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13人目の勇者  作者: ユウジン
第二章・エルフの国
8/10

ヴィーダ・ツブーダ

「うめぇ……」


ローブを深く被って顔を隠しながら、大和は口に放り込んだサラダに、頬を緩める。


さて、グリーンペンタゴンに入国した大和達だが、今晩の宿探しの前に腹を満たそうと言う話から、勘で店に飛び込んだのだが当たりだったようだ。


シャクシャクとしたレタスみたいな野菜や、じゃがいもやニンジンみたいなもの(同じなのかが分からないが、味や見た目は同じだ)等々基本的に好き嫌いがないお陰で口にドンドン運ぶが、ココは少しゆっくりと食べている。何時もの彼女は見た目より良く食べるので珍しいと思っていると、


「お肉が……食べたくて」


そんな彼女の言葉に、大和は成程と頷いた。ビーストは野菜も食べる。ココの実家も農業をやっていたのだから当然だ。だが同時に肉や魚を好んで食べる。どれくらいかと言うと毎食でかい皿に山のような肉が出るくらいだった。


対してエルフは野菜中心処か野菜しか食べない。我が儘言っていられないと分かっていつつも、長年の食生活を突然我慢すると言うのも中々大変だろう。タダでさえ、ビーストの村からの道中は携帯食料や、たまに彼女が狩ってくる小動物が精々だ。


なので腹一杯肉を食したいと思うのは仕方ないかもしれない。とは言えここに来るまでの道中街を見て回ったが、肉を扱っている店はなかった。


まあ余り長居する予定はないし、少し我慢して貰うしかない。 そう思っていたところに、


「聞いたか?ビーストの村が勇者にやられて滅んだってよ」

「この街にも勇者が来てるし、ヒューマンの動向はキナくせぇしこれからどうなるんだよ」

『っ!?』


近くの席に座ったエルフの男達の言葉に、大和とココは体を強ばらせる。


既にビーストの村は滅んだと言う話はこっちまで来てるらしい。だが勇者が来ていると言う話は二人にとって無視できる話じゃない。自分達を追ってきた感じではなさそうだ。恐らくビーストの時と同じように降伏勧告に来たんだろう。


「出ましょうか」

「あぁ」


正直ココの申し出はありがたかった。ビーストの話題は聞くと胸が締め付けられる。自分のせいなのは真実だ。だがじゃあ聞きたいかと言われれば否である。


ココも悲痛な面持ちで財布からお金を出しながら、こちらの世界で言うレジみたいになっている一角に行くと払う。余談だが、こちらの世界にも貨幣制度はあり、ヒューマンもビーストやエルフと言った亜人達も含めて、銅貨・銀貨・金貨・紙幣の四種類で生活している。因みに価値としては、銀貨は銅貨10枚分、金貨は銀貨10枚分で、紙幣は金貨10枚分の価値になるらしい。


そんなことを思い出しながら、ココが支払うのを待つ。すると、


「おい、あんた。旅の人か」

「ん?えぇ」


突然話し掛けられ、大和は振り返りながら返事をすると、ビーストや勇者の話をしていた客達だ。まだ日も高いのに早速酒をガンガン呑み始めており、顔が赤くなっていた。


「こんな真っ昼間からフード被ってるしどこから来たんだい?見たとこ男女だが……まさか駆け落ちかい?」


いやぁ~あっはっは。何て笑いながら誤魔化そうとするが相手はこちらをジッと見て視線を外さない。まさか正体を見せるわけにもいかない。この世界でヒューマンは嫌われ者だ。しかもヒューマンと現在不穏な状況な中でバレたら確実に騒ぎになる。騒ぎになれば余計な揉め事に巻き込まれかねない。そう二人は判断して正体を隠してきたのだ。そう思っていたとき、


