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木津兄妹は反論する

次話タイトルは『再び反論を』

 誰も何も言わない。

 先程、聞こえたつぐみの言葉。


『返せなくてごめんなさい』


 ヒイラギたち四人には、とても重たい言葉。

 それは彼らの大切な人、マキエの最期の言葉と一緒であるのだから。


『生きてあの子達に伝えて、返せなくてごめんねって』


 何も知らない彼女から、ただの偶然で発せられたことはヒイラギも十分に理解していた。

 皆が自分と同じように、その事を思い出しているのだろう。


「……シヤ、一度リードを解除。少し休んで」


 そんな中、唐突に沈黙を破り品子はシヤへと指示を出した。


「嫌です。このまま続けます」


 だがシヤはそれに従わず、その言葉を最後に何も言わなくなってしまう。


「三条の上官として命令する。木津シヤ、速やかに解除しなさい」

「つぐみさんはきっと、何かを考えているはずです! だから情報を少しでも……」


 パン、という乾いた音が響いた。

 驚いてヒイラギが音の方を向くと、シヤが頬を押さえて呆然としている。

 品子の手がシヤの顔のすぐそばにある。

 つまりは彼女が、シヤの頬を叩いたのだ。

 ヒイラギは慌てて駆け寄り、両手でシヤの顔をそっと包む。

 彼女の首にあった青い光が消えている。

 叩かれたショックで、シヤのリードは解除されたようだ。

 ヒイラギは近くにある簡易ソファーに、シヤをそっと座らせ自分は品子の元へ向かう。


「シヤはあいつの為に、一生懸命にやっているだけだ。どうしてそんな残酷なことを……」

「残酷だよ」


 ヒイラギが言い終わらないうちに、品子が言葉を返す。


「残酷なんだよ。知らなかった?」


 ヒイラギを見る品子の顔は、これまでに彼が見たことのない冷徹(れいてつ)な表情。


「助けることが出来ないのに、無駄な力を使う。それは愚かとは言わないのかい?」


 いつもとは違う冷たい品子からの言葉に、ヒイラギの心はじわじわと切り裂かれていく。


「品子っ、俺は!」

「では聞こう。今のお前に何が出来る?」


 ヒイラギはその問いに答えられない。

 沈黙に対し品子は、もう話す必要がないと言わんばかりの表情を浮かべる。


「答えは出たな。ここからは私と惟之だけで十分だ。お前達は家に帰りなさい」

「そんな。俺は……」


 助けを求めるように、ヒイラギは惟之の方を見るが、彼は何も言ってくれない。


「ねぇ、惟之さんも同じように思っているの? 俺とシヤは必要ないって。ねぇ、俺達はここに居てはいけないの?」


 弱々しく話すヒイラギの耳に凛とした声が届く。


「聞いて下さい、品子姉さん」


 後ろからの声に、ヒイラギはゆっくりと振り返った。

 シヤがソファーから立ち上がり、よろよろと品子の方に向かって行く。


「私のリードを、いつも以上に強く発動します。つぐみさんと私を繋ぐ引綱を通じさせることで、障壁の一部を(もろ)くすることは出来ませんか? 聞く力の方を放棄すれば、リードの引綱の強度がさらに上がるはずです」


 品子は何も言わず、シヤをただ見つめている。


「ここにいる四人の発動能力はサポート側です。他の発動者達と違い、攻撃をする術はありません。だったら無いなりに、力を使っていくしかないです。つぐみさんは力もないのに、自分の観察力と機転だけでここまで一緒に来てくれていました。……私は」


 シヤは少し言葉を途切れさせた後、続ける。


「私はつぐみさんに、直接ハンカチを返してもらいたいのです」


 シヤが正面に立ち、まっすぐに見上げるのを品子は目を逸らさず見つめる。


「シヤ、今までに使ったことのない力の使い方をするのはとても危険だよ。反動が来て、体に大きな負荷がかかる可能性が高い。場合によっては命にも関わりかねない。これは発動者なら誰しも知っている事。それをわかっていて言っているのかい?」

「はい。ここで帰ってしまったら、ずっと今日の自分の行動を私は許せなくなるでしょう。そんな気持ちをずっと抱えるくらいだったら。ここで後悔のないようにしたいと考えました」

「なるほどね。シヤの考え、確かに聞かせてもらった。ではヒイラギ。お前はどうする?」


 皆が一斉にヒイラギを見る。

 だがシヤと違い、ヒイラギには対策が出てこない。


「俺には現状で使える力は無い。でも障壁が無くなれば、俺の発動であいつを引っ張り出すことが出来るんだ」


 そう語るヒイラギの頭の中に一つの考えが浮かぶ。


「障壁をリードで脆く出来たとしたら、そこから俺が弱い部分を壊して通るって出来るのかな? リードを握りながら、あいつの方に向かえばそこが脆い所になるよ、……な?」


 次第に自信が無くなり、つい小声になってしまうが品子は何も言わない。

 沈黙に耐えられず、ヒイラギは問いかける。


「品子、どう思う?」

「全くだめ。百点満点中の四十点といったところか。でもまぁ、二人の話は悪くはない。まず力の応用を考え付いた点。次にその応用の力を、二人で合わせて実行してみようと考えられたこと。でもそれだけじゃ、だめ」

「どうしてですか?」


 シヤの問いに、品子が答える。


「なぜなら、シヤのリードが障壁を脆くさせるという保証はない。脆くなってなければ、結局はヒイラギが足止めされて終わり。あやふやな見通しでなく、もっと確実に成功させるものでなければならない。これに対し反論は出来るかい?」


 シヤは黙り込む。


「考えは悪くはなかった。ただその程度の気持ちではだめだ。さぁ、もう帰るといい」


 言われた通り、確証がないことにヒイラギは悔しさのあまり歯噛みする。

 もしもつぐみがここに居たら。

 彼女はどんな案を出しただろうとヒイラギは考える。

 きっと自分とは違う視点で、品子が納得できるような答えを導くのだろう。

 改めてつぐみの観察力や応用力を思い返し、すごい人間だったのだと彼は感じ入る。

 つぐみのことを、品子が褒めていた時の話が思い出される。


『私達の力はね、思いの強さで変わってくる』

『ざっくり言っちゃえば、私達の力は『思い』、いや『(おも)い』で発動可能になるといった方が近いかもね』


 蘇るのは、あの時の会話。

(おも)い」、つまり「思い」や「想い」より強い意志・信念・願望。

 発動の原点、根源。

 先程の品子からの言葉が、ヒイラギの心に引っかかる。


『考えは悪くはなかった。ただその程度の気持ちではだめだ』


 これは自分に、何かを気づかせるためのヒントなのではないのか。

 ヒイラギは顔を上げ、品子に叫ぶように伝える。


「品子! 反論を俺にさせてくれ」

「……どうぞ、でもこれが最後だと思ってね。私も気が長い方ではないから」


 先程ではないにしろ、相変わらず品子の態度は冷淡なままだ。


「いいよ、上等だね。やってやるさ」


 品子に向かい、ヒイラギはニヤリと笑ってみせる。


「俺の、いや。俺達兄妹の本気を今から品子にたっぷりと見せてやるよ」

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