思いと力
次話タイトルは『力の根源』
行方不明の人達は皆、その直前に大きな変化があった。
変化が起こるには、何かしらの本人の変わろうとする願いがあったはずだ。
沙十美はあの時、とても強い思いを持っていた。
今の自分ではなく、憧れの人の傍にいられるようにありたいと。
恐らくそれは『渇望』だ。
特定の感情を強く持った人間しか見えない、場所や扉があったとしたら。
このつぐみの意見に、品子は頷きながら答える。
「特定の感情を強く持った人にしか見えない隠し扉かぁ」
「あくまで推測ですが……」
「いや、やはり目線が変わるって大事だね。その方向性は間違ってないと思う」
「これで何かお店を見つける方法はありそうですか?」
「とりあえずは隠されているという前提が出来たからね。こっちの解析組の方にも、そのことを伝えるよ」
「解析組、ですか?」
「うん、そう。この資料とか作った人達ね。リーダーが使えない人だから、メンバーが大変そうでねぇ」
「な、なんだか容赦ない感じですね」
(嫌いなのかな? そのリーダーさんを)
つぐみはそう感じ、ヒイラギの方を見るが、表情を変えず彼は品子を眺めるだけだ。
彼を見る限り、品子はいつもその人に対してはこういった態度をとっているのだろう。
何だか場の空気を、変えた方がいい気がする。
つぐみは何か新しい話題をと考え始めた。
そこでふと、昨日の即興の歌のことはどうやって知ったかと疑問に思う。
「先生。私の昨日の家での様子を、どうして知ることが出来たのですか?」
「あ~、あれはシヤの力だよ。遠くにいても、対象者の声が聴きとれるのさ。ちなみに発動しなくても、数十メートル以内の人の会話ならシヤは聞き取れるよ。すごいでしょ」
「す、数十メートルですか。すごい」
「発動した場合は、そうだねぇ。ここの戸世市内位ならば、範囲内だね」
つぐみは思わず手元のスマホで、戸世市の大きさを検索してしまう。
「ひゃ、百㎢あるって書いてありますが」
「うん、それくらいなら平気。でもシヤの力は、なかなか発動条件が厳しくてね。対象者に一度、直接に触れてないといけないとか。一度に一人しか聞き取ることが出来ないとかあるんだ。あ、シヤと会った時、静電気みたいな痛み感じなかった?」
手当の時に、感じた痛みをつぐみは思い出した。
「シヤの知らない人が対象になると、その相手は痛みを感じるんだ。それに姿が見えるわけではなく、純粋に声だけしか聴こえない。その人が考えていることがわかるわけでもないし」
「わ、分かられても困ります。知られたら私、恥ずかしくて死んでしまいます」
昨日の自分の行動を思い出し、つぐみの顔が赤くなる。
ごまかすように、つい自分の頬をごしごしと擦ってしまう。
照れながら見上げた先、品子の顔色が悪いことにつぐみは気付いた。
「先生、お疲れではないですか? 何だか元気が無いようですが」
「え? あぁ、心配してくれてありがとう。疲れているわけではないんだ。ただ私はその、……君に後ろめたさを感じている」
「えっ、それは一体?」
つぐみの言葉に品子はソファーに座ると、うつむき口を開く。
「実は、千堂君にもシヤの力を発動が出来る状態にはなっていた。だがシヤが発動できる相手は一人だけ。先日も君ではなく千堂君を対象者にするようにシヤに言っておけば、今とは違う展開になっていたのかもしれない。……これは私の判断ミスだ」
力なく品子は言葉を出していく。
つぐみではなく、沙十美を選んでいれば行方不明にならなかったのかもしれない。
「……確かにそうだったなら、よかったかもしれませんね」
「あぁ、詫びてすむ話ではないが」
「えぇ、その通りです」
珍しくはっきりと思いを語るつぐみに驚いたようで、品子が顔を上げた。
その目にある戸惑いを知り、つぐみは互いがいつもとは逆のようだと思う。
いつもの品子は、自信に満ちていて。
一方のつぐみは、おどおどとしてばかりで。
目の前の品子は、まるでいつもの自分のようではないか。
だからこそ解る気持ちもある。
いつものつぐみに当てはめて、考えればわかるのだ。
後悔の中で変えようのない過去に、もがいているときはどうしていたのかを。
ならば、進める様にきっかけを。
つぐみは座り込んだ品子の真正面で、静かにしゃがみ込むとその目を見つめる。
今度こそ逸らさずにまっすぐに。
「でも先生は今、沙十美を助けようとしています。悔やむのはそれこそ後ですればいいのです。だから今は前へ」
そう話しながらも胸の奥にあるのはやはり、不安。
次に行方不明になるのは、ここに居る誰かかもしれないのだ。
だからこそ、そんなことにならないために、しないために。
「先生、私を助けてください。これ以上、悲しい思いをする人が増えるのは、嫌です!」
……言えた! 最後まできちんと言えたはずだ。
気が抜けたつぐみはそのままうつむく。
「……はは。やはりすごいねぇ、君は」
品子の笑い声が聞こえ、つぐみの手をそっと握ってきた。
その手の温もりを感じながら、つぐみが見上げた品子の顔はとても穏やかだ。
「力なんかなくてもすごい。君がもし力を持っていたら、さぞかし強力な存在になっていただろうね。とても強い『思い』を持っているから」
「思い、ですか? いつも流されてばかりの私に?」
「……少し、私達の力について話をしようか。聞いてくれるかい?」
その言葉につぐみはゆっくりとうなずいた。




