24.可愛い顔のおねだりには結局みんな弱い
衝撃の攻略対象者登場に心臓が飛び出しそうになるが、私は何事もなかったかのようににこやかに笑顔を作る。これぞ前世で鍛えた【必殺・お迎えママ達の機嫌を損ねない聞き手役の笑顔】よ!これを崩せるものなら崩してみなさい!選手権があったら私は何連覇でもしてみせるわ!
二人を連れて部屋へ案内をする。そしてみんなでテーブルを囲み、改めてアレクサンダーが口を開いた。
「今日は本当にありがとう。この間のあの短い時間がとても楽しくて忘れられなかった。また今日も僕に気を使わずに過ごしてくれたら嬉しい。そんなに長く滞在はできないが、よろしく頼む」
あなたに気を使わない人なんて国王と王妃くらいしかいないでしょうが!と心の中で盛大なツッコミを入れた。でも私はそんなことを顔には出しませんよ?微笑みは大事。
「前回のドロレス嬢の誕生日会で遊んだあのトランプ、王宮でも頼んでみたんだ。ルトバーン商会でしか扱ってないと聞いてね。あと数日で出来るらしい」
「そうなのですね。ルトバーン商会はとても素晴らしい商会ですわよ。新しい意見をどんどん取り入れてくれますわ。さすが大きな商会。あちらの次期商会長は私たちと同じ歳ですのよ」
さりげなくフレデリックを売り込みました。私頑張るわ。あなたが商会長になったときには王宮のご贔屓になってるんじゃないかしら。なんてね。
「そうか、知り合いなのか?だいぶ急かしてしまってるようなので感謝していると伝えてくれ」
おぉ、さすがメインヒーロー。気遣いも素晴らしいわ。平民にまで気遣える王子はそりゃ人気も出るわよね。
「お兄様、僕もその遊びをやってみたいです……。お兄様だけずるいです」
上目遣いでアレクサンダーを見るクリストファー。うん、国王がここに来る許可を出した気持ちがわからなくもない。
「クリストファー殿下。ぜひ私たちと遊びましょう」
「クリス様はトランプは初めてですよね?私が教えましょう」
ジェイコブ、さすがお城で手伝いをしているだけあって2人とも仲がいいのか。まずはカード自体の簡単な説明をしている。その横でテーブルを整えるお兄様と、扇子を開いて口許を隠すレベッカがいる。あれ?いつの間に扇子なんか出した?
今日はまず神経衰弱から始めた。これはアレクサンダーも初めてだったけど、そんなに難しくないのであっという間に覚え、1回戦目を見学で見ていたクリストファーも2回戦目から参加した。
ちなみにこのメンバーは、例え相手が王子だろうと容赦しない。
1位のニコルが「殿下に勝ちましたわぁ!」とキャアキャア喜んでいる。偉い人がいたら剣を向けられるレベルだけどね、見なかったことにしよう。あいにく負けてしまったクリストファーは機嫌を悪くすることもなく、もう一回戦ってビリを免れた。
「皆様、今日は新しい遊びをお教えいたしますわ。まだ誰も知らない新作ですわよ。その前に一旦休憩いたしましょう」
「わぁ!僕たちが最初なんですね!」
「今日はまた新しいお菓子を食べられるので楽しみですわ」
冷暗室から持ってきたばかりのプリンと、お皿に乗ったメレンゲクッキーを用意する。アレクサンダーは前回も食べているので知っているが、クリストファーは初めてだ。ふるふると揺れた食べ物に興味津々である。ちなみに前回アレクサンダーはプリンを3つも食べていた。スイーツ男子が増えていくわね。
「こちらは前回と同じプリンなのですが、改良いたしました。より濃厚になりましたわ。このカラメルソースをかけてくださいまし」
「……この茶色いのは食べられるのか?」
アレクサンダーが怪訝な目でカラメルソースを見る。そうよね、こんな茶色い液が何なのかわからないわよね。
「これは砂糖と水を煮詰めただけのものですわ。ほんのり気づかないくらいの苦味があって、プリンと一緒に食べるととても美味しいのですよ」
「ほんとですわ!より甘味が増して、口の中でじんわりと味わえます」
ニコルが口に入れてその可愛い顔をとろけさせる。
「……!これは美味い。クリス、食べてみろ」
不思議な揺れる物体に得体の知れない茶色いソースをかける。クリストファーは意を決してそれを口の中に入れた。
「おいしい!!」
パァッと明るい笑顔になるクリストファー。目がキラキラして周りにお花が飛んでいるようだ。
むむむ……、これはスチルになってほしかった。ゲームをやってるみんな!ゲームの中ではこんなに可愛い頃のクリストファーも見れるのよ!って全プレイヤーに叫びたい。横ではアレクサンダーが微笑みながらクリストファーの話を聞いている。
この二人はそもそもそんなに兄弟仲が悪い訳じゃないんだよね。きっと周りの大人があれやこれや吹き込んで、二人の間に見えない壁を作っている気がする。
アレクサンダーには正直関わりたくないけど、二人のこれからのためにはなんとか素直な二人でいてほしいな。
「こちらの小さいのも新しいんですよね?」
ジェイコブがメレンゲクッキーをつまんでいる。
「これは卵の白身と砂糖だけで作ったクッキーですわ。噛むときはサクッと、その後フワッとした軽い食感で、止まらなくなってしまいますのよ」
「おいしい。小さいからどんどん手が進んでしまう」
「僕も妹から教わってから毎日のように食べてしまってね。勉強してるときにふと食べると疲れが取れる気になるんだ」
お兄様もそんな食べ方をしていたのね。勉強中や仕事をしているときって、甘いものがほしくなるわよねー!
