神のお告げ?
「若、お呼びでしょうか?」
「今から出かける。夜にすまぬが、弁慶も共に来てはくれぬか?」
「はい、喜んで!」
戸締りをして、二人外へ出る。
「しかし、こんな夜更けに、どのようなご用事で?」
二人並んで歩きながら、弁慶が尋ねた。
「いや、神のお告げとやらで、私にどうしても助けに来て欲しいと頼まれたのだ。」
「はぁ?神のお告げですか?」
「そうだ。神の声が聞こえるものもおるのだな。すごい技であるな。私に何かできるのであれば、困っているものは助けてやりたいだろう。」
「若様は、お優しいですからね。」
「いやいや、助けを求められたら当然のことだ。」
「それにしても、なぜ夜なのでしょうね?」
「うむ。それはよく分からないのだ。先方の指定でな。私も尋ねてみたのだが、夜ではないとダメらしい。時間も指定だったのだ。お忙しいのやもしれんな。」
「左様ですか。」
なぜだろう。嫌な予感がする。
弁慶は、背筋が冷っとして、身震いするのであった。
とことこ歩いて行く。
やはり、嫌な予感がする・・・
この道の先には・・・
「若、もしかしてこの先ですか?」
「あぁ、聞いた限りではもうすぐ着くはずなのだが。」
弁慶は最近、この辺りの屋敷で、夏の肝試しにお化け屋敷を始めたところ、1ヵ月過ぎたあたりから、変な現象が起こり、客足がめっきり減ったと言う噂を聞いたのだ。
依頼を受けた屋敷とは、もしかしてお化け屋敷では・・・?
「なんだ?それは?確か、ヨミのお屋敷と聞いたのだが。」
「ヨミのお屋敷??」
そんな名だったか?
「お化け屋敷ではなくて?」
「先ほどから言う『お化け屋敷』とはなんだ?お化けさんの屋敷か?お化けさんという方が住んでいるのか?」
むむむむむ
「本気で言ってますか?」
そこへ、声をかけられた。
「若様、ご一行様、お待ちしておりました。」
この屋敷の持ち主である主人が、提灯を片手に、待っていた。
「この度は、このような時間にご足労いただき、誠にありがとうございます。」
丁寧に挨拶をする。
「こちらが入口となります。どうぞよろしくお願いいたします。」
「あい、わかった。今一度確認するが、私は、この屋敷の中をただ歩いて出口まで行けば良いのだな?」
「左様でございます。」
ふと入り口にかかった表札をみると、
『夜見』
と、書かれていた。
なんと!ヨミの屋敷=夜見の屋敷!
若があっていた!
なんだ。夜見さんという方のお屋敷だったのか。
紛らわしい。
なら、お化け屋敷ではないのだな。
「弁慶、調子が悪いか?先ほどから顔色が悪い。大丈夫か?ここで待っているか?」
心配そうに弁慶をみる。
「いえ、大丈夫です。若、参りましょう!」
弁慶は、先立って、玄関を開けた。
「うむ。それでは参ろうか。」
若と弁慶は、早速屋敷の中へと足を踏み入れるのだった。
中に入ると、最初は普通の玄関だった。
夏だというのに、ひんやりとした空気が流れ、弁慶の背中がぞくっとした。
え?夜見のお屋敷であるのだよな?お化け屋敷ではないのだよな?
いや、でも、なんだ?
この冷んやりとした空気は??
「土足で入っていいと聞いている。弁慶、参るぞ。」
「は、はい・・・」
下駄のまま、若の後ろについて、家の中に入る。
若が、最初の襖を開けると、
「ぎゃー!!!」
弁慶は、大声をあげてうずくまった。
やっぱりやっぱり嫌な予感は当たった。
墓石がたくさん並び、お化けの人形らしき・・・
あー!!!!
やっぱり、お化け屋敷ではないかー!!!!
