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エピローグ「Now, DK≒フェアリーガール」

 ——ピピピ、ピピピ、ピピピ


「ん〜……」

 枕元まくらもとの携帯電話から、目覚ましのアラーム音が聞こえる。

 俺は眠い目をこすりながらそれを止め、ゆっくりと起き上がった。

「……夏休みは良かったなぁ」

 俺は、寝坊ねぼう放題ほうだいだったあの時期を思い返す。

 ……いや、そういえば夏休みもゆっくり寝られてはいなかったか。

 俺は自分でツッコミをいれた。


「お兄ちゃ〜ん! 起きてる〜? 朝ごはん冷めちゃうよ〜?」

 下から妹の声が聞こえてきた。

「今行くよ!」

 俺はそう返事をすると、制服に着替えてから下に降りた。




 リビングへ行くと、父さんと母さんが椅子に座って目玉焼きを食べていた。

「遅い〜!」

 キッチンの方から、心美が俺の分の茶碗ちゃわんを運びながら出てくる。

「……悪いな、どうも二度寝しちゃったみたいで」


 俺は目の前に置かれたご飯や味噌汁を見て、手を合わせる。

「いただきます」

 ……うん、うまい。

 俺は心美特製ここみとくせいの玉子焼きをモグモグと頬張ほおばった。


「もう! セイラちゃんなんてとっくに出かけちゃったよ?」

「……まあ、セイラは起きるの早すぎだから」

 俺はご飯を頬張りながらそう言った。




 あの日、恋人になった俺とセイラは、駐車場で陣内と合流した。

 驚くべきことに、陣内は俺の姿に気づくや否や、

「——その子は?」

と聞いてきた。

 俺は驚いたが、セイラは知っていたことのように平然へいぜんとしていた。

 どうやら彼女は、人間に姿を認識にんしきされないという妖精の基本能力きほんのうりょくを失ってしまったらしいのだ。

 この泉でずっと身を隠していたのも、それが関係していたらしい。

 幸いなことに、セイラ独自の能力である『他者からの認識を変える』という能力は健在けんざいらしく、いざとなれば、小さいものに認識を変えることで擬似的ぎじてきに姿を消すことができるらしい。