「兄上、もう1個プリン食べたいです」
「そんなに食べると夕食が食べられなくなるぞ」
……オカンか!アレクサンダーだってこないだ3つも食べたじゃん。
アレクサンダーに断られたクリストファーが少し下を向いたあと、バッと顔を動かし私の目を見る。あれ?……これは嫌な予感がするよ?
「あの、ドロレス……様、もう1個食べてもいいですか?」
うぁーーーーーそんなキラキラした綺麗な目で見つめないでおくれーーーーー!!何で私に向いた?!私にお願いすれば許されると思ったか?!そんなわけないでしょ?!そんなわけ……………
「じゃああと1個だけですよ?あと、私に『様』はいりませんわ」
許してしまった。あぁもうだめだこれは許しちゃうわよ。あんな顔されて断れるわけないじゃん。わーやったーと喜んでいるクリストファーの横でアレクサンダーが苦笑いでこっちを見る。ごめんよアレクサンダー、子供が大好きな私にあの笑顔は財布の紐も緩くなるのよ。
「じゃあお菓子をつまみながら、新しいトランプの遊びをやりましょうか」
今日みんなに教えるのは【ダウト】だ。
ジョーカーを抜いた52枚をみんなに配る。それぞれ、誰にも見られないように自分だけでカードを確認する。
「一人ずつ順番に1~13のカードを出していきます。マークはなんでも大丈夫。出すときに『1』『2』と言いながら出してください」
「自分の番のときにその数字がない場合は?」
アレクサンダーが質問する。
「手元にちょうどその数字がない場合は、当たり前に持っているかのようにその数字を言うのです。でも出すカードは違ってもいいのですよ」
「それで成り立つのか?」
お兄様が質問をする。そのままじゃただカードを出す遊びになっちゃうもんね。
「ここからがこの遊びの特徴です。例えば私が『3』の順番で回ってきたとしましょう。私が『3』と言いカードを出します。それを誰も疑問に思わなかったら次の人が『4』を出すのですが、もし私が『3』を出してないかも、と思ったらその時に【ダウト】と言うのです。そこで本当に私が『3』を出していたなら【ダウト】と叫んだ人が。『3』以外を私が出していたなら私が、その場にたまってるカードを全部自分の手元に増やさなければなりません。最後までカードが残った人が負けです」
説明は長くなってしまったが、ルール自体が難しいものではない。他のメンバーも理解したようだ。
「騙しあいだな。ならば僕が負けることはないぞ」
アレクサンダーがよくわからない自信でドヤ顔をする。王族なら確かにそういうのが必要となってくるが、これはゲームなので騙しあいのレベルが違いすぎる。
「あら殿下。ポーカーフェイスなら私も負けませんわよ?」
ニコルがまさかのアレクサンダーに宣戦布告してきた。なぜそこで対抗意識を燃やしてるんだ。
「僕だって負けませんからね!日頃どれだけお兄様のせいで溜め込んだストレスを顔に出さないようにしているか見せてやりましょう!」
理由が切ない。だがしかしそれを笑顔で言い出すジェイコブは少し大人に見えた。
「歳上の僕が負けるわけない」
お兄様、大人げない。あっまだ子供だった。
レベッカは相変わらず済ました顔で扇子を開いて口に当てながらカードを集めている。体調が悪いわけではなさそうだけど、いつにも増して無表情だわ。
「じゃあ一回目はお試しで。わからなくなったら聞いてください」
【ダウト】祭りが始まった。




