もない場所で転んでリタイア。
「俺はあらゆる肉商品を食らう男! 『肉団子』の岩丸!」
「どいて」
「いわああああ!」
岩のような巨体を持つ生徒も氷さんの前に沈んだ。
「たとえ氷ちゃんであってもここは譲れない! 『お姉ちゃん』の火富!」
「今日一日口聞いてあげない」
「ごめんね氷ちゃああああん‼」
何やってるんだ火富さん。
「生徒たちの模範となるべきだが自分の空腹には勝てない! 『生徒会長』の私!」
「廊下は走らない」
「すみませんでしたああああああ!」
おい、生徒会長。
「こ、これほどの強者がまだ学校にいたとは……!」
「俺たち四天王と同等――いやそれ以上!」
「さすがだね氷ちゃん!」
「貴方こそ購買部チャンピオンに相応しい!」
「お断りします」
倒れ伏す四天王に見向きもせず、氷さんはカツサンドを獲得した。
「はいどうぞ。欲しかったらいつでも買ってくるから。
やべえ氷さんカッコよすぎる。
照れ隠しのためカツサンドを受け取り、一口ぱくり。
コンビニで売ってるカツサンドと同じ味がした。