27男と女(第一部完)
掠れた声で2人が耳元に囁く。
「力…抜いて、ユキ……」
「…挿れるぞ…舞依」
そっとベッドに横たえ、壊れ物を扱うように丁寧に、丁寧にボタンを、服を脱がせていく。
2ヶ月前には生死をさまようような凄惨な暴力が繰り出されたその同じベッドの上でいま、周防は舞依を、咲夜はユキを見つめていた。
1対1で、2人きりで肌を重ねることは彼女たちには既にタブーになっていると咲夜も周防も分かっている。
彼らこそ長年、地獄の底を這いずってきた。
愛だの恋だの言っても、身体にきざまれた苦痛も、心が叫ぶ恐怖も、誰よりもよく分かっている。
お互いに同じ傷、同じ痛みを共有する「仲間」が隣にいないと、抵抗をやめた静かなパニックを引き起こす。
彼女たちにとってのこれは男たちから与えられる暴力なのだから...。
それでも愛しい妻を自分の身体の下に隠すようにして覆い被さると咲夜と周防は思いの丈をぶちまけた。
「ね…好き…好きなんだよ…ユキ。一目惚れだって、俺言ったよね?」
「舞依…俺を…俺だけを見てくれ。俺には最初から…お前しか居ねえんだ……」
自分達の暗い過去の真っ只中に、命がけで救いにきてくれた……俺達の天使。
神聖で、尊くて、絶対で……この想いは祈りのようなもの。
愛なのか、恋なのか、欲情なのか……多分、全部。全部。全部。全部で欲しい。
男たちは泣きそうな顔で互いに自分の妻の額に自分の額をコツン、とあてる。それはあたかも信者が神へ祈りを捧げる姿に見えた。
まさに罪を重ねた罪人が天使の足下に己を投げ出すようなその光景は痛々しくも美しい。
「ユキ……俺を受け取って……」
「舞依……俺を捧げるよ……」
自分達に覆い被さる夫達にユキも舞依も抵抗する言葉は持たない。兄弟の求めに応じて身体を開いた。
うっとりするような眼差しと言葉でどれほど飾ろうと、彼らの言いたいことは「ヤりたい」だ。
そして、ユキと舞依はその求めに素直に応じるように今まで長い時間をかけて躾られている。
否も応もなく、2人は兄弟の熱を受け入れた。
「いい…ユキ…ユキ…ああ、幸せだ……気持ちいい…」
「…あ、ああ…舞依…舞依…ああ…気持ちいい…あったかい……」
恍惚とした表情で幸せを噛み締めるように自分を抱く男の顔を見ながら2人は怪訝に眉をひそめた。
彼らは本当に自分達を愛して求めている、と感じたからだ。
なぜそんなまどろっこしいことをするのだろう?
なぜ自分の心を、意思を求めるんだろう?
ユキも舞依も幸せな男たちを尻目に不可解な難問に突き当たる。
しかし、咲夜と周防は歓喜の交わりの中で徐々に熱を膨らませ、上り詰めていく。その先にあるものを瞬時に理解して、男たちの荒々しい息づかいと打ち付ける腰の激しさにユキと舞依は一瞬、瞳を揺らした。
それを見た瞬間、今の今まで幸せの絶頂にいた咲夜と周防の背中を氷の塊を落としたようなヒヤリとした絶望がスルリと撫でた。
ユキの、舞依の一瞬の瞳の動きに生唾をどちらともなく飲み込んだ…。
「……ユキ、隣を見て」
「舞依も……横を見てみろ」
夫達に言われた通り、ユキと舞依は互いに互いの顔を見た。咲夜が、そして周防が自分達の頭を優しく優しく撫でながら「何が見える?」と言った。
「…とっても、気持ちいいって顔、してる
よ」
咲夜の言葉にユキは舞依をじっと見た。
上気して火照った頬、涙を浮かべて快楽に答える潤みきった目、半開きの口からは細く唾液がこぼれ落ち、理性よりも獣性が剥き出しになっていた。
舞依から見たユキも、きっと同じ。
「……ユキ」
「……舞依」
咲夜はユキの、周防は舞依の耳元に向かって囁いた。低く、深く、理性的で、優しさに溢れた声だった。
「ユキ、同じ顔してる……とっても気持ちいいって顔……ね?」
「舞依も…気持ち良くて蕩けてる……な?」
2人は妻の耳の中に直接言葉を入れるように囁いた。
「「気持ち良くて…いいんだよ」」
気持ち良くなって……
気持ち良くなれよ……
2人、ユキと舞依が自分を手放すことを赦した。妻2人はどちらも、相手の顔を見る。
ああ……わたし……とっても、気持ちいい……
ユキは咲夜に、舞依は周防にしがみつく。男たちは背に爪を立てる甘い痛みとすがりつきに応えるように抱き締める。
「……んっ……ああっ……さ、くや」
「……あっ……あっ……すお…うさん」
ぎゅう、と外も中も締まり、2人は気絶するようにぱたん、と意識を失った。
その妻の姿を痛ましそうに眉を寄せて2人の夫は見つめた。
「……ごめん…ユキ」
「……悪かった……舞依」
男と女の合一の喜びを、性の暴力的なまでの気持ち良さの、更に先にある溶けて一つになる感覚が……彼女たちから自発的に出ることはなかった。
半ばセラピーのように、互いに互いの抱かれる姿を、気持ちいい姿を見せて、やっと客観的に上り詰めてもいいんだと彼女たちは納得した。
仕方がない。仕方がないことだ。
男と女の合一の喜びを…女のオーガズムによる溶け合う気持ち良さを、自分を手放すことによる深い満足感を……肉体で味わうはずの天国を、圧倒的な暴力と度重なる凌辱で無理やり奪い取ったのは……他ならぬ自分たちだ。
「ごめん…ごめんね、ユキ」
「…すまない…本当に…すまない…舞依」
咲夜22歳、ユキ20歳…どちらも絶望を知るにはまだまだ若い。でも、もう同じ痛みを共有している。
周防と舞依に至っては27歳と16歳だった。