 ともあれ、セイラと一緒に生活をすると決めた俺は、セイラのことを家族に打ち明けざるを得なかった。

 家族の誰もが最初は混乱していたが、常識じょうしきから逸脱いつだつした妖精の能力を間のあたりにすることで、その存在と俺の話を信じてくれた。

 また、ここ一ヶ月間の奇妙な行動や記憶喪失きおくそうしつの原因を明かされたことで、納得してもらえた部分も大きいのだろう。


 そんなわけで、今セイラは我が家で家族と一緒に暮らしている。

 大ごとにするわけにはいかないので、このことは家族内だけの秘密になっている。

 なお「男女が同じ部屋というのは流石にちょっと」という両親の方針ほうしんのもと、セイラは妹の部屋で一緒に寝ている。

 二人ともどこかつうずるところがあるらしく、すぐに打ち解け仲良しになっていた。


 セイラを迎え入れたことで、我が家の形も大きく変わった。

 家庭内に会話と笑顔が増え、食卓しょくたくを一緒に囲むようになった。

 これについては、母さんの体調が回復の一途をたどっているのも理由の一つだろう。

 お医者さんいわく、通常では考えられない回復速度だという。


 ——もしかするとそれも、妖精の恩恵おんけいなのかもしれない。




「やべ! もうこんな時間だ!」

 俺は慌てて残りのご飯をき込むと、家を出て学校へ向かった。




 朝礼ちょうれい開始のチャイム五分前、俺はギリギリで教室に駆け込んだ。

「セーフ……」

 俺は上がった息を整えながら自分の机に座った。


「ハハ、ギリギリだな!」

 隣から声がして、俺は振り向く。

「よ! おはよマサ!」

「陣内……。お前は相変わらず朝から爽やかだな」

 俺はニヤリとしながら嫌味いやみっぽく言ってみる。

「ハハ、なんだよそれ」

「へへ。……あ、そういえばあれ持ってきたぞ! 約束してたやつ」

 俺はそう言うと、カバンの中から一冊の本を取り出し、陣内に手渡した。

「この前読みたいって言ってた、桜パッド先生の新作!」

「おおこれか! ありがとうマサ!」


 ——キーンコーンカーンコーン


「おっと、もう座らなくちゃ! ありがとな!」

「おう!」

 俺たちはそう言って自分の席に戻った。




 お昼休みになると、陣内は俺の席にやってきて「お昼一緒に食べようぜ!」と言ってきたので、俺は「ああ……」と言って立ち上がった。


 その時、ふと奥に座っていた神林咲かんばやしさきと目が合った。

 いや、おそらく俺に目が合ったというより、陣内の先にたまたま俺が居たというだけだろうが……。


「……ふむ」

「ん? どうしたマサ?」

 俺は少し考えてから、

「学級長、あんたも一人なら、一緒にどうだい?」

と声を掛けた。

「なっ⁉︎」

「おお! 良いじゃん! ってかマサが誰かを誘うなんて珍しいな!」

「……一応、幼馴染ってやつなんだよ」

「へー、いいねぇ! どうかな、神林さん? もし良かったら、一緒に中庭でご飯食べない?」

 咲は驚いたり動揺どうようしたりで目を丸くしていたが、陣内に話しかけられるとその顔は一気に緊張に染まった。

 だがそこは学級長。すぐに冷静なよそおいを取り戻し、

「……ええ、ぜひ」

と言った。

 そうして俺たちは、三人揃ってあの中庭でご飯を食べた。

 陣内は流石のコミュ力というか、人の良さというか、三人になってもとても楽しく会話を盛り上げてくれた。

 咲も、あんなに奥手おくてだったわりに、陣内と楽しく話していた。


 ……これで借りは返したぜ。


 俺は内心そんなことを思いながら、三人での昼食を楽しんだ。




 ——キーンコーンカーンコーン


「いやぁ〜、今日も疲れたあ!」

 陣内が伸びをしながらそう言う。

「……お前、今日部活は?」

「今日は休みなんだよね〜。だからこの後は暇! どっか行くか?」

「行くってどこにだよ」

「ん〜、まだ考えてないけど、どっか面白いところ?」

「フッ、なんだよそれ」

 俺たちはそんな軽口を叩きながら、駅に向かって歩いた。




「……しまった、学校でトイレ行っとけば良かった。」

 駅に向かって歩く途中、突然、陣内がそんなことを言った。

「……もう少し駅に着くだろ」

「いや! これは結構ピンチなやつ! 途中に公園あったよな? そこ寄らせてくれ!」

「おいおい……」

 俺たちは途中にある公園に立ち寄ることにした。

「わり! すぐ戻る!」

 陣内はそう言うと、トイレへ向かって駆けていった。

「……やれやれ」

 そう言うと、俺は晴れた空を見上げ、

「……今日は良い天気だな」

ポツリとそんなことを呟いた。




 ——ピ、ピ、ピ。ピ、ピ、ピ。


 ふと、後ろの方から自販機じはんきのボタンを連打している音が聞こえてくる。

「……なんだ?」

 振り返ると、そこには薄い水色のワンピースを着た、金色の髪と透き通るような真っ白い肌の少女が立っていた。

 その少女は、自販機をボタンを押しては取り消し、押しては取り消しを繰り返している。

