22.急な予定と新たな開発
12月の終わりにアレクサンダーの8歳の誕生祭兼お披露目パーティーが行われる。私たち子供は10歳になる年に社交界デビューを果たすが、それはダンスや、国王の前での名乗る挨拶が出来るようになるという意味だ。
ダンスや、国王への挨拶をしないのであれば、10歳になる前にパーティーに参加しても問題はない。親の後ろで、親が国王に挨拶をするのを見ていればいいのである。王子達も同じく、ダンスを初めて踊るのは10歳の年に行われる社交界パーティーからだ。お披露目パーティーで顔を見せ、2年後の社交界でデビューする。
ただし社交界デビュー前の子供を連れた親同士の会話の中で子供を紹介するときは「娘です」「息子です」と言い、名前を言わなくてもいいことになっている。
ややこしい。
この時代はゲームの中では設定されていなかったんだろうけど、いざこの世界に入ると面倒なルールが多くて困っちゃうわ。
そんな私はいつものメンバーでのお茶会を数回開いており、前よりももっと仲良くなって楽しいひとときを過ごしていた。
お披露目パーティーまであと1ヶ月を切った12月頭のある日、手紙が届いた。
えぇ、それはもう……ものっっっすごく豪華な封筒に入っている手紙。金色で縁取られ、見るからに王国の紋章で留められている。
手紙はメイドではなくお父様が持ってきた。
「ドロレス、君は……王宮から手紙が届くほどの素晴らしい何かをしたのかい?」
お父様が若干顔をひきつらせている。お父様、私も顔がひきつるんですが。私はなにもやってませんわよ!
「私宛ならわかるのだが……なぜよりによってドロレス宛なのか。王宮の誰からなのか、開けてもらえるか?」
この封書には名前が書いていない。だけど、確実に王族の誰かからなのはわかる。
アレクサンダーには【王子としてではなく】私の誕生日会に参加したから、王家の紋章入りの手紙なんて寄越さないと思うんだけどな。
おそるおそる封を開け、中に入っていた便箋を取り出し開く。そしてまず最初に一番下を確認し、その名前を確認する。
「んなっ!!」
思わず大きな声が出てしまった。
なぜだ、なぜ私にこの人から手紙が来るのだぁーーーーー!
「ちょっと見せ……えふっ!!」
お父様が変な声を出した。そして手紙を落とす。
そりゃそうよ。だって一番下に、
【バルトロ・ランド・フェルタール】
って書いてあるんだから!!!
国王!!なぜ!私に!手紙を!書いたの!
私まだ社交界デビューもしてないのよ!
「とっ……とりあえずドロレス、先に読め。その後私も読むぞ」
「はっ……はい、お父様」
───────
《ドロレス・ジュベルラート公爵令嬢殿
先日、うちの可愛い王宮の忠犬がそちらに迷いこんだと聞いている。突然現れたので驚いたと思うが、帰ってきた忠犬はそれはそれは楽しそうにしていた。
あんなに楽しそうな顔を見たのは初めてだったので、主としてはとても心が穏やかになった。そなたに感謝する。
うちの忠犬はずっと城で教育を受けているだけだからな。
また遊びたいと吠えるので、いつでも手紙で教えてくれれば迷いこませられる。
その遊び道具は王宮でもオーダーメイドをかけたので、届いたらきっと王宮内での忠犬も元気になるだろう。
そろそろ忠犬の自由が利かなくなってしまうからな、私宛に手紙をくれ。
ジュベルラート公爵家の繁栄を願う。
バルトロ・ランド・フェルタール》
───────
国王ーーー!すべて知ってるのね!アレクサンダーのことを忠犬って……。他に表現なかったの?
しかも、【いつでも手紙で教えてくれれば】って書いてあるのにその後にだめ押しで【手紙をくれ】になってる。要は強制だ。逃げられぬ。もうこれ完全に【君から王子をお茶会に誘ってくれ。俺がすべて手配するぜ★】の文にしか見えない。
私から手紙を受け取って読んだお父様も顔を青くして天を仰ぐ。
これはもう、お披露目パーティーの前にお茶会を絶対に開けってことよね。
しょうがない……。国王からこんな半強制命令を受け取っておいて、茶会を開かないわけにはいかない。
「お父様、お茶会を開きますわ。というか開かないとダメよね。国王陛下にも手紙を書きます。あっ、早速いつものメンバーにもお手紙を出しますわ。ちょっとバタバタすると思いますが、お願いいたします」
「そうだな……。もはや開くしかないよな。こちらでも色々と準備をしよう。日程はすぐにこちらで調整をするから、わかり次第手紙を送ってくれ」
「わかりましたわ」
大急ぎで部屋を出たお父様は、近くにいた執事や部下達に次々と指示を出し、スケジュールを確認している。
私は手紙の準備をし、いつものメンバーに送る手紙のある程度の内容を書き終え、一息つく。このメンバーなら、アレクサンダーが来ても「王子さま素敵!キラキラ」にはならないだろう。フレデリックが呼べないのは残念だ。お披露目パーティー後だったらよかったのに。もう!国王のバカ!