「余り旅の人を困らすな」

「え?」


こちらを見てきたエルフの男達の後ろから聞こえてきた声に、大和やエルフの男達は振り替えると、


『た、隊長!?』


眼を見開き、驚愕する男達を見た後、突然現れた細身のスラリとした高身長に加え、もはや芸術の域と言っても過言じゃないほどの顔立ち、だが優男かと言うとそうじゃない。良い意味で成熟した雰囲気が更に魅力を駆り立てる。その男は大和を見た。


「うちの部下が失礼した。すまない、どうもエルフは外から来た者を取り敢えず疑ってしまう習性があってね」


どんな習性だと思うが、それは口にせずいると、ココが戻って来る。それを見た男は、


「連れも来たみたいだな」


と言い、次に今晩の宿は?と聞いてくる。随分突っ込んでくるなと思いつつも、大和が決まっていないと答える。すると、


「なら良い宿を紹介しよう。安くてごはんも上手い。後壁も厚いから防音もしっかりしている」


なぜ防音?と大和は首を傾げた。それを見た男は、


「いや男女二人だけの旅なら良い雰囲気になったらヤるだろ?」

「そう言う関係じゃねぇから!」


公衆の面前のど真ん中で何言ってんだこいつと大和は思いながら怒鳴ると、男はケラケラ笑いながら行くぞと背を向ける。案内すると言うのは 決定事項らしい。さっきまで呑んでた部下らしき男が何か耳元で言っているが、男は良いから良いからと言って大和とココを手招きする。それを見た二人は、


「どうしましょうか?」

「取り敢えず着いていくだけ着いてった方がいいかな」


正直ここに無理矢理でも残ってそこの三人にまた質問されるより、取り敢えずあの男に着いてった方がまだ良いだろう。そう思って提案すると、ココも同じだったらしく頷いてくれた。


「おい、行くぞ」

「あ、はい」


男に言われ、大和は返事しながら走り出すと、ココもそれを追っていったのだった。



「そう言えば自己紹介し忘れていたな。俺はヴィーダ・ツブーダ。今年で369歳彼女なしの独身。因みにヴィーダって言うのはエルフの古い言葉で笑顔とか笑いって意味でな」

『は、はぁ……』


街を案内されながら、ヴィーダと名乗った男のマシンガントークを大和とココは聞いていた。と言うかこの世界で

もエルフとは長命らしい。まあ尖った耳とかも同じだし、意外と向こうの世界の本に出てくるエルフと共通点は多い。


「因みに職業は王国騎士隊の隊長なんだ」


何て話してる間にも、街の人から隊長さんと声をかけられている。中々人気者な人らしく、さっきの人達の呼び方も考えれば隊長と言うのは嘘じゃないらしい。しかしノリが軽いと言うかフランクな人だ。エルフは排他的な気質だと聞いていし、外から来た者取り敢えず疑うと言っていた。と思っていると、


「どうした?」

「いえ、意外とフランクなので……」


そう言うと、ヴィーダは苦笑いを浮かべて、


「俺は若いからな。若いエルフは昔ほど排他的じゃないよ。それでも疑ったり警戒はするけどな」


それも結構なもんだぞと思うが、これもお口チャックだろう。余計なことは言わないに限るのだ。


「おっと、こっちだ。こっちの方が近道だからな」


そう言ってヴィーダは道を曲がると、大和達もそれに続く。するとそこは暗い路地で、人通りは無い。近道とは言え、余り良い道じゃなさそうだと咄嗟に引き返そうとした瞬間、


『なっ!?』


大和とココの背後に、突然木が生えた。何の前触れもなく、しかも石畳になっているのにだ。だがその木は路地から大通りに戻る道を完全に塞いでいる。大和は蹴ってみるが、勿論どうにかなるわけがない。


