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人出品子と靭惟之の場合

次話タイトルは『冬野つぐみと靭惟之の場合』

 二人に何かあったのだろうか?

 つぐみはコンロの火を消し、リビングへと向かう。

 部屋の状態に、つぐみは思わず息をのんだ。


 惟之に上から覆いかぶさるようにしながら、右手首を掴まれ自分の下にいる彼を鋭く睨んでいる品子。

 そしてそれに動ずることなく、今にも顔に触れんばかりの距離の品子の右手の指先を、下から見上げ笑みを浮かべている惟之がいたからだ。


「なっ、何が? 先生!」

「冬野君! 今日は帰りなさい。後はヒイラギ達がやってくれるから! 早くっ!」

「でも先生、こんな……」

「いいから帰るんだ!」

「いや、まだ帰りたくないよね? ねぇ、つぐみちゃんはどう思っているの?」


 その呼びかけに、品子がつぐみへと目を向けた。

 その隙を突き、惟之は品子の手首を強く握り直し、その痛みに品子は顔をゆがませる。

 惟之はそのまま横に押し倒すように、もう一方の空いた手で品子の体を強く突き飛ばした。

 そのまま体勢を崩し倒れてしまった品子を横目に、惟之は立ち上がる。

 腕をほぐすようにぐるぐると回しながら、つぐみの元へ惟之がやって来た。


「あー、暴力的な女って怖いなー。俺さぁ。つぐみちゃんに、聞きたいことがあるんだ」

「……私に、答えられることでしたら」

「そんなに怖がらなくても大丈夫。俺は優しいよ? 初対面だから、警戒しているのかい?」

「そうですね、確かに私は初対面ですが、そちらは私をよく知っているようですが?」

「えー。どうしてそんなことを言うんだい? さっきお互いに自己紹介したばかりでしょ?」


 近づいて来る惟之の顔を見ながら、つぐみは無意識に一歩、後ろへと下がった。


「確かに自己紹介はさせていただきました。でも私、苗字だけでしか名乗っていませんが?」

「あれ、そうだっけか? 品子が言っていなかったっけ?」

「先生も確かに私の苗字は何度か呼んでいましたが、名前は言っていません」

「惟之! この子は友人の件で今とても不安な精神状態にいる。変な質問をしてこれ以上、惑わせることは私が許さない!」


 手首を押さえながら、品子が二人に向かい叫ぶ。


「うるさいなぁ。別に取って食うわけじゃない。さてと、冬野さん。君に聞きたいのだが」


 惟之は、改めてつぐみに向き直った。


「今日ここに来たのは、人出さんに貸していたある資料を取りに来たんだ。とても大事なものでね。第三者に見られるなんて、あってはならないものなんだ」

「待て、惟之! 私は……」

「人出品子。私はあなたに服務規程違反の可能性があると考えている。その確認作業をしている今、あなたの発言を認めない。証拠保全のための録音を今から行わせていただく」


 惟之は胸元のポケットからスマホを取り出し操作をすると、ポケットに戻し品子を見つめる。

 その行動に品子はうつむき、黙りこんでしまう。


 つぐみは自分の返答によって品子が罰せられる可能性があるということを悟る。

 これからの発言を間違えることは許されない。

 落ち着いて、しっかり考えて答えるのだ。

 ゴクリとつばを飲み込むと、つぐみは前に立つ惟之を見上げた。

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