弁慶は、声も出せずうずくまって怯えていた。
若は、そんな弁慶を心配し、
「私だけで先に行ってもいいんだぞ。弁慶は引き返すか?」
と言ってくれたけれど、
「若1人にしないでください!体調は大丈夫でございます!」
若から離れて一人玄関に戻ることさえ怖くて、若にしがみついたのだった。
「え?いや、大丈夫なのか?とても顔色が悪いが。真っ青だぞ。」
「それは体調ではなく、心が・・・」
震える声で、ここまで言ったが、震えてそれ以上声が出ない。
「心が?もしや暗いところが苦手であったか?」
「い、いえ、そういうわけではなく、あの、とにかく1人にしないでください!!!一緒に参ります!!」
声が上擦っていたが、一人になりたくない気持ちが、なんとかここまで言葉を紡ぎ、若の腕にしがみつき、目を瞑った弁慶。
「そうか、弁慶がそう言うならそうしよう。辛いのだろう?そのまま私を掴んでいるといい。」
「はい!!!!」
それから、若は、弁慶を気遣ってゆっくり歩いていく。
スッと、障子を開ける音がした。
若は、ゆっくり、次の部屋次の部屋と、進んでいく。
その度に、若は、
「動かずとも良い。ここで少し待っていてくれ。」
と、弁慶を部屋の隅に座らせて、一人で部屋で何かをしている。
弁慶は、怖くて目を開けることができない。
うう、ここはとても異様な空気で、き、気持ち悪くなってきた。
弁慶は、思わず吐いてしまった。
「弁慶!大丈夫か?後ほどここの主人には、私から丁重に謝っておくから気にするでないぞ。もしまた吐き気がするようだったら、この袋にすると良い。口元もこれで拭いてくれ。」
そいういって、口元を拭くための懐紙と、その場で懐紙を畳んで袋状にしてくれた。
若の優しさが身にしみる弁慶。
しかし、進めば進むほど、どんどん異様な空気が濃くなっていくのを全身で感じて、寒気がして震え出し、怖くて目も開けられない。
「若は、何かお感じになりませんか?」
と、聞いてみたが、
「何かとはなんだ?」
と、返事が来て、『鏡』の出来事を思いだす。
そうだった・・・若は、鏡の時も全然見え出ないご様子で、あの鏡の前でめちゃくちゃ元気にしていたんだった。
先を進むと、
「弁慶しばし待っていてくれ。」
そういうことが何度も続いた。
その度に、何をされているのだろうと疑問に思ったが、なんとなく寒気が引くような気がした。
若が何をしているのか、気になって仕方がない弁慶ではあったが、怖さの方が勝り、目を開けることができず、壁に向かって震えながら、ただうずくまっている他なかった。
この屋敷に入ってから、何刻が経ったのだろうか。
弁慶には、果てしない時間に感じられ、早くこの屋敷の外に出たくて仕方がなかった。
すると、
「弁慶。もうすぐ出口に着くぞ。」
「本当ですか?若!」
やっと、やっとここから出られる!
弁慶は、足早になった。
「弁慶、急に歩くのが早くなったな。体調が良くなってきたのか?」
「はい!もうすぐですか?」
「あはは。まだ目を瞑っておるのだな。もう大丈夫だ。全ての部屋を見て回り、もう出口の扉がみえておるぞ。」
「なんと!やりましたな!若!」
それなら目を開けても大丈夫かな。
弁慶は、そっと目を開ける。
すると、目の前に勝手口のような扉があった。その横には、『出口』と書かれた看板が貼ってあった。
・・・やはり、お化け屋敷だったのだな・・・
弁慶は、そう確信した。
まだ、若の袖をギュッと掴みながら、出口へと向かって歩いている。
すぐそこなのに、遠く感じる。
出口が見えた弁慶は、安堵し、ふと疑問が頭をよぎった。
そういえば、何度も立ち止まり、私を待たさせていた間、若は何をなさっていたのだろう?
