存在意義 〜sideクリストファー〜
クリストファーのサイドストーリー(1/2)。後半から、57話(クリストファーの社交界デビューの頃)を中心に展開しています。
「なぜあなたはアレクサンダー殿下のように出来ないのですか?」
「あなたも早くアレクサンダー殿下のように優秀になりなさい」
「第一王子に【魔力制御】が発動していないのなら、次期国王はどちらでもいいはずだ!クリストファー殿下、あなたが国王になりなさい」
「必ず国王になるのよ」
気づけば朝の挨拶のように、当たり前のごとく周りから言われてきた。
とても嫌だった。
兄上の方が確実に国王にふさわしいのに、なぜ僕に、兄上を押しのけてまで国王になれと言うのか。お前たちは自分の利欲のためにそう言ってるだけだろう。『誰がふさわしいか』ではなく『誰がなってくれれば都合がいいか』だろ?
そんなもの、聞くわけない。だからこそ勉強も全力でやってないんだから。
色々なことを言われるのがとうとう嫌になって、みんなの前ではニッコリと笑顔で明るく過ごすことにした。
誕生祭兼お披露目パーティーが開かれたあとから、それは王宮内にとどまらず貴族たちの令嬢がひっきりなしにやって来ては口を揃えて言う。
「あなた様も素晴らしいですわ。国王にもなれますわ」
「私はあなたこそが国王にふさわしいと思います」
「アレクサンダー殿下に魔力が出ていないのなら、国王になる権利はどちらにもあるはずですわ」
「そんなことないよ!みんな僕のことを褒めてくれてありがとう」
ニッコリ。作り笑顔で返す。令嬢たちは頬を赤らめて恍惚の顔をする。
……この人たちもいちいち僕を国王にしようとする奴らか。親にでも言われているのだろう。面倒だ、だけどこれのほうがまだマシ。
「クリストファー殿下。ぜひお茶会に来てくださいまし。……あとその……アレクサンダー殿下にもお伝えください……」
「アレクサンダー殿下はまだ婚約者は決まってないのですか?ぜひ詳しくお話を」
兄上に近づこうとする奴らのほうがタチが悪い。僕を使って兄上になんとか気に入られようとするのだ。
僕は一体何なんだ?
国王にさせるための駒?
兄に近づくための道具?
はぁ。面倒だ。
唯一の息抜きは、ジュベルラート公爵家、ドロレス様の誕生日会。
兄上がドロレス様の誕生日会から帰ってきて、父上に話していたあの楽しそうな様子を見たら、僕だって行きたくてしょうがなかった。だから勉強も100%の力を出したんだ。
初めてお茶会にお忍びで行ったとき、歳の近い人たちに会うのは初めてだったので僕は緊張してしまい、兄上の後ろに隠れてまともに挨拶ができなかった。後から反省して、次に会うときには完璧にしていった。
ドロレス様は僕たちのことを王子として見つつも、婚姻を結ぼうとする欲望が全く見えなかった。
だから好感が持てた。初めから楽観的にそう思っていたけど、何回か会ううちに、この人ならまさに王妃にふさわしいと確実に思った。トランプもとても楽しすぎて、日々の勉強の鬱憤を晴らすように遊んだ。
そのお茶会にいたサンドバル侯爵家のレベッカ様は、次に会った時、僕に話しかけてくれた。あぁ、また何かしら思惑でもあるのかと思いつつ、不快な思いをさせないよう笑顔で楽しく話した。サンドバル侯爵家は兄上の派閥だ。何の目的があって僕に話しかけたのかはわからない。だけど、気づいたら普通に楽しく話している自分がいた。
そういえばこの人だけ、僕を国王にとか、兄上に近づきたいという遠回しな願望を言わないな。じゃあなんだろう?なぜ僕のところに来たんだろう。
他の令嬢や子息の誕生日会、お茶会に参加にも呼ばれたらなるべく参加をするようにしていた。だけど、いつも言われることは一緒なので、ニコニコと笑顔で対応した。疲れるなぁコレ。
でも僕は王子だから、きっと母上の派閥貴族の令嬢とでも婚約させられるんだよなー。嫌だなぁ。
そんな日々を過ごして、ついに僕の社交界バーティーのデビューになった。予め兄上にはドロレス様と踊る許可をもらったけど、……兄上、ドロレス様のこととなると感情が顔に出てしまうんだよね。それが人間らしくてさ。今までの兄上だったら考えられなかったから、なんかホッとするんだ。あぁ、ちゃんと感情あるんだな、って。
ずっと次期国王として教育されてたから、感情を外に出すこともしなくてさ。僕が初めて兄上を見た時は全然笑ってくれなかったんだもん。
