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私の問いかけに、父は首を振った。
「いや、召致されてはいるが、2人ともと書かれているわけではないな。」
父は王家からの書面を、もう一度指でなぞって確認する。
「あと、私は16になりますが、去年のデビュタントに参加していません。デビュタントに参加していない者でも、大丈夫でしょうか?」
私の質問の意図に気づいたのか、ハンナは私の両肩を掴んで必死に首を振った。
「もしかしてルーナ1人で行く気なの?!ダメよ、危険だわ!」
説得しようとするハンナの腕を掴むとそっと肩から降ろさせて、ルーナは安心させるように微笑んだ。
「大丈夫よ。国中から后候補を召致しているんだろうし、私はデビュタントに参加できないような娘よ?そんな娘を后にしたら、皇子は笑われ者。黒皇子なんて悪い噂は払拭したいでしょうし、わざわざ悪い噂を増やすことなんてしない。私みたいな平凡な娘が選ばれるはずないし、領地に追い返されるのが関の山よ。」
そこは悲しいかな私が胸を張っていえることだと、ルーナは自負した。
ルーナの髪は父譲りのよくある茶髪、瞳の色もよくある焦げ茶色、母に似たのはまつげの量と長さくらい。姉のハンナの美しさには遠く及ばない。胸元もささやかで豊満には程遠く、色気も皆無だ。
ただルーナの言葉は思いのほか父とハンナの心を抉ったらしく、両者は共に顔に両手を当てて俯いた。
「すまない、私が不甲斐ないばかりに家にお金がなくて、デビュタントに行かせてやれず……。」
「ごめんね、私がデビュタントに行かなければ、ルーナが行けたのに。」
「いや、別に行きたいわけでもなかったから!」
別に2人を責めているつもりも、落ち込ませたくもない。第一、ハンナを行かせたのはルーナの希望だったのだから。
2人はよほど、ルーナをデビュタントに行かせてやれなかったことを気にしていたようだ。私は慌てて頭を振った。
「と、ともかく!私がデビュタントに参加していないからこそ、后に選ばれる可能性は限りなく低いってことよ。だから、私がちょっと行くだけで貴族としての顔が立つでしょ!」
ルーナがハンナから手を離し握りこぶしを作って意気込むと、ようやっと2人は顔をあげた。
けれどハンナはルーナの説得に納得していないようで、再びルーナの両肩を掴むと、頭を振った。
「私も行くわ。1人でなんて行かせられない。」
ルーナを強い意思をもって見つめてくるハンナを抱き締めると、ルーナはその耳元で囁いた。
「私は姉さんに、アーロと幸せになって欲しいのよ。」
その言葉にハンナがびくりと身体を揺らし、身体を離して驚いたようにルーナを凝視した。
どうやら2人の関係を隠しているつもりだったようだけれど、甘い雰囲気で見つめあっている2人を見た人は全員気づくと思う。鈍感な父すら気づいたのだから。
ルーナの囁きが父にも聞こえたのか、父はルーナの言葉に頷くと共に、2人に近寄ってまずハンナの背中を優しく擦り、次にルーナの背中を擦った。
「悪い、ルーナ。行ってくれるか?」
心底すまなそうなその声色に、ルーナは虚勢をはって笑顔を浮かべた。
「ええ、もちろん。」
通常、ルーナの住むベネット男爵領から首都までは、馬車を使ったとしても最短で10日はかかる。
そこで時間短縮の為に使われるのが、ワープゲートだ。
各領地との狭間に設置されているもので、そのゲートに魔術師に魔力を流してもらえば、一気に領地から首都まで行ける優れもの。
魔力を流してもらう魔術師を雇うのにも莫大なお金がかかるので、国からの支援があるこんなときでないと使えない。
父の「お金がないばかりに…」という言葉が頭に甦り、ワープゲートを見たときは苦笑してしまった。
ワープゲートを利用して初めて見た首都に、ルーナは馬車の中からキョロキョロと周りを見回した。領地から一人だけ付き添うのを許された侍女のアメリアも、初めて見た首都に興味があるようで、同じように周囲を見回している。
「領地に帰るときは、ちょっと観光してお土産を買って帰りましょうね。」
「はい!」
父から僅かばかり持たされたお金は、領地に帰る時のお土産に使おう。
最初から選ばれるわけがないと思っているので、首都に残るつもりはさらさらない。
ルーナは無駄遣いはしないよう心に決め、初めての首都で浮き立つ心を抑え、財布の紐をギュッと握った。
馬車が王宮の玄関に着くと、玄関前で出迎えたのは同じお仕着せを着た数名の女性だった。その中の一人が一歩前に進み出る。
「ベネット男爵の次女、ルーナ・ベネットと申します。」
すぐ帰ることになるけどねと思いつつ、ルーナがスカートを摘まんで礼をすれば、お仕着せを着た女性達が一斉に深々と頭を下げた。その所作は滑らかで流麗。さすが王宮の侍女だと感心してしまう。
「後宮侍女頭のイザベラと申します。ルーナ様には皇太子の後宮でしばらく過ごしていただきます。では、ご案内いたします。」
一歩前に進み出た女性が笑顔で口を開く。イザベラは、見た目は30代後半くらいの、いかにもベテランといった風格をもつ綺麗な女性だった。
一息で口を挟む間もなく話された言葉に圧倒される。
「ありがとう。よろしく頼みます、イザベラ。」
ルーナがなんとか笑顔を浮かべて答えると、イザベラもにこりと笑みを返して歩き出した。




