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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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33.平和な日常って素敵。でもなんかごめん。

 年が明け雪が降り続いたため、孤児院への訪問はやっと雪が溶け始めた3月になった。めちゃくちゃ寒かったのよ。ホントにゲームの中なの?ってくらい寒くて。日本のように四季折々の季節が楽しめましたよ。冷え性の私には、暖炉しかないこの世界が地獄でした。カイロ欲しいし電気カーペット欲しいしこたつ欲しいしエアコン欲しいしストーブ欲しい。






 ブラントレー子爵のところからの紙取引が1月からだったのでとりあえず300枚とルトバーン商会で30本ほど購入したペンとインクを持って孤児院に向かう。トランプも持って来た。

 今日はフレデリックもいる。


「孤児院に行くのは初めてって聞いたよ。でも、1個だけお願いしたいことがある。孤児院にいる子供たちには決して『可哀想だね』って言わないであげてね。彼らは自らが望んで孤児院に行ったわけじゃないから。だから、住んでるところが孤児院なだけで、あとは君たちと同じただの子供だってことを理解してくれれば問題ないよ」


「はい。大丈夫です。公爵様」


 これは私が初めて孤児院に行くときにお父様から言われた。自らが望んで孤児院に行った人はいなく、何かしら理由があって、今その場所しか住めない。ただそれは逆に言えば、私たちだって住む場所はひとつだ。その住居が一般的なものと違うだけで、それ以外は私たちと一緒だ、と教えてくれた。


 改めて言われるととても納得する言葉だな。







 しばらくすると馬車が孤児院にたどり着いた。教会で祈りを捧げ、横にある孤児院に向かう。今回は神託ないのね。




 孤児院のみんなに出迎えられて、私たち家族とフレデリックが挨拶をする。新しく男の子が来た、しかも貴族ではなく平民ということで、孤児院の男の子達は目をキラキラさせていた。


「にいちゃん!あっちで走ろうぜ!!」


「この木登ろう!」


「ち、ちょっとまって……」


 平民の男の子が来るのが嬉しかったのだろう、袖を引っ張られて原っぱに連れていかれる。フレデリックも着飾った格好をしていないので、親しみやすかったのかもしれない。



「みんな、今日はみんなに数字の勉強をしたいと思い───」


「はー!勉強やだ!」


「外で遊ぶ!」


 男の子達は私の言葉を遮る。勉強を経験してないのに勉強を嫌だとか、なぜその心理になる?!勉強って言葉が嫌なのか?やはりそうなのか??


「私は勉強するよ」


「私も、働くときに便利だもん」


 側に寄ってきた女の子たちが口々に告げる。女の子は現実を見てるな。アンやサマンサもこっちの意見に乗り気だ。彼女たちは就職に1番近い歳だもんね。




「じゃあお勉強はやりたい人だけでやりましょうねー!ちゃんと出来た人にはお菓子があるよー!!」


「やったー!」


「勉強する~!」


 ちょっと大声で言ってみれば、フレデリックの袖を掴んでいた子供たちの動きがピタリと止まる。目の前の女の子たちはキャッキャと嬉しそうに笑っている。

 お菓子で釣る作戦は後々にややこしくはなるのだけど、今はそれしか釣る方法が見つからない。


「じゃあみんな勉強してお菓子を食べましょうねー」


「「「はーい」」」


 みんなの肩を抱いて孤児院の中に入れば、後ろからそろそろと男の子たちがついてくる。さっきやらないと言ったばかりなので、自分からやっぱり勉強する、って言い出せないのだろう。門の前でモジモジしてる。かわいい。



「………勉強する?」


「「「する……」」」


 素直でよろしい。





 こうしてみんなで勉強を始めた。

 紙とペンを渡す。それ自体が普段見ないものなのか、うわーすげー!とペンを持ち、落書きで一枚目が終わる子が続出した。



 数字と、答えが1桁になる足し算の勉強をした。勉強する時間が1時間もなかったので、あらかじめ書いてある足し算一覧表を渡して勉強を終えた。そのあとはお菓子タイム。メレンゲクッキーをみんなで食べたり、トランプで遊んだり。