そんな兄上を人間らしく変えてくれたドロレス様なら、きっと兄上を支えてくれるはず。父上にドロレス様をオススメしちゃった。
今日ダンスを誘う人は決まっていた。1番最初は僕のペアだけで踊らなくてはいけないので目立つ。だから無難に、誰も責められないような高い位置にいるドロレス様にした。ドロレス様、ごめんね。
レベッカ様を始め、僕に度々すり寄ってきた令嬢を把握していたので、その人たちと踊ることにしたのだ。
一番接点のあるレベッカ様には、ドロレス様を誘う前に声をかけた。
「話したいことがあります。最後の曲が1番長いので最後に誘います」
彼女はコクリと頷いてくれた。
ドロレス様とのダンスが終わった。相変わらず僕たち王族に興味がない。それがまたドロレス様の良いところなんだけどね。
さて。
いよいよ僕の計画が始まったのだ。そのために、たくさんのお茶会や誕生日会に参加したのだから。
「ク、クリストファー殿下にお誘いいただいてとても光栄です!」
侯爵家の令嬢。僕を国王にとゴリ押しをしてくる家の娘だ。
「僕が国王にふさわしいと思ってくれているんだね」
「ええ!もちろんです!あなた様が一番ふさわしいですわ!」
ニッコリと笑顔でそう言えば、彼女は目を輝かせて笑顔で返してくる。
「でも残念、君の家の言いなりにはならない。それに君の媚びた態度も嫌い。その濃い化粧も嫌い」
「え……クリストファー殿下?」
「僕に取り入ろうとしても無理。君に興味のかけらもない。これからも一生ね」
「……あ……」
顔色の悪くなる侯爵家の令嬢。やっぱり、僕自身に興味はないってことだ。
「二度とその厚化粧で僕に近づかないで」
ダンスが終わる間際、真顔でそう言うと彼女はガクガクと震え、逃げるように親の元へ行った。
「お誘いいただき光栄です!」
今度は兄上の派閥の男爵令嬢。兄上に近づきたいと、遠回しに僕を使おうとしていた。
「君は兄上のことを慕っているのかな?」
「え!いや……あの、そうです……アレクサンダー殿下とお話をしたいと思いまして……」
やっぱりね。
「そうなんだね。でも無理だよ?直接誘う力もないくせに、僕を使って兄上に取り入ろうなんて、図々しいにもほどがある」
「あ……いえ……そんなことは」
「じゃあなんで兄上に招待状を送らなかったの?送れなかったんでしょ?だから父親に『弟なら王位継承権が低いからとりあえずそこから取り入れ』って言われたんだもんね」
「な!なぜそれを……」
今日踊る予定の令嬢のことなど、ある程度調べがついているから。
「誘う力もない家が、兄上の妃になれると思わないほうが身のためだよ?二度は言わないからね?」
「……はい、っ……」
我ながら残酷だとは思いながらも、一人一人と片付けていく。僕って性格悪いな。でも国王の妻になる人が、邪な気持ちを持って兄上に近づくのは許さないし、僕を駒として見ている令嬢にも嫌気が差す。
僕は事実を確認してるだけなんだよ。でもみんな、口籠ったり顔を真っ青にする。都合の悪い内容だった、ってことでしょ。だったらそんな人いらない。僕の横にも、兄上の横にも。
僕の評判なんてどうでもいいしね。
最後の曲の演奏に変わるため、僕はレベッカ様を誘いに行った。
令嬢たちの思惑は色々調べたけど、レベッカ様だけはいまいち掴めなかった。
家は兄上派閥の侯爵家。だけれども、レベッカ様は兄上に興味がなさそうだった。
「お誘いいただきとても嬉しく思っております」
レベッカ様はあまり笑わない。でも僕といるときは頬を赤らめて楽しそうに会話をするのは表情でわかっていた。
何の目的だろう。僕をどうしたいのだろう。
ニコニコと笑いながら、様々な可能性を考える。でもわからなかった。
「レベッカ様の家は兄上の派閥ですよね?」
「ええ……そうですわね」
「じゃあなんで僕に取り入ろうとしてるの?」
「取り入る?」
彼女は眉をひそめた。
「私はただクリストファー殿下と親しくなりたいと思っているだけですわ。それだけです」
想像していた以上の直球でハッキリとした言葉に僕はびっくりした。後ろ盾がほしいとか、力を持ちたいとか。そういうようなものを望む言葉もなく、ただ僕と親しくなりたい、と。
レベッカ様は何を考えているんだろう。
僕と親しくなったところで侯爵家に得もないしレベッカ様にも得はない。第二王子という中途半端なポジションの僕に何を求めているのか。
直球なら直球で返す。
「それはつまり、将来的に僕と婚姻を結びたいとでも?」




