優しい時間
次話タイトルは『くらいへやで2 (カテノナ:S)』
つぐみがリビングに戻ると、資料は片づけられ代わりに美味しそうな食事が並んでいた。
ほうれん草の入った卵焼きにお味噌汁、つぐみが作った豚バラもある。
品子は、それをこぼれんばかりの笑顔で食べていた。
「おかえり! 先に頂いてしまっているよ~。匂いとか大丈夫かな?」
「はい、大丈夫みたいです。すみませんが、私はこのまま資料を読ませてもらいますね」
気分は落ち着いたが、食欲はあまりない。
つぐみが机の横に置かれた資料に手を伸ばす。
すると、品子から声が掛けられた。
「でもヒイラギが、君にってスープ作ってあるよ? 良かったらどう?」
「え、そうなのですか?」
ヒイラギの方を見るが、彼は黙々と食べ続けている。
つぐみの方をちらりと見たが、視線はすぐに逸らされた。
「みっ、みそ汁のついでに作ったやつだ。食欲が無いなら食うな」
ヒイラギは一気に話すと、また食べ続ける。
「台所のコンロにあるやつだよ。見てから考えれば?」
品子の言葉を聞き、つぐみは台所へと向かう。
コンロには鍋が二つ並んでいた。
一つには味噌汁。
もう一つの小さな鍋の方には、野菜を煮たスープが置いてある。
皆の方に行こうかとも考えたが、もし体調が悪くなってしまったら迷惑が掛かる。
台所にある席で、そのままつぐみは頂くことにした。
食べられるだろうか。
心配しながらスープを口にする。
薄味だが、だしの香りがふわりと広がるとても美味しいものだ。
中の野菜は白菜と大根で、胃が受け付けやすいようにと、細かく切って入れてある。
味もさることながら、何よりもヒイラギの優しさがいっぱい詰まったスープ。
自分でも驚くほど、あっという間にそれを飲み終えてしまった。
ほぅ、とため息のような声が出て、おもわずにっこりとしてしまう。
その時点で、ようやくリビングに目を戻す。
そこでは品子とヒイラギがつぐみを見ていた。
同時に視線を逸らすつぐみとヒイラギを見て、品子は笑っている。
「いいねぇ。美味しいご飯は人を幸せにするよなぁ。そして青春って感じもいいよねぇ」
楽しそうな品子の言葉に、つぐみの顔が赤く染まる。
慌ただしく使ったお椀を洗い、改めて資料の読みなおしに取り掛かる。
先程のことで動揺したためだろうか。
目はただ文字を追っているだけで、文章が頭の中に入ってこない。
「冬野君、今日はここまでにしよう。鈍くなった頭で考えてもうまくいかないよ」
品子の声を受け時計を見ると、すでに日付が変わっていた。
「確かにそうですね。少し頭を休ませてから、考えた方が良さそうです」
「そうだよ。隣の部屋に布団を敷いておいたからそれを使ってね。おやすみ~」
伸びをしながら品子は廊下の方へ去っていった。
自分も眠ることにしようと隣の部屋へと向かう。
敷いてもらった布団にくるまると、つぐみは静かに眠りにつくのだった。




