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姉のコロナに巻き込まれまして  作者: 優木凛々
11/11

騒動が終わって



6月5日金曜日。

緊急事態宣言が解除された翌週末。


俺は、会社でチームを組んでいる3人と居酒屋に来ていた。

納期終了後のささやかな打ち上げだ。


選んだ店は、完璧なコロナ対策をアピールしている店。

テーブルの中央にはアクリル板が置かれ、6人掛けの席に4人が座るシステムになっている。


距離が離れているため、何となく話ずらくはあるが、なにせ久々の飲み会。

俺達4人は、飲んで食べて話して、大いに楽しんだ。


そして、打ち上げ開始から1時間後。

少し顔が赤くなった後輩女子が、俺に尋ねた。



「そういえば、工藤さん。お姉さん夫婦が腸炎で入院した件、大丈夫だったんですか?」

(コロナとは言わず、腸炎で入院、ということにしていた)


「ああ。うん。お陰様で、2人とも退院して、今は普通に生活しているらしい」


先輩男子が同情するような目で俺を見た。


「お前も大変だったよな。

義理の実家に預けたくないから、って、理由で、いきなり5歳の女の子を押し付けられた挙句、人の家に住むことになるなんてさ。

聞いた時、お前んとこの家族は鬼だな、って、思ったよ」


俺は、げんなりして同意した。


「いや、ホント、鬼ですよ。熊本からお姑さんが来るまで、滅茶苦茶大変でした。

でも、姉の旦那さんから御礼にiPad貰ったんで、今は得した気分です」



熊本のお義母さんが来た1週間半後。

姉の夫である良一さんが退院してきた。

良一さんは、恐縮しまくっていた。

病状が重く、亜里沙のことを姉任せにしていたため、状況をよく分かっていなかったらしい。


ちなみに、お詫びとお礼に貰ったiPadは、俺が姉の家でパンフレットを眺めていたのを、熊本のお義母さんが見ていて、良一さんに進言したらしい。

服の趣味はアレだけど、呆れるほど気遣いのできるイイ女だ。


それにひきかえ、姉の態度は実に酷かった。


御礼の”お“の字もないばかりか、口から出て来るのは、ひたすら文句。

その内容は、


「オーガニック止めろって、何様のつもり! あんたのためを思って言ってあげてるのに、何その態度!」


だ。


この期に及んでまだ " オーガニック "。

頭が大丈夫なのか心配になるレベルだ。


昔から、姉は思い込みが激しく突っ走るタイプだった。

そのお陰で迷惑を掛けられたことも多々ある。

しかし、今回はマジで酷すぎる。

正直、金輪際近づきたくないレベルだ。


(―――あいつとは、年賀状のやり取りくらいに止めるのが丁度いいのかもな)



姉とのやり取りを思い出し、俺が遠い目をしていると、同期男子が俺に尋ねた。


「そういえば、工藤のお姉さんって、確かミスキャンパスに選ばれたことあるんだよな?」

「ああ、なんかそうらしい。家にトロフィーみたいなの飾ってあった」

「へえ。きっと綺麗な人なんだろうな」

「……うん。まあ、見た目は綺麗かな」


中身はとんでもないけどな。


すると、後輩女子が興奮したように手を挙げた。


「はい! 私見たことあります! すっごい美人でした!」

「マジか! いつ見たんだ?」

「1年くらい前です! 工藤先輩と一緒に移動したら、突然声を掛けられて……」


ああ、何かそんなこともあったな、と思い出していると、彼女は、うっとりした顔で言った。


「もう、本当に素敵でした。白い日傘に白い服で。髪の毛も肌も綺麗で、生活感なくて、モデルさんみたいでした!」

「へえ~。そんなに美人なのか」

「はい! ああいうの、憧れます! 私もああなりたいです!」


目をキラキラさせて、とんでもないことを言う後輩女子。


「いやいやいや、駄目だろ、あんなのに憧れたら!」


気付くと大きな声が出ていた。

俺の言動が予想外だったらしく、3人は目をぱちくりさせた。


「……え? あの、え? そうなんですか?」

「ああ、絶対に駄目だ。あいつになんぞ憧れたら、取り返しのつかないことになる」

「えぇー……」

「ど、どうしたんだ? 工藤? 目がマジだぞ?」


ちょっと酔っていたせいもあり、俺は真剣に言った。


「ヒョウ柄の服を着た化粧の濃い家庭的な女性と、小ぎれいにしている意識高い系の女性。

昔の俺だったら、後者を選んでいたと思う。でも、今は迷わず前者を選ぶ!」

「……は?」


同僚男子が、お前何言ってるんだよ、と、いう目で俺を見る。

俺は続けた。


「特に、オーガニックに拘っている女性は要注意だ。俺が思うに、あれはいわゆる宗教だ。適度に気を付けるのはいいけど、やりすぎると狂信者化して、人として大切なものを見失う」


意味が分からない、という顔をする後輩女子。

1人だけ何か察したらしい先輩男子は、同情するように俺を見た。


「工藤……。お前、本当に大変だったんだな」

「ええ、物凄く大変でした」


姉と、姉のオーガニック思想対応に。



先輩男子は、グッとビールを煽ると、俺の背中をバンバン叩いた。


「よし! コロナが落ち着いたら、俺が合コン開いてやる!」

「は?」

「こんな時は、パーッと合コンで騒ぐの一番だろ?」



え? そうなの?

なんかちょっと違う気もするけど、姉以外のまともな女性と楽しく飲んで、今回のことは忘れるってのも手だよな。

久々に、参加するか、合コン。


俺は先輩に頭を下げた。


「はい。よろしくお願いします」

「よし! 任せろ! ……で、どんな子がいい?」



先輩の質問に、俺は迷わず答えた。



「オーガニックじゃない、普通の子で!」






これにて完結です。

お付き合い頂き、ありがとうございました!(#^.^#)

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― 新着の感想 ―
[一言]  私の弟嫁が、結婚半年?頃アレルギーで小麦粉乳卵貝発酵品系がダメになり、安全な食品は米豆腐らしいです。弟は野菜嫌いなのですが、頑張って食べてるが嫁がもともと肉嫌いらしく、弟が仕方なくおれてい…
[良い点] 非常時こそ、人間が出るということがよく分かったところ。 [一言] お姉さんのコロナに感染したという話かと思いましたが、振り回されて大変でしたね、、、
[気になる点] 半分本気!? どこまでがマジバナなのか気になります!
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