真夜中クッキング
次話タイトルは『冬野つぐみの答え』
もう何度、寝返りを打ったことだろう。
時計を見れば午後十時過ぎ。
心も体もクタクタのはずなのに、眠りはつぐみからは遠い。
寝られないならば仕方がないと、布団から出る。
食事の仕込みと品子へのお裾分けをと思いキッチンへと向かう。
冷蔵庫を覗き込み、手持ちの材料を眺める。
「うん、大根と豚肉があるから豚バラ大根にしよう。先生は隠し味にこだわりがあるみたいだから。……ここはポン酢かな?」
ごま油で豚肉を炒める。
ふわりと香ばしい香りがフライパンから立ち上った。
料理の間は何も考えなくていい。
じゅうじゅうと音を立てているフライパンをぼんやりと見つめていると、不意に品子の言葉がよぎる。
『千堂君の行方は、私には分からないんだ』
「駄目だ、考えるな! ……ふんふふ~ん、ごまあぶら~。豚肉ぅ~。バラ肉のバラって何さ~」
余計なことを考えるくらいなら、どうでもいいことを考えてかき消せばいい。
そう思ったつぐみは、思うがままに考えた自作の歌を歌いながら、豚肉を焼いていく。
豚肉に火が通ったのを確認し、フライパンに薄切りの大根を入れていく。
しょうゆ、みりん、ポン酢。
そして余計な考えをかき消すように、それらをぐるぐると計量カップの中で混ぜ合わせると、静かにフライパンへと注ぐ。
しっかりと火が通ったのを確認し、コンロの火を切る。
これで明日には、味の染み込んだおいしいおかずの出来上がりだ。
調理器具と皿を洗い片付けに入る。
いなくなっていた睡魔も、つぐみの元へ戻りたくなったようでまぶたが重い。
品子に渡す容器と保冷バッグを机に準備して、再び布団へともぐり込む。
まぶたの中に広がる心地よい暗さを感じながら、つぐみは今度こそするりと眠りに落ちた。




