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終焉ペレストロイカ  作者: 如月ライト
第1章「始まりを告げる世界」
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少女の朝

少女は目に涙をためてこう叫んだ。

「お兄ちゃん、待って!」

去りゆく少年の背に叫んでも少年は振り返らない。しかし少年の背は震えている、まるで涙をこらえているように。

「ねぇ!どうしてお兄ちゃんが行かないといけないの!?」

少女は精一杯叫ぶ、しかし去って行く少年は何も答えずにただただ歩みを早める。それは少年の悲しみを表しているようだった。

少女は思った、もうこれ以上叫んでも無駄なんだな、と。しかし少女は叫ぶ、叫ぶことにより兄が帰って来てくれるという願いが少しでもあったからだ。

「お兄ちゃん、待ってよ!…おにぃちゃぁん!!」


がばっ!っという音と共に少女はベッドから飛び起きた。

「はぁはぁ…」

少女は呼吸が荒くなっていた、少し寝巻に汗がしみ込んでいて不快感が余計に増していた。

「だ、大丈夫…?」

と、少女の顔を覗き込みながらルームメイトである少女が大きな目をぱちくりとさせながら聞いてくる。

大きな赤い瞳、大きなウサギの耳の飾り物がついたパーカー、極端に低い身長、そして何よりも目を引くのはその体に似つかない豊満な胸。

月野(ツキノ) 宇佐美(ウサミ) それがその少女の名だ。

しかしそのパーカーと名前のせいでウサギというあだ名がつけられ、それが定着してしまっているが本人はいたって気にしていない様子。

「うなされてたみたいけど大丈夫、雪?」

雪 これがもう一人の少女の名前だ。フルネームは月夜見(ツクヨミ) (ユキ)

綺麗なブロンドの髪の毛、整っているがまだまだ幼さを残す顔立ち、ウサギとは対照的な控えめな胸が特徴的な少女だ。しかし身長はウサギよりも大きめだ。

ちなみに誤解が無いように説明しておくが、ユキは14歳、ウサギは16歳だ。

「うん、大丈夫だよ…ちょっと昔の夢を見ててね…」

と、ユキは答えた。

「そう、まぁ本人が大丈夫っていうなら大丈夫だよね。 一つ気になったんだけど、ユキがうなされてる間ずっとお兄ちゃんって言ってたけどさ、ユキってブラコン?」

と、ウサギは笑いながら尋ねる。

(えっ!?私声出しちゃってたの…!?)