「やっぱりか……」

「やっぱりって事は一応俺を疑ってたって訳か。どこでそう思った?」


大和とココが振り替える中、少し先に進んでいたヴィーダは振り返りながら腰の剣を抜いた。


「なんとなく嫌な予感はしてた。でもあそこの場に残るよりはましだと思っただけです。そっちこそなんで俺達を?」


そう大和が聞くと、ヴィーダは顎に手を添えて、


「少し前にローブを被った男女の怪しげな二人が街に入ったと報告があってな」


やはりこの格好怪しいよな……と少しは思っていたのだが、ヒューマンであることがバレるよりマシだと言い聞かせてそのまま来たのだが、裏目に出たらしい。更に、


「今この国が色々面倒なことになってるのは知ってるだろ?それで王国騎士隊も人手が足りなくてな。仕方ないから俺が直々に部下数人をつれて様子を見に来た。そしたらただの旅人にしては持ってるオーラが違う。だが傭兵にしちゃ素人臭い。どっかの国の間者にしては悪目立ちすぎる。だから部下に直接様子を見させたがどうも要領を得ない。間者なら聞かれてもすぐに事情を説明できる設定を作ってくるもんだ。だが怪しすぎる誤魔化しをし出す。意味がわからなかった。だから俺が直接お前らに話を聞くことにしたのさ」


細身の剣を構えつつ、ヴィーダは大和達をみる。


「俺の勘だが……お前ヒューマンだろ?この時期に態々旅するってことはアーバルト王国かクラバット王国にいられないようなことをしたってところか?」


割りと当たっている。そう思いながら大和は息を飲む。剣を構えただけなのにヴィーダの体が大きくなったような気がした。


と言うか今お前と自分を見ながら言ったが、ココは違うと思っているのだろうか?そう思っていると、


「そっちの嬢ちゃんは違うな。何がとは言えないが、持っている雰囲気が違う。どっかの亜人か」


これも当たっているだけに、ヴィーダの勘は凄いと思った。300年以上生きてる者の勘はバカにできないらしい。


「さて、うちの国に何のようだ?さっき言った逃亡犯なのか?それとも大使?いや、勇者がいるのに大使が来る意味がない。しかも正体を誤魔化してまでな。堂々と来るはずだ。じゃあ間者?だが間者にしては少々お粗末過ぎる。正直言ってお前らの正体が考えれば考えるほど読めない。怪しいんだが害意を感じない。ただの逃亡犯なら別にこの国でなにもしないなら別に良いんだが万が一と言うのもある。だから直接来たんだが……言いたくねぇならそれでも良い」


力付くで聞くぞ?とヴィーダが言うと、全身が鎖で縛られたような感覚に陥る。どうにかしないと、そう思うがどう説明する?間者でも大使でもない。厳密には違うかもしれないが逃亡犯に近いか?だがどう説明する?どうも勇者ですってか?出来るわけがない。大和でも勇者はヒューマン以上に嫌われているのには気づいていた。そう考えると逃亡犯で通した方がいいか?そうなると食料などを買えば直ぐに出ると言う旨を伝えるか。 そう判断して大和は、


