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見つからないもの

次話タイトルは『思いと力』

 行方不明の人達の特徴として、男女は関係ないこと。

 行方が分からなくなる少し前に、その人達の心境や環境が大きく変わっていた。

 これが品子達の資料で分かったことだ。


 改めてリビングの机にある、沙十美の資料を見る。

 写真の服はヒイラギ達と初めて会った時のものだから、あの日に何かが起こったのだろう。

 全ての人達が、鞄の中に貴重品はそのまま入っていた。

 つまりは物取り目的ではないということだ。

 沙十美の所持品のリストを見る。

 その内容に違和感を覚え、つぐみは品子に尋ねた。


「先生。沙十美の所持品に、彼女がいつも身に着けていたアクセサリーがリストにありません。……あ、だから」

「そう。それで私は千堂君のスマホで、グループラインにアクセサリーの話を聞いていたというわけだ。結果は振るわなかったけどね」

「彼女は、自分の行っている店を知られるのを嫌がっていました」


 鈴木に行きつけの店を尋ねられた時、さらにはつぐみに蝶のピアスのことを聞かれた時。

 彼女の拒絶はそこに繋がっていたのだ。


「つまり、そのお店が行方不明の人達の手掛かりなのですね?」

「そう。だけど肝心のその店が全く見つからないのだよ」

「沙十美はそのお店は、多木ノ町の駅から歩いて五分位と言っていましたが」

「もちろんそのあたりも調査済み。だが無いのだよね。どれだけ調べても」


 確かにつぐみも、沙十美にプレゼントをするために店を探したのだが見つけられなかった。

 普通に探していては見つけられない店とは、いったいどういうことなのだろう。

 考えているつぐみの前に、コップが静かに置かれる。

 見上げた先に、シヤがお盆を抱えて立っていた。

 礼を言い一口飲めば、どうやらスポーツドリンクのようだ。

 これもヒイラギが買ってきたものだろう。

 彼に礼を言おうと台所に向かうが、そこにはシヤがいるだけだ。


「シヤちゃん、飲み物をありがとう」

「……兄さんが、お茶よりはこちらのほうがいいからと」

「ありがとう。ヒイラギ君は?」

「今、お風呂に入っています」


 以前とは違う冷たい雰囲気につぐみは戸惑う。


「何か?」

「い、いえ特に何もないです。えーとシヤちゃ、……シヤさんとお呼びした方が?」

「特に怒っているわけではありません。これが本来の私の性格です」

「え、そうだったの!」


 驚きのあまり、つぐみはつい大きな声を出してしまう。


「あなたとの接触の際、普段のこの対応だとあなたが警戒すると判断しました。いわばこの間の態度は、あなたを騙していたことになります」

「……」

「あなたは今、不快な思いを感じたかもしれません。ですが、あの時のような快活な態度を今後、求められても私はするつもりはないです。今のうちにはっきりと言っておきます」


 その言葉を聞き、つぐみはぽつりと呟く。


「……ごめんね、シヤちゃん。お仕事だったのだろうけど。偽物の、本当ではない態度を私がさせてしまったのね」


 偽物の自分を演じなければいけないのは、とても辛い。

 本当の自分であることが許されないのは、とても苦しい。

 それはつぐみがよく知っている。


「我慢して接するのはとても辛いです。今のままのシヤちゃんでお願いします」

 ぺこりと礼をして、つぐみはリビングに戻った。


『お前は愚図(ぐず)のままでいるんだ。いいな』


 つぐみの頭の中で響く言葉。

 痛くないのに、無意識にわき腹を押さえてしまう。

 あれから随分と時間が経っているのに、このわき腹を庇う癖をつぐみは治すことが出来ない。


◇◇◇◇◇


 つぐみがリビングに戻ると、品子が機嫌よさそうに鼻歌を歌っている。


「お、冬野君。もう少し資料を読んだらお風呂に入ってきなさい。今日いっぱい汗かいたでしょ?」

「確かにそうですが。私はそろそろ、おいとましようかと。自分の家でお風呂は入りますよ」

「え、だって泊まっていくでしょ?」


 当たり前のように出てきた言葉につぐみは驚く。


「もう夜も遅いし、今日は金曜日だから明日は学校も休みだよ。あとこの資料、持出厳禁だからここで読むしかないよ?」

「それは確かに困りますね。でも着替えもないので泊まるのはさすがに……」

「心配ないよ。風呂上がりの部屋着なら沢山ある! なぜなら私が、ここにしょっちゅう泊まっているからね」


 なぜだか誇らしげにしている品子をつぐみは眺める。


「……あぁ、先生。そういえば週五でこちらに来ていると言っていましたっけ」

「うん、だからいつでも泊まれるように、お泊りセットはいっぱいあるよ~」

「でも急にお邪魔しては、ヒイラギ君達のご両親に迷惑が掛かります」

「いや、彼らの両親はもう亡くなられている。彼らは二人で生活しているんだ」

「二人だけで、ですか?」

「驚くことは無いだろう。君だって高校二年から一人暮らしをしていたのだから」


 だから品子は、彼らを見守るために週五でここに来ていたのか。

 ……ストーカー扱いしていたことを、つぐみは心の中でそっと詫びる。


「この家は広いし部屋数もあるからね。寝る場所の心配もいらないよ!」

「それならやはり、家主のヒイラギ君やシヤちゃんに許可を頂かないと」


 つぐみは二人の姿を捜すと、シヤがパジャマをもって廊下の方に向かうのが見えた。

 どうやら彼女がヒイラギの次に風呂に入るようだ。


「シヤ! 今日は冬野君を泊めるよ。部屋が無いから、一緒の部屋で寝てもいいよね! ね!」

「……先生、さっきと言葉が違いますが?」


 品子にストーカー再認定をし、つぐみもシヤのそばへと歩いて行く。


「つぐみさんが泊まる件、私は構いません。あと、品子姉さんは奥の和室ででも寝てください」

「つれなーい。んじゃあ、私も一緒にお風呂に入ろっかなぁ~」


 品子がシヤに続いて廊下に出て行く。

シヤに対する品子の暴走を止めるべきか、つぐみが悩んでいると廊下から声が響く。


「顔のマッサージだったな、味わえ、品子」

「ひらい! ひらい! ひどいよぉ~」

「……いい加減こりろよ、お前」


 向こう側からの声を聞くに、シヤはゆっくりと風呂に入れそうだ。

 安心したところで再び、資料を手に取る。

 その店が多木ノ町の駅の近くにあるのは間違いない。

 それなのにどうして見つからないのだろう?

 入口がお店のようになっていないのだろうか。

 つぐみは会員制の店の二重扉を想像するが、即座にそれを否定する。

 そもそもそんな店だったら、沙十美が入れるはずがない。


「最初は沙十美も、全く店の存在は知らなかったって言っていたな。それで確かそこの店長さんに、メロメロな甘い言葉をもらっていて」


 ……あの時、彼女は何と言っていた? 

 その当時の会話を、つぐみは思い返していく。


『あなたのかつ? かつ何とかが感じられるこの出会いに感謝しても』


 ぼんやりと輪郭のようなものが、浮かび上がってくる感覚。

 彼女はあの時、変わりたいと思っていた。

 憧れの人に相応しい、輝いた人になりたいと願っていたはずだ。

 品子達が持っている不思議な力を使えるとして。


「あー、痛いわー。超~顔が痛いわー」


 顔を押さえた品子と憮然(ぶぜん)とした表情のヒイラギが戻ってきた。

 つぐみは立ち上がり、二人の元へと向かう。


「先生。先生が持っている力について聞きたいことがあります」

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