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13人目の勇者  作者: ユウジン
第一章・勇者と獣
3/10

獣耳

「ん……」


瞼越しに感じる太陽光に大和は目をきつく閉め、それからゆっくりと目を開ける。周りを見る。


木で作られた見たことのない内装の部屋に大和は目が覚める前に起きた出来事を思い出す。


確か突然知らない場所に飛ばされて、んで何か勇者扱いされて……そうだ、今度は意識を奪われて高いところから放り捨てられたんだ。


咄嗟に頭は庇ったけどここはどこなんだ?と大和が思っていると部屋の扉が開かれた。


「あ、目が覚めたんですね?」

「ん?」


大和は部屋に入ってきた少女に目を奪われる。栗色の髪と金色の瞳、均整の取れた体に何より……


「犬耳?」

「え?はい。そんな珍しいものじゃないでしょう?」


その少女は自分の頭から生えている犬耳に手を伸ばして触りながら首をかしげる。


(え?普通に珍しいものですが?)


犬耳が生えてると言う状況が普通じゃないはずなのにこっちが変な眼で見られるんだ?と大和は困惑していると、犬耳少女はこっちに来てお盆に乗せた食べ物を差し出す。


「もう三日も寝てたんですよ?取り合えずちゃんと食べましょう」

「え!?俺三日も寝てたの?」


大和は少女の言葉に目を見開く。確かによく寝たような気がするが三日も寝ていたのは予想外だ。


「でもまだ激しい動きをしたらダメですよ?怪我は治ってないんですから」

「あ、うん。ありがとう」


スープから口に運ぶと、確かにしばらく食べてなかったからなのかお腹に染み渡っていく感覚がある。


優しい味だと思いつつ少女の顔を見る。年は同じか寧ろ下くらいだろう。シャープな顔に整った目鼻立ち、スタイルも良いし十分すぎるほどの美人だ。うむぅ……と結構ドキマギしてしまうのは健全な男なのだから仕方ないだろう。


「どうかしました?」

「あ、いやぁ……なんでもない」


ここで君の顔が可愛いから見惚れてたとか言えればカッコいいのかもしれないがそんなのが年齢=彼女居ない歴の自分が言える訳がない。そうやって考えるとギャルゲーの主人公って凄いよね……


なんて思いつつ目を背けると、ふと投げ捨てられる直前の会話に出てきた単語を思い出す。


「ビースト……」

「はい?」


少女は首を傾げるが、大和は気にせず言葉を続けた。


「そうそう。何か捨てられる前に聞いたんだけどこの辺ってビーストって言う奴がいて万が一生きててもそいつらの餌だからみたいなこと言われてさ。今更ながらちょっとホッとしてるんだよ」


アハハと大和が笑うと、なぜか少女は眉を寄せて怪訝な目を向ける。どうしたんだろう?と思いつついると、


「そう言えばまだ名乗ってませんでしたね」

「ん?あぁ、そうか。俺は不動 大和。命を救ってもらって助かったよ。ありがとう」


そう大和が精一杯笑顔を浮かべながら言うと少女もにっこり笑みを返した。


「初めまして。《《ビースト》》のココです」

「……」


ビキ!っと完全に時が止まったような感覚が周りを支配する。大和は頬をひきつらせ、目を見張りながら少女を見る。


「いやぁ、まさか影口処か私を目の前にして堂々とよくそんなことが言えましたねぇ?ビーストがなんでしたっけ?」

「あ、いやぁそのぉ……」


うっそだろおい!と叫びたかったがココと名乗った少女の目はマジであった。


と言うかビーストって名前の響きと投げ捨ててきたやつらの口調的にもっとRPGのモンスターみたいなやつのイメージだったのだが普通に人間じゃねぇか!犬耳生えてるけど。


「い、いやぁ知らなくて……」

「この耳と尻尾で分からない筈ないじゃないですか!」


え?尻尾?と思い大和は少し体を傾けて確認すると確かに尻尾が見える。今までこっちに体を彼女が向けたままだったので気づかなかったが……


「だ、だって見たこと無かったし……」

「そりゃまあビーストはすっかり数が少なくなりましたがそれでもたまに人の街を利用しますし一回くらいは見たことある筈です!」


俺つい先日こっちの世界に来たばっかりなんでわかりませんけど!?っと大和が叫ぶ。するとその叫びにココは石みたく固まった。どうしたんだろうと思っていると、


「もしや、勇者ですか?」

「え?そう言えばそういわれたけど……」


何か役立たず判定されたけどまぁ確かに勇者と呼ばれてたと言うと、ココは慌てて立ち上がったかと思うと、


「すいません!(おさ)に話してきますので暫しお待ちを!!」

「ちょ、ちょっと!?」


そう言うが早いかココは飛び出してしまい、大和は呆然する。


随分慌てて飛び出していったがどうしたんだろう?と大和は困惑した表情を浮かべてしまっていると、するとすぐにドタバタと多人数の足音がしてきて部屋に転がり込む勢いで来た。


