くらいへやで2 (カテノナ:S)
次話タイトルは『靭惟之』
体が、全く動かせない。
動くのは拘束されていない首から上だけ。
沙十美は首を下に向ける。
足がない。
いや、足だけではなく彼女の下半身が消え失せてしまっている。
だが今の彼女には痛みは全くない。
相当にきつく拘束されているにもかかわらず、最初に締め付けられた感覚を最後に彼女は何も感じなくなっていた。
その時、絶望の足音といわんばかりに部屋の扉が開く音がする。
現れた相手を、沙十美は睨みつける。
「随分と嫌われてしまいました」
口調だけは寂しそうに、だが口元には笑みを隠しきれていない男が彼女の前に立つ。
「何で……。何でこんなことをするのよ!」
「これは心外ですねぇ。最初に約束したではないですか?」
その男は。
彼女が奥戸と呼んでいた男は、笑みを向ける。
「私はあなたに変わる力を貸してあげます。だからその願いが叶う、あるいはルールを守れなくなったら、……返してくださいってね」
奥戸は沙十美の頬に触れると笑みを消す。
「あなた、私の力の存在を他の誰かに気付かれましたよね? 困るのですよ。私の力は誰にも知られてはいけないと言いましたよね」
沙十美は、駅で会った少年と少女の姿を思い出す。
「自分が使っている力のことを分かっているのですか? あら、髪に何かついていますよ?」
そう話しかけられ、触れられた直後に小さな痛みを感じ、思わず突き飛ばして逃げてしまったあの少女。
無表情で話しかけてきたあの瞬間を思い出し、沙十美の肌に鳥肌が浮かぶ。
「だ、だから誰にも言ってなかった! 店のことだって誰にも知られないように注意していたもの!」
「だったらなぜその人はあなたに接触するのですかね? これはルール違反です」
そう告げる奥戸の姿に彼女は言葉を詰まらせる。
「あなたには罰が必要ですよね。どうでしょう? お友達にも責任を取ってもらうというのは? あなたの親友の冬野つぐみさん。きっと友達の不始末を一緒に責任を取ってくれると思うのです」
「何を言っているの! ふざけないで! あの子は何も関係ない!」
「それがお話を聞いている限り、とてもいい素材なのです。あなたには強い『渇望』。そして彼女には『自己犠牲』を感じます」
奥戸は視線を下に向け、椅子の下に溜まっている黒い水に触れる。
「私達はね、不思議な力を使えます。でもそれを使うと心と体が苦しくなるのです。本来、持ってはいけないものを手に入れている為でしょうか。そこでお薬と言いますか、鎮痛剤的なものが必要になって……」
指先に付いた水を舐めると、奥戸は嬉しそうに沙十美へと向きなおる。
「それを作るのが私の仕事です。前にも言ったでしょう? 別のことでお金は稼いでいるって」
沙十美は自身に話される言葉が理解できず、声を発することが出来ない。
「いままでは己の強い欲望ばかりでしたから、今度は人に与えるという欲で作ったらどうなるのかと考えたのです。実に彼女の感情はそれに相応しい」
つぐみの命をこの男は狙っている。
その事実に沙十美は顔色を失う。
「私は、あの子にこの店の場所を話していない。どうやって連れてくるつもりなのよ?」
「大丈夫です。あなたがここにいるから。彼女はきっとあなたを捜しに来るでしょう? それを迎え入れる。ただそれだけですよ。それにこちらからも呼ばせていただきます」
「……呼ぶ? それは一体?」
自身のために友人が犠牲になってしまう。
失意を隠せぬままの声で沙十美は問いかけた。
「あなたと彼女の絆の証。二人の大事なブレスレット。これが彼女を導いてくれますから」
愉快そうに笑うと、奥戸は部屋を出て行った。
彼の言うとおり、このままでは勘の鋭いつぐみのことだ。
今までの会話などでこの店の存在に気づき、ここに来る可能性は高い。
「どうしたらいい? 何か、何か考えるのよ。今の自分がつぐみに出来ることを」