若に聞こうと口を開きかけたら、若がふとつぶやいたのだ。
「しかし、この屋敷には怪我人が多かったな。」
「は?」
若、突然何をおっしゃっているのか?
怪我人?
ここはお化け屋敷なのだから、全て人形に決まっている。
「1人1人手当をしていたら、遅くなってしまったな。弁慶、体調が悪いところ待たせてすまなかったな。夜見殿のお時間も大丈夫だったであろうか?」
「いえ。」
弁慶がそう答えると、
「其方も、お時間大丈夫か?」
そう言って振り返った若の目は、弁慶を見ていなかった。
「若?」
若の視線の先は、弁慶の隣?
「どなたに話しているんですか?」
弁慶は左右をキョロキョロするが、若と、弁慶しかいない。
「あぁ、途中であった女性だ。弁慶の後ろにおるだろう?」
「え!?後ろ?」
弁慶の体が硬直する。
拙者の後ろにいる??
つぅーっと冷や汗が流れる。
拙者と若以外、この屋敷内には誰もいないはず・・・
若は、誰かと話し始めた。
「ありがとうございました。若様のおかげで、やっと出ることができます。」
「うむ。確かに、この屋敷はとても広いからな。迷子になっても仕方がない。次から気をつけるんだぞ。」
「はい、とてもご親切な方、ありがとうございました。」
「困った時はお互い様だ。」
そう言って若は歩き出す。
弁慶は、誰もいなかったのに、誰もいないはずなのに・・・声が・・・女の人の声が・・・
怖かったけど、とっても気になって薄目を開けて振り返ると、そこにはとても美しい女性が立っていた。
「ありがとうございました。成仏できます。」
その女性はそう言って、目の前でふわっと消えた。
「ぎゃーーーーー!!!!」
弁慶は叫び腰を抜かした。
「どうした弁慶?大丈夫か?」
若が支えてくれた。
「若・・・腰が抜けました・・・」
足がガクガクいっている。
それを見た若は、ふっと笑って、
「仕方ないなあ。弁慶は。」
そういって しゃがんで背中を向ける。
「ほら、おぶっていってやる。」
「若ー!!」
若の背中に揺られ、落ち着きを取り戻す弁慶なのであった。
それからしばらく、
『若様は払い屋』
と、密かに町で噂になったのであった。
後日談
後日、若に曰くつきの『鏡』を100円で売りつけた腹黒店主がお礼にやってきた。
やっぱりこいつだったのか。
弁慶は、若に気づかれないように睨みつける。
腹黒店主は、弁慶を見向きもせず、若に愛想笑いを浮かべ、
「先日は、誠にありがとうございました。おかげさまで、あのお屋敷も安全な場所になりまして、騒動が治りました。若様は、町を救ったのでございます。ですので、こちらはどうしても受け取っていただきたく存じます。」
玄関先で深々と頭を下げると、若に手土産と、お金の包みを差し出したのだ。
「ただ歩いただけで、こんなにいただけぬ。」
若は、遠慮したが、
「いえ、何をおっしゃいます!誰もできず困っていた除霊を全部していただいて、この程度の謝礼で申し訳ございません。今後もよしなにさせていただきますので、これでお許しを!!受け取っていただかないと、私帰れません!」
と、必死で訴えるので、若は恐縮しながらも、
「除霊?」
若が何のことかと、首を捻る。
その様子をみて、若に何も説明してなかったのか!!と、弁慶は、腹黒店主をギロっと睨んだ。
腹黒店主は、その視線を、ふふんっと笑って流す。
「どうかお納めください。それでないと帰れません。」
丁寧に頭を下げながら、そう言われ、若はとても困っていたが、
「そこまで言うならありがたく。」
と、頂戴し、
「大変申し訳ないが、これから会合あり、出なければならぬのだ。弁慶、あとはたのんでよいか?」