 帰るまで少し自由時間があったので、アンやサマンサ、ウォルターとフレデリックで話をした。



「どこか賑わいのある街で仕事ができればな、と。料理を作りたいので、そういう系の店が希望です」


「んー。私も色々と考えてはいるんですけど、まだ見つかってないです。その年に良い仕事があればな~って感じですね」


 アンとサマンサはもう10歳なので12歳になるまであと2年もない。


「学園に通いたいとは思わない?」


 不意にそう思ったので聞いてみた。


「私は正直そこに魅力は感じないですね。だったらとっとと働き口を見つけて、良い人と出会って結婚したいです。そして二人で料理の店を出すのが夢です……」


 言っててだんだん恥ずかしくなってきたのか、耳を赤くして声か小さくなるアン。


「あら素敵じゃない。それじゃあ早くいい就職先を見つけないとね。サマンサは?」


「私も学園は無理です。お金があって入学したとしてもそこを卒業したところでお金持ちになれる訳じゃないし」


 あっけらかんとしたサマンサは言う。結構楽観的なんだなぁ。ま、10歳だしそんなもんよね。


「ウォルトは……そういえば学園に入れるのは14歳になる年だから、孤児院を出たあと学園までの1年ちょっとはどうするの?」


「ここに残って、サポートする側に回ろうかなとは思ってるんだけど」


「んー、でもそれじゃ勉強出来なくない?今までアンやサマンサがやっていた子供たちのお守りをするのよ?」


「……なんとかするよ」


 いやー、無理だろうな。サポートする側の方が絶対大変なんだから。経験者の私がよーーーくわかってる。それじゃ入学試験で3位以内は無理だと思うわ。


「ウォルターは、なにか得意なものある?」


 フレデリックが質問した。


「……剣?」 


「木刀でしょ」


 すかさずアンにツッコまれる。


 フレデリックが少し考える。


「もしさ、ウォルターが計算とか文字が得意になれば、学園に入るまでうちの店で働けると思うよ。住み込みも出来るし。サマンサさんはどう?」


「そうですね、もしその時に良い案件がなかったらお願いしても良いですか?」


「一応父親にも確認はとってみるけど、もし働くなら文字の読み書きと計算は絶対出来た方がいいよ、みんな優先で取ってくれるから」


 やっぱりそこは大きいよね。任せられる仕事が変わってくるもん。


「俺も、いいの?」


「たぶん大丈夫だと思う。その代わり剣だけじゃなくて勉強もやってね」


「わかった……でも体も鍛えておく」


「ねえ?話聞いてないよね?」



 年長組はこの3人なので、なんとか将来の設計図が見えてきたので私もひと安心する。


「そっか、ウォルターは学園を目指してるんだね」


 フレデリックが真剣な表情でウォルターに聞いた。


「同じ歳なのでウォルトでいいよ。前にドロレス……様がここに来たときに話して決めたんだ。だからこれから少しずつ勉強しようと思って」


「なんで【様】つけた?」


 想わずツッコんでしまった。前に呼び捨てで良いって言ったじゃん。


「よく考えたんだよ、俺が学園に入ったらどっちにしろ立場が明確になるんだから、今のうちから【様】をつけて馴れようと思って。俺孤児だし」


「同じ学年になるんだから、別に気にしなくて良いのに」


「いや、なんかそれはおれ自身が許さないというか……最初見たときはすごい嫌いだったけど、寄付とか学園入学を薦めてくるあたり、同じ次元の人間じゃないと思ってさ。ああ、これが貴族なんだと」


「はぁ……。ま、どっちでもいいわ」


「ウォルト。今さりげなく、すごい嫌いとか言ってたけどな」


 今度はフレデリックにツッコまれた。




「ウォルターがこんなに話すのなかなかないわよね!」


「ほんとよね。あの無口で無愛想で木の枝振り回してただけのあの男の子がね!あははは」


 アンとサマンサは笑いながら話している。ウォルターは恥ずかしそうに下を向く。前髪が長いせいで顔が隠れるが、覗けば顔は真っ赤になっている。だけど姉貴分二人には逆らえない。なんともいえない立場のウォルターである。



「とにかくあなたは勉強を頑張りなさい。強くなりたいなら、多方面の知識をつけることね。力でも頭でも勝てるようにならないと」


「わかってるよ!バカにすんな」


「今は筋肉バカだけどね!」


「その歳で筋肉なんてつかないのにね!」


 アハハとみんなで笑い合う。






 うん、平和。

 こんな穏やかな一日があっても良いだろう。去年色々起こりすぎたのよ。厄年だったのかしら。





 時間が来てしまったので、孤児院のみんなと別れ、馬車に乗り込む。

 お父様たちと今後の孤児院のあり方などについて話し合った。






「あ、すっかり忘れてたけどトランプのお陰で大儲けだったよ。オーダーメイドばっかりだったからがっぽがっぽお金が入ってきた。新しい【ダウト】の遊び方も安価で出してたけど、貴族の人は家に呼ばれて、直接指導することで指導代のお金も入った!」


 フレデリックが屈託のない笑顔で金儲けの話を口にする。8歳でその言い方はよしなさい。


「そ、そうなのね。それは良かったわ」


「なんかまたあったら絶対に他の商会じゃなくてうちに声をかけてくれお願いします絶対に!って親父が言ってたよ」


 気のせい?なんか最後のほうの圧が凄い。そんなにトランプって儲かったの?私の口座の中、まぁまぁな金額がたまっているのかしらフフフフ。

 あ。それならモコモコのルームソックス作りたい!!今年の冬はもう死にそうだったのよ!



「それなら、1個お願いしたいものがあるのよ。これがあれば冬に全女性の味方になるわ」


「了解。じゃあ親父に言っとく!……でもしばらくは無理かな……まだ終わってないトランプがあって、徹夜が多くてさ」


「……ええ大丈夫よ」




 うん。なんかごめんなさい。






いつも応援ありがとうございます。ブックマークや評価がとても励みになります!今まで公開された中で、面白かった話があれば是非評価をお願い致します。もちろん沢山の人に読んでもらいたいなとは思いますが、特にランキングに上がりたいわけではなく、単純に評価されるとめちゃくちゃ嬉しくて製作意欲が湧くからです。笑

わがままですみません……。

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