と、ユキは思った。 途端にすごく恥ずかしくなってきた、顔が赤くなるのが分かる。

夢の内容を口に出していたことがその主な原因だが、ウサギにブラコンと言われたことも重なって普段は見ないような慌てぶりをするユキ。

しかしすぐに真顔に戻り、声を少し落としてから

「ウサギの愛用の銃、へし折るわよ…」

と言った。

するとウサギはそれを聞いた瞬間顔色を変えてその大きな瞳に涙をためて

「ごめんなさぁい!!」とわめきながら部屋から出ていく。

その勢いはまるで脱兎の如く。この逃げ足の速さもウサギと呼ばれている理由の一つなんじゃないかとユキは思った。

「まぁ、しょうがないか、一回本気でウサギの銃折っちゃったしね」

とユキは笑いながらつぶやく。

過去に一度ウサギの悪ふざけにユキが激昂し、ウサギの愛用していた銃を一丁ダメにしたことがある。 その時からユキはウサギに対してこの言葉をよく使うようになったのだ。


「はぁ、騒がしい朝だなぁ…」

と、ユキは溜息を吐きながら寝巻から制服へと着替え始めた。

着替えながらさっき見た夢のことについてふとこう思った。

「最近お兄ちゃんの夢をよく見るなぁ、お兄ちゃんと別れた時はずっと見てたけど最近になってまた見るようになったなぁ」

ユキは兄の夢を見ることがそれほど嫌じゃなかった。夢でなら大好きな兄と出会える、大好きな兄と会話できる、そう思っていた。

しかし今日みたいな兄と別れる夢は見たくなかった。兄と別れてすぐの時はずっと見ていた悪夢だ、しかし最近は全く見ることが無かった夢だった。

しかしなぜまた見ることになったのだろうかと、ユキは思考して一つの仮説を思い付いた。

「確かあの人を助けた時からお兄ちゃんの夢を頻繁に見るようになって…。 あの人がお兄ちゃんと似ていたからなのかなぁ、早く目覚めて欲しいなぁ」

あの人と言うのはユキが5日前に助けた少年のことである。

少年は川岸に打ち上げられていたところをその近くを散歩していたユキに発見され、そして治療を受けてもらっている。

しかしその少年はまだ意識が戻らないらしく、ユキはすごく不安でいっぱいだった。

「お兄ちゃんが大きくなったら絶対あの人みたいになってるだろうなぁ。 もし本当にお兄ちゃんだったらどうしよう!?私どうしていいかわからないよ!」

と、その考えまで至ったところでユキはその考えを捨てた。

理由は単純だ、兄が生きているという保証が何処にもないからだ。 兄が死んだという報告は何もないがどこで何をしているというという情報も全くない。

それに兄は約束してくれたのだ、絶対に強くなってお前を迎えにいくって。 その約束が守られていない以上兄が生きているということが限りなく0に近い可能性だなと思った。


ユキが兄と別れたのはユキが9歳のころ、兄が12歳のころである。

戦火がユキたちの住む村にまで広がり始めたころだ。

幼かったユキを守るために兄は戦ってくれた、兄はその年齢とは似つかないほどのチカラを発揮して敵勢を削っていった。

しかしその抵抗も虚しく、敵の軍勢がユキたちが住む家の前まで迫ってきた。 その時兄は決意をともした目をしてユキにこう言った。

「俺がアイツらの兵士になる、都合のいい話かもしれないが運が良ければ俺を生かしてくれるかもしれない。 それに俺がアイツらの兵士になる代わりにユキだけでも逃がしてくれと頼むこともできる」

「そんなの嫌だよ!お兄ちゃんがいないと私生きていけない!」

「ユキは少しは俺から離れることをおぼえろよ、それに俺が離れるのは少しの間だけだ。絶対に強くなって必ずユキを迎えにいく、約束するよ、だから…」

そういった兄の声は震えていて、今にも壊れてしまいそうな儚さがあった。

兄はこれ以上話していると出ていけなくなると確信し、何も言わず敵勢の中に一人で向かって言ったのだった。

「逃げろよ、逃げて生き残れ、そうすれば俺が助けにいくからな…」

その言葉がユキが聞いた兄の最後の言葉だった…。


ユキは少し昔のことを思い出しながら着替えを終え髪を二つに結ったのちにいつもの日課を始める。

「今日もいいことありますように…」

と、ユキは星形のピン止めを付けながらこう祈った。

このピン止めは兄からもらったもので兄いわく「これに毎日お祈りしたらいいことあるんだってさ」という事らしい。

その言いつけを守り毎日祈っている。 祈らなかった日は不幸が起こると思うほどユキはこのピン止めの魔法にかかっていた。

実際祈らなかった日にはユキの身に不幸が起こったことがある。たとえば熱を出したり、けがをしたりさまざまである。

ユキは今日起こればいいなと思ういいことを想像しながら祈る。

どたどたどた…!と廊下から足音が聞こえその足音が部屋に入ってくる。

「うるさいなぁ、じゃましないでよ!」

と、ユキは多少怒り気味に振り返りながら足音の主にそういった。

その足音の主はウサギだった。すごく慌てている様子である。

「言い忘れたことがあったんだった!」

と、ウサギが早口に言った。

「何があったの?」

とユキはくだらない事だったら本当にウサギの銃をへし折ってやろうと思いながらそう尋ねた。

「あの人が目覚めたらしいの!5日間ずっと意識不明で不安だったんだけど…ってユキ!?」

ウサギの言葉を最後まで聞かずにユキは言ってくる!とだけ残して部屋を出て行った。


ユキは微笑みながら少年が治療を受けている部屋へと急いだ。

「えへへ、お兄ちゃんのピン止めは今日もいいこと引き寄せてくれたよ。しかも私が一番願っていたいいことをね!後はあの人が…」

ユキは大きな希望を持って廊下を駆け抜けた。


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