「俺達は理由があってクラバット王国に向かっている。この国に迷惑をかけるつもりはない。必要なものを買い次第出るつもりだ」


出来る限りの丁寧に説明したつもりだ。少なくとも敵意はないと。だがヴィーダは、


「ふむ、成程。信用できんな」

「ですよね」


自分で言ってて何だけど信用出来る要素はない。敵意がないと口では言っても本心は分からないものだ。そのためかヴィーダは、


「しかもヒューマンが亜人を連れてる?やっぱり怪しいんだよなぁ……」


とても全うな連れだとは思えないと言われるが、それにはココが反論した。


「彼には私の意思で着いていっています」

「益々怪しいな」


この世界でのヒューマンの評価が酷いのか、ヴィーダが勘繰り過ぎる質なのか……恐らく前者な気がするが。


「ヒューマンと亜人の交流は禁止されてる。ヒューマンが亜人をどういうめで見てるかも分かってるつもりだ。その逆もな。それが自分の意思だと?魔法か?」


ホントにヒューマンの評価低すぎません?ビーストの人達ってそう考えると友好的だったんだと思えて来た。そんな中ヴィーダはため息をつくと、


「仕方ねぇ。取り敢えずお前らを一旦しょっぴくぞ。悪いが少し詳しく調べさせてもらう」

『っ!』


ヴィーダの言葉に二人は驚愕する中、ヴィーダはゆっくり近づいてくる。


「抵抗するならしても良いが、その時は少し痛い目見るぞ?」


と言った次の瞬間、ヴィーダは一気に加速してこちらに近づいてきた。その速さに大和は完全に反応出来なかったが、


「ガァ!」

「ぬぅ!?」


ココは反応し、彼女の回し蹴りがヴィーダの顔面を狙う。それを咄嗟に臥せて回避するヴィーダだが、ココは更に鋭い爪を鈍く反射させてヴィーダを狙う。が、


「高い身体能力に爪か。となるとヴァンパイア?いや、ヴァンパイアなら昼間は歩けねぇ。ローブ被った程度じゃ日の光に耐えられないはずだ。となると……まさか」

「何をブツブツ言っている!」


転がって避けたヴィーダを追って、ココは疾走。純粋な速さならココの方が速そうだ。大和の反射神経ではどちらも反応できないくらい速いのだが。


「なっ!」


だが突如、ココの体を地面から木の枝が延び、彼女の体を縛り上げる。その際に彼女のローブのフードが取れ、


「やはりビーストか。まさかビーストに生き残りがいたとはな」


そう言いながらヴィーダはココの首を見る。


「隷属の魔道具はないか。まああれは然程効果高くねぇからな。後は魔法だが……」

「ココを離せ!」


今度は大和が疾走する番だ。拳を握り、全体重を乗せてフルスイングナックルを狙う。だが、


「流石にこの場じゃ判別が付かないな」


ヴィーダはこちらを見もせずに、大和の拳をパシッとキャッチするとそのまま投げ飛ばす。


「かはっ!」


グルンと視界が回転し、地面に叩きつけられた大和は肺から空気を吐き出した。


「ふむ。まあやはりヒューマンか。しかし悪そうな面だな」


転がしたあと、ヴィーダは大和のフードを取り顔を見た。失礼な!と、大和は転がったまま足を振り上げて蹴るが、ヴィーダは剣で防ぐ。


「いっづ!」

「おいおい。一番切れ味の悪い鍔本とは言え思いっきり蹴っ飛ばしといて意外と傷浅かったな」



脛に走った激痛に大和が悶絶する中、ココは眼を見開くと咆哮した。


「ガァアアアアアア!」


牙で腕を絡め取ってくる枝を切り裂き、空いた腕でもう一方の腕を絡め取ってくる枝を引き裂く。そして自由になったココは、ヴィーダに飛びかかった。しかし、


「木よ、我が意に背くものを捕らえよ!」


ヴィーダがそう唱えると、地面から木の枝が何本も生え、ココの行く手を塞ぎ彼女の動きが止まった瞬間囲むように生え、そのままココを包み込んでしまう。


「ココ!」


大和は、ヴィーダの手を払い強引に離れると、殴りかかった。


「よ!っと」


だが持って無い方の手でジャブのようなものを放ち、ヴィーダは大和の突進を止め、そのまま回し蹴りを大和に叩き込む。


「ごほっ!」


コメカミに綺麗に入れられ、大和は世界が歪んでいくように見える。


「ラァ!」


そしてトドメとばかりに、さっきまで蹴りの軸足だった足で今度は大和のさっき蹴った方向とは反対側から蹴り、大和はそのまま地面に倒れ意識を失う。


「ホイッと」


そして大和も同様に木の枝で包み込むと、


「さて、行くか」


ヴィーダは剣を鞘に戻し、そのまま木の球体となった二人を引きずって、どこかへと姿を消したのだった。

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