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「とまぁ、ざっくり説明するとこんな感じか」
「お、まえ……クールな見た目してるくせに意外と一途なんだな。今の話聞いて優の印象がガラリと変わったわ」
昼時から少し過ぎた大学のカフェスペースは人影がまばらだ。
微妙に一コマ抜けている時間に休憩していると、大学で友達になった林田が唐崎から聞いたらしい渚との付き合いを詳しく聞きたいとか言い出したのでざっくり説明することになった。
へーとかほーとか言って唸る林田を尻目に、焼きそばパンを頬張る唐崎は話を続ける。
「それで今は看護学コースにいった霧島に合わせるように、コースは違えど同じ大学に入ったんだろ。森山はイケメンだし霧島と仲良いからいいけど、一歩間違えたらストーカーだよなこれ」
「……だよな。俺もいい加減諦めた方がいいとは思ってるが…」
「え、諦めるの? じゃあオレ渚ちゃん狙っちゃおっかなーって、へぶっ‼︎」
林田の顔は、両側から俺、唐崎によってテーブルに沈められた。
「でも実際、霧島を狙う奴は高校の時に比べてかなり増えたぞ。最近すげー可愛くなったもんな」
「だよな。……はぁ、あんなこと言わなきゃよかった」
「え、霧島が可愛くなったのって森山が原因?」
「……たぶん」
大学入学式の帰り道、桜並木の下を2人で歩いていたら急に聞かれたのだ。
「大学生だし、心機一転するべきかな」と。
てっきり二夜漬けで乗り切ってきた勉強を真面目に始めるのだと思った俺は、良いんじゃないかと適当に返事した。
まさかその後髪を伸ばし、私服はGパンしか履かなかったものをスカートを履いたりしてお洒落になったり、メイクまでするようになったので、一気に女の子っぽくなるなんて思ってもみなかった。
そんな可愛くなった渚が他の男と歩いているだけで嫉妬するのに、諦めるなんて絶対に無理な気がする。
「じゃあさ、合コンしようぜ! 新しい子を見たら、気持ちだって変わるかもしれないだろ?」
「こいつ、霧島に16年も片思いしてるんだぞ。たった一夜の出会いでひっくり返るかふつー」
「そんなもん、やってみないとわかんないだろ! はい、決定! オレ、セッティングするから2人とも絶対参加な!」
「待て、まだ行くとは一言も……!」
止める間も無く林田は席を立ち上がり、どこかに電話し始めてしまった。
とりあえず止めなければと腰を浮かすが、唐崎に腕を引っ張られ強制的に座らされた。
「まぁ、強引過ぎるが今回ばかりは林田に賛成だ。森山は1回くらい他の女に目を向けてみろ」
「だが…」
「片思い歴が長過ぎて簡単に切り替えられないとは思うが、切り替えるきっかけがなきゃいつまで経ってもそのままだぞ。ほら、バスケだってシュートを打たなきゃ点数は絶対入んないだろ?」
「なんだそれ、何かの漫画のセリフか? だが……それもそうだな」
林田が幹事という時点ですでに不安だが、唐崎の言うことももっともなのでとりあえず乗っかってみることにした。




