人出品子は懐う
次話タイトルは『真夜中クッキング』
ドアを閉めつぐみの足音が遠ざかっていくのを確認すると、品子はその場にしゃがみ込んだ。
まさか何も持っていない普通の人間に、ここまでやられるとは。
もうごまかしは無理だと思った時に、『力』を使ってしまおうとどれだけ思ったことか。
品子が持つ、人ならざる力。
『発動』と呼ばれるこの能力を。
つぐみの勘は相当に鋭く、彼女に『発動』を気付かれる可能性は何度もあった。
品子の持つ発動能力、『人の記憶を操る力』を使えば、全てを「なかった」ことに出来るのだ。
だが品子は力を使わないという選択をして、さらにはつぐみに危害を加えることによって、彼女の危機能力を試した。
結果、つぐみはその危機を見事に乗り切った。
そんなつぐみに対し、品子は協力してほしいと願っている。
それは彼女を、「普通」から切り離すことを意味しているのだ。
だがつぐみの観察眼は、今の品子には必要だ。
これ以上、このままの状況で止まっているわけにはいかない。
遠くから聞こえてくる振動音に品子は我に返った。
閉じていた目を開けると、机の上に置いてある沙十美のスマホが揺れている。
返信をしようとゆるりと立ち上がると、ふいにつぐみの言葉が品子の頭に浮かんだ。
『先生。先生が苦しさを吐き出せるところはありますか?』
「――残酷だよね。それってさぁ」
口に出してしまった言葉に、皮肉な笑みを浮かべると品子は思う。
結局、彼女から逃げ出したくて品子は発動を使い、彼女を無理やりに帰らせたのだから。
一生懸命に言葉を紡ごうとしていた彼女の心は、隙だらけだった。
発動に全く気付かず、彼女は品子の『早く帰らないと』という指示通りに帰っていったのだ。
小さく頭を振り、品子は気を取り直しスマホの画面を見る。
相手は沙十美のグループラインの仲間からだ。
有益な情報では無いことを確認すると、返信をして再び机にスマホを戻す。
「優しいね、あの子は。あんなにひどい目に遭ったのに、その危害を加えた奴の心配なんかして。そんなひどい奴が相手なのに、そいつが傷つかないようにと、一生懸命に言葉を選んで」
混ざりあった感情を抱え、先程までつぐみがいた椅子に座り込む。
品子の脳裏に幼いヒイラギとシヤを抱きしめ、優しく微笑む一人の女性の姿が浮かぶ。
「でもね、だめだよ。そんな風に人ばかり大事にしていたら。……死んじゃうよ」
もうここにはいない、とても大切だった人。
その人を想い、品子は目を閉じゆっくりと顔を上げる。
「ねぇ、マキエ様。そう思いません? 彼女は……。あの子はあなたにとても似ています」