「え、えぇと……」


入ってきたのはココと同じく獣耳と尻尾(こっちは犬じゃなくて狐っぽい)初老の男性とその後ろに屈強な男達(全員獣耳と尻尾をつけていると言う中々のカオスっぷりだ)が控え更にその後ろにココがちらっと見える。


「は、初めまして。不動 大和と言います。そちらのお嬢様には助けられまして……」


どう話せば良いのか分からずそう言って切り出すと初老の男性は少し驚いたような顔をしてから口を開く。


「儂はここの長をしているフォスと言う者じゃ。リラックスしてくれて構わぬよ」


そう言えばココが長に話してきますって言ってたっけ……と思いつつ言われたので少し体の緊張を解いた。


それを見てから長は部屋に入りこちらに近づいて顔を覗き込みながらフンフンと鼻を鳴らしてくる。


「あの……」

「ふむ……確かにこの世界の人間にはない匂いをしておる。だが不思議じゃな。魔力を一切感じぬ」


え?そんなに匂います?と大和は思わず自分の匂いを嗅ぐと長は笑う。


「儂でなければ分からぬよ。してお主よ。本当に勇者か?」


そう聞いてくる長に大和は頷きながら突然召喚されたことやよく分からないうちに投げ捨てられたこと、自分の他にも勇者が十二人いたこと等を話すと長は眉を寄せ、口を開く。


「またあれを繰り返そうと言うのか……」

「また?」


大和は長の言葉に疑問符を浮かべたが長は何でもないと言いながら立ち上がりまた口を開いた。


「儂はこれからアーバルト王国に向かう」


そんな長の言葉に男たちは危険だと口を揃えて言う。だが、


「どちらにせよすぐに全種族が集まって行われる会議があるんじゃ。この一件はそこで話さねばならぬ」


そう言って長は今度はこちらを見る。


「お主はこれからどうする?」


そう聞かれても正直何も予定がない。いや元の世界に帰りたいのだがここがどこだかも分からないしアテがある訳がないしと大和が言うと長は、


「なら暫くここに居りなさい」

『え!?』


長の言葉に驚いたのは大和だけではない。ココや長の後ろにいた屈強な男達もだ。だがそんな中でも長は涼しい顔で、


「仕方なかろう。こうして助けておいて怪我がよくなったらポイと言うのも余りに薄情じゃ。と言うわけでココよ。面倒を見てやれ」

「私がですか!?」


びっくり眼で更に驚くココに長は頷き、


「拾った者の責任じゃ」


と長は屈強な男を何人か護衛にすると言って出ていき、残った男もココの肩をポンっと叩いて出ていってしまう。


そうして部屋には大和とココと言うさっきと同じ組み合わせになった。


「えぇと、ごめんね?」

「いえ、長の言うとおり怪我が治ったからポイと言うのもアレですしと言うかまだ怪我も完治してないでしょうし……」


そう言ったココは立てますか?と聞いてくるので大和は足に力を込めてベットから立ち上がってみる。


確かに若干ふらつく感じはあるし少し体が痛むが何とか歩けそうだ。そうココに伝えるとでは村を案内しますと言いつつ服を取ってくれた。


「これは?」

「大和さんが落ちてきたときはバスローブだったのでこちらの服を用意しておきました」


拡げてみてみれば、先程の男たちの服装と良く似ている。成程……確かに自分はパンツと言うかステテコみたいなやつしか着ていないなと思いつつ着てみる。そう言えば俺がバスローブの時から履いていたパンツはどうしたんだ?まぁ後で聞くかと考えながら手を動かすが若干何処かの民族衣装みたいな感じのあるためか着方が分かりにくい。


と思っているとココが貸してくださいと言って服を着させてくれる。自分より頭一個分以上小さい彼女が着させてくれると言うのはかなり気恥ずかしい。しかもこんな美少女がだ。しかも凄い良い匂いがする。ビーストって言うけど全然獣臭くない。


なんてしている間に着替え終わり、ココは大和から離れそれでは行きましょうかと言って先導してくれる。


それに大和は頷きながら少し覚束無い足取りでココの後を追う。すると、


「そう言えばココさん」

「はい?」


ふと着替えるときに思ったんだけどと前置きをしてから大和はココに訪ねる。


「俺のパンツってどうなったの?」

「村の男性が替えて洗濯しておいたので安心してください」


流石に君じゃないよねぇ~と大和は心の中でホッとした。流石に彼女にパンツまで着替えさせてたのだとしたらもうお婿にいけない案件だ。

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