 俺はたまらず、その少女に声を掛ける。


「……こんなところで何やってんだ? セイラ」

 俺が声をかけると少女は振り返って、

「あ! マサ! 学校お疲れ様!」

と言ってきた。

「学校までお迎えに行こうかと思ったんだけど、途中でこれが光ってるのを見つけて、気になったから色々押してみてたの!」


 彼女は、自販機の待機状態たいきじょうたい点灯てんとうパターンに興味をもち、押すと光るボタンで遊んでいたということらしい。

「……これはな、自動販売機。お金を入れると、飲み物が出てくるんだ」

「え! やってみたいやってみたい!」

 ……しまった、俺としたことがまた余計な出費しゅっぴを重ねるようなことを言ってしまった。


「…………まあ良いか」

 ジュースの一本くらい良いじゃないか。かわいい恋人のお願いなのだから。


 チャリン。


「これでボタンを押したら好きなのが出てくるぞ」

「ほんと⁉︎ わーい!」


 ピッ、ガシャン。


「ほんとだ!」

 セイラは自販機からメロンソーダの入ったペットボトルを取り出し、ふたを開けて飲み始めた。

「おいしい〜‼︎ シュワシュワする!」

 彼女があまりに美味しそうに飲むので、俺はなんだか嬉しくなって、じっとその姿を見つめてしまう。

 すると彼女がその視線に気づき、なんだか気まずそうな目線を送ってきた。

 やがて彼女はこちらに一歩近づき、メロンソーダのペットボトルを差し出してきた。

「……なんだ?」

「……飲みたいのかなぁって思って」

「なっ!」

 俺は差し出されたペットボトルに目を向ける。

 そこには、彼女が先ほどまで口をつけていたペットボトルが差し出されている。

 セイラは少し赤面しながら、恥ずかしそうな上目遣いで、

「……飲んで良いよ?」

と言った。

「……お、おう」

 俺はひとまずそれを受け取る。

 落ち着け、別にただの間接かんせつキスじゃないか! 今さらこんなことで動揺するな!

 ……よし!

 俺は意を決してメロンソーダのペットボトルを近づけた。


「お待たせ〜! って、あれ? セイラちゃんじゃん!」

「あ、海斗くん!」

「——ゴホッゴホッ!」

 俺は驚きでむせてしまう。

 そんな俺に構わず、二人は会話を続けた。


「何してたの? こんなところで。」

「マサのお迎えをしてみようかと思って! へへへ」

 セイラと陣内は、すっかり仲良しという調子で会話を続ける。

「へぇ〜、あいだねぇ……」

 陣内がからかうように俺をひじで突いてくる。

「……うっせ」

「素直になれって〜! セイラちゃんはマサのこと好きだよね?」

「うん! 大好き!」

 セイラは笑顔でそう言う。

 そんなストレートに言われると思ってなかったらしく、陣内も少し照れ臭そうにする。

 ……なんでお前が照れんだよふざけんな! 振っといて照れんな! 俺の方が照れくさいんだよ!


「……でもそっか、幸せそうだな」

 陣内が改まってしみじみとそう言う。

「……ああ」

 俺がそう言うと、陣内は俺の肩に腕を回して、

「やっと素直になったなこのヤロウ!」

と言った。

「へへ……」

「ハハッ!」

「アハハ!」

 俺たちは三人で声高こえたからかに笑った。

 俺は晴れ晴れとした空の下で、全身でこのを幸せを感じた。




「——セイラ?」

 突然背後から見知らぬ女の子の声がして、俺は振り返った。

 見るとそこには、中学生くらいの身長の女の子が、こちらを向いて立っていた。

「エリちゃん⁉︎」

 セイラは、その子を見るなり大声で叫んだ。

「……セイラ、知り合いか?」

 俺はその女の子とハグするセイラに尋ねる。

「うん! この子はエリちゃん! 私の友達だよ!」

「へー、友達……」


 ん? セイラの友達? ということは……?


「——おい、どうしたんだよ二人とも。一体何に話しかけてるんだ?」

 後ろから、陣内がキョトンとした声で話しかけてくる。


 ……ああ、やはりそう言うことか。

 俺は全てをさっし、項垂うなだれた。




 ……まったく、やっかいな身体になってしまったものだ。

 ふとした事件をきっかけに妖精の存在を知り、今では妖精と人間、どちらの世界にも関与かんよできる存在になってしまった。

 おかげで俺の日常は大賑おおにぎわいだ……。


 ……だが、そんな日々が嫌いじゃない。

 そんなハチャメチャな日常も、彼女と一緒なら乗り越えられる。

 俺に命を与え、孤独の部屋から引っ張り出してくれた存在。

 人間に姿を認識される妖精となったことで、俺と同じように、二つの世界を生きる存在となった彼女。

 そんな、愛する恋人である彼女と一緒なら、どんな困難にでも立ち向かっていける。そんな気がする。

 だから、俺たちの物語はここで終わらない——


 ——まだ見ぬ日々のその先で、その結末を見届けるまで。


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