「は!拙者にお任せください!」
「では、頼む。それでは、店主、申し訳ないがそう言うことなので、失礼する。」
「いえ、お忙しいところ、前触れも出さず押しかけ、こちらこそ申し訳ありませんでした。」
「それでは、行って参る。」
「若、行ってらっしゃい!」
腹黒店主と弁慶は、若を見送った。
バタリと扉が閉まると、
「やはりあなたでしたか。あの鏡はどうしてます?」
若が出かけたので、弁慶は隠すことなくギロっと腹黒店主を睨む。
「うふふ。やはり気づいておいででしたか。」
腹黒店主は、何やら楽しそう。
「あんな奇妙な鏡を、純真無垢な若に売りつけて。もうお主とは関わり合いになりたくない。今後、若に近づかないでいただきたい!」
ピシッと言うと、ヘラっと笑って聞き流す腹黒店主。
「あの鏡なのですが、若様の気にあてられ、危うく浄化されそうになり助けを求めたそうです。」
「はい?」
「うちに戻ってから、若の気により改心したようで、今は良きものとなっております。そして、町を救うため、今回、神格の魂を持つ若様に助けを乞うよう進言くださったのです。」
「神のお告げではなく、『鏡』のお告げであったのか!?そう聞いていたら拙者全力でお止めしたのに!!」
「くぅ〜。」
と、悔しそうに唸る弁慶に、
「弁慶どのに知られたら、そうなると思いまして、『神のお告げ』と言わせてもらいました。」
悪びれもなく、そう言う腹黒店主なのであった。
「なぬ!!この男侮れぬ!!」
してやられた!と、悔しがる弁慶なのであった。
「もう来るなー!!」
帰り際、塩を投げると、
「はいはい。それでは、また。ご贔屓に〜。うちに来たら、なんでもお安くしますよ〜。」
と、手をひらひらさせて、面白そうに弁慶を見ながら帰って行ったのだった。
「くそー!!あの腹黒店主めー!!今度9割引で商品買ってやるからなー!覚悟しておけ!!」
と、腹黒店主の背中に向かって怒鳴り散らすと、
「毎度あり〜♪」
と、鼻歌で返す、腹黒店主なのであった。
気が済むまで、塩を投げた弁慶は、怒りがおさまってくると、先ほどの腹黒店主の話を思い出していた。
あの『鏡』の黒いもや・・・『鏡の精』が、若さまの魂は神のレベル、神格であると言ったのか。
そして・・・
とても綺麗で清らかで光輝き、邪悪なものにはまぶしくて、若様の姿が見えないほどのオーラを持っておる。若様が歩くだけで浄化され、さまよえる悪霊が浄化され、あの世に迷うことなく向かっていけるのだ。
「うむ・・・」
そういえば、あの夜、時々、ぼやっと綺麗な光が若の歩いた道から天に向かってゆっくりと舞うように飛んでいく、とても不思議で、とても幻想的な光景を見たような気がする。
しかし、若、鏡の精は見えていないご様子だったが、幽霊は見えていたのだな。あの女性と会話までされていたし。
「うむ・・・?」
なぜだ??
でも、全員浄化されて、災いがなくなったのだ。
やはり、拙者の若は、素晴らしい方だ!!
さすが、私のお仕えするお方!!
若がいれば怖いものなんて何もない!
あの『鏡の精』とやら、見る目だけはあるではないか。
さあ、今日は、この謝礼で豪勢な夕飯をこしらえて、若のお帰りを待つとしよう。
さあて、夕飯の支度♪
さすが、弁慶!切り替え早っ!
これが我らの『若』と『うかつぼう弁慶』なのであ〜る!!
神のお告げ、もとい、鏡のお告げにより、
町の平和を守った若様なのでした!
あの例の鏡 自称『鏡の精』
結構いいやつなのでは?
次回は10月26日です。
鏡の精が登場します(^^)




