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一応の終章

完結です

 さらに月日は過ぎた。


 美味は念願だった豪華客船による夫婦二人の世界一周旅行を済ませて帰宅した翌日に、自宅で眠るように息を引き取った。死因は多臓器不全とされた。


「お母さん、あんまりはしゃぎすぎて、体がついていけなかったのかもね」


 娘の言葉に、皆が納得していたぐらい、美味の死に顔には幸せそうな笑みが浮かんでいたのだ。


 葬儀は既に九十歳を越していたスドウ自身が取り仕切った。老いてもなお矍鑠としたその様子は、周囲から驚きの目で見られた。更には、その後の法要から納骨までも子供らに任せず、スドウ自身が取り仕切ったので子供たちの出番は余り無かった。


 だが、無事に一周忌法要が済んだその夜に、スドウは三人の子供たちだけを自室に呼び、明け方近くまで、何事か語り合っていた。そして、その翌日には妻の墓の前で倒れているのが発見された。

 胸のポケットには第一発見者への詫びの言葉が書かれた短い手紙が有る事から、覚悟の自殺かとも思われたが、司法解剖の結果、体のどこにも不自然な跡は残されておらず、自殺でも他殺でも無く、事件性も無いのは明らかだった。更には、どの臓器も老衰とは無縁の非常に若々しい状態で、なぜ突然亡くなったのか、医者も首をひねるばかりだった。


「なんでおじいちゃんを、解剖に回したの?」


 不審に思った孫が、自分の父に尋ねると、奇妙な答えが帰ってきた。


「おじいちゃん自身の希望なんだ。自分の体がどういう状態だったのか、知りたいんだって」


 その頃スドウは……美味を送り出したあの、巨岩の陰に隠されていた元の自分の体に戻っていた。


「お帰り」

「いきなりたたき起こすなんて、酷いな」


 スドウは人使いの荒い人工知能に、怒りを覚えた。


「済まない。だが、こちらも色々大変なんだ」

「美味ちゃんの墓参りにも行けなくなったじゃないか」

「済まない。また千五百年後にでも行ってくれ」

「そんな後まで、残っているのか?」

「多分」

「へええ」


 須藤麗門として過ごした日々は、本人も気が付かない深い部分の傷を確実に癒していた。


「良い休暇だったろう?」


 その問いをスドウは思い切り肯定した。


「ああ、最高だった」


 あらためて美味と、美味が作ってくれた毎日のおいしい料理に感謝する気持ちがあふれてくる。


「1500年後、また休暇をくれよ」

「働き次第だ」


 人工頭脳はメカのくせに、笑っているようにスドウには感じられた。


「ケチ」


 家に戻ったら、ガレットでも焼こう。

 そう思うと、立ち上がる元気が湧いて来るスドウだった。


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