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身代わり地蔵  作者: 五十嵐。
第二章
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雨降って地固まる

 オレが中野と一緒に飲んだ翌週のこと。

 昼前に玄関のベルがなる。涼子がすぐさまドアを開けた。

「こんにちは。いつもすみません」

 明るい声が響いてきた。隣の翔子ちゃんだ。今から居酒屋へ出勤するのだ。


「琴音、離乳食のサツマイモ、ものすごく食べるんです。これがお昼の分で、ええとこれが・・・・」

 オレも玄関のほうへ足を向ける。

 翔子ちゃんは、オレを見て会釈をしてきた。ベビーバッグの中をまだゴソゴソと探っている。


「中野さん、大丈夫です。いってらっしゃい」

 

 涼子がそう言って、翔子ちゃんから琴音ちゃんを受け取る。琴音ちゃんは少し不安そうな表情で涼子の腕に抱かれた。


 そう、翔子ちゃんは二日前から居酒屋で働きはじめていた。お昼から夜の九時までの勤務だ。中野が仕事から帰ってくる五時過ぎまで、琴音ちゃんをうちで面倒みることになった。

 中野は勤めている事務所を今月で辞めることになり、自宅で仕事をすることにした。最初、プロのベビーシッターに来てもらうと言っていたから、涼子があわてて阻止したのだ。そもそも、うちが言い出しっぺだったし、今、オレも育児休暇で家にいる。その期間中だったら、涼子も問題なく琴音ちゃんの面倒を見られるからと説得した。


 あれから中野たちはいろいろ話したらしい。翔子ちゃんは過去の男関係もすべて打ち明けたそうだ。中野にとってはちょっとショックだったらしいけど、過去は過去で受け止めて、これからのことを考えてやっていくと言った。夫婦の仲も随分とよくなり、生活がガラリと変わったから、お互いいつも笑顔で一日のことを話す時間が増えたと語る。翔子ちゃんにとっても、そして中野にとってもいい展開になった。


「では、よろしくお願いします。主人が五時過ぎに帰ってきますから」

「はい。わかってます。いってらっしゃい」

 翔子ちゃんは笑顔で出勤していった。


 琴音ちゃんは七か月。もう人見知りをした。涼子には笑顔を向ける。しかし、しかしだ。オレには、警戒心を向けてきていた。涼子に抱かれていてもその目はオレに注がれている。それもじっと睨みつけるかのような目だ。最初の日にいきなりオレが抱っこした。かなり驚いたらしく、大泣きされたのだ。その時からオレは琴音ちゃんの天敵となったらしい。


 しかし、オレはこの状況を楽しんでいた。いつか琴音ちゃんをこの手で抱き、笑顔にしてやるという目標ができた。涼子はそんなオレを、ばっかみたいと笑うが、いいじゃないか。どんな時でも楽しむことが重要なんだ。

「おい、正人。昼飯食ったら公園へ行こう」

「うんっ。公園へ行こう」


 まだじっとオレを睨みつけている琴音ちゃんに笑顔を向ける。

「琴音ちゃんも一緒に行く?」

 そういうと、その言葉の意味がわかったのか、ぷいとそっぽを向かれた。

 涼子がはじけるように笑う。

「嫌われたものね」

「いいんだよ。こういう関係も」


 涼子は、訳わかんないとつぶやきながら、琴音ちゃんをリビングルームの中央へ座らせた。正人がその横に座り、一緒にテレビを見る。正人も、琴音ちゃんがよその子供だということを認識していて、清乃より丁重な扱いをしていた。時々、テレビの状況を説明してあげたりもする。琴音ちゃんもそんな正人に笑顔で返していた。

 自分よりも年下の子供に接することで、正人も成長するんだと思う。オレもこの休暇でずいぶんと成長したと実感する。

 まだ、半分の休暇が残っていた。早く仕事に戻りたいとも思うし、まだもうちょっとこの状況を楽しみたいとも思う。


 主夫とは言えない中途半端なオレだけど、ここから得るものは想像していた以上に大きいと思う。思い切って育児休暇をとってよかったと実感している。

 オレは今から同じマンションに住む松田さんにも育児休暇をとることを勧める気でいた。二人目が欲しいなら、ぜひその気になってほしい。奥さんのためでもあるし、子供たちのためでもあるから。


 

ここで第二部を完結とさせていただきます。

第三部も予定しております。英語クラブの先生や公園仲間のトラブルなどの話に発展する予定です。


ここまでお読みいただきまして、どうもありがとうございました。

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