おっと不敬罪になっちゃう。
うーん。何か新しいお菓子を開発できないだろうか。私あと何が作れたっけ?えーとえーと思い出せ。そんなに難しくなくて材料も少なくて…。私が70%わかっていれば、ロレンツ料理長が120%で仕上げてくれるはず。頼りになる料理長だ。
あ。とりあえず2つ思いだした。そのうちの1つは簡単だし材料も少なくて済む。今回は急すぎるので、この簡単な方をロレンツ料理長と作ろう。
早速料理長と日程を確認する。
そして翌日、私達は厨房にいた。
「今日は、【メレンゲクッキー】を作りたいと思います」
「クッキーですか?」
クッキーなら既に存在している。なのにクッキーを作ると言い出した私に疑問を投げかける。
「ええ。でも違うのよ。クッキーは小麦粉を使うけど、私が作るのは小麦粉や余計な材料を使わない、卵白と砂糖だけで出来るの」
「それだけで?!それ、クッキーになるのですか?」
その反応も当然である。だって、クッキーと言えば小麦粉なんて当たり前の世界。洋服は布を使う、そんな当たり前のことを破るのだから。
「クッキーとはいっても、食感などはクッキーと全く違うの……ゴホン、違うらしいのよ。本で読んだわ」
早速取りかかる。
「卵白のみを取り出して、ひたすら泡立てて。透明なのが白くなるまでよ」
「そ、そんなに白くなるんですか?」
ロレンツ料理長が泡立て器で卵白を混ぜる。8歳の体の私では、到底体力が持たない。申し訳ないがロレンツ料理長に頑張ってもらおう。
「ふわふわになってきました」
「ちょっと砂糖を入れるわね」
少しずつ砂糖を足していくと、どんどんふわふわになっていくメレンゲ生地。
「これで大丈夫ですわ。絞り袋は……ないのよね。スプーンでこのくらいの大きさになるようにすくって、低温で…1時間くらいね。ほんのちょっと焼き色がついたら完成よ」
「かしこまりました」
「料理長、こちらのプリンもできました」
別の作業をしていた料理担当の人から声がかかる。その人には、メレンゲクッキーで使わない卵黄をプリンに使ってもらうために別で作ってもらっていたのだ。これで前よりももっと濃厚なプリンが食べられる。ふふっ、楽しみ。
そうそう、あとカラメルソースを作ろうと思っていたのよ。
「このまま放置ですか?焦げないですか?」
砂糖と水を鍋に入れ、火をつける。
このまま色が変わるのを待ち、最後にお湯をさっと入れて軽く火を入れればできるはずだ。
「これまだ火をつけたままですか?」
「ええそうよ」
「そろそろ焦げないですか?」
「まだまだよ」
「もうダメじゃないですか?」
「もうちょっとだけ!」
だんだん色づいていく砂糖水にロレンツ料理長がハラハラしている。焦がしたらダメだろうと内心思っているようだが、焦がさないとダメなのだ。まだはちみつよりも色が薄い。
「はい!今!お湯入れて!跳ねるから気を付けて!」
「はいっ!」
いい具合に茶色くなったカラメルソースにお湯を入れる。一瞬で泡がブクブクと弾け、色の変化はそこで終わる。少し混ぜたあと、火を止める。
これで冷やせばとろみが出るはず。
「ではまた少し時間をおいて試食会しましょう」
「ええ。では2時間後くらいにしましょうか」
2時間後、再び厨房で集合する。
……2人多い。
「私はこの家の当主だからな、何をしているのか、何を作っているのか知る義務がある」
「僕も次期当主なので知る義務があります」
お兄様のこじつけレベルがすごい。無理矢理というか全く話が繋がっていない。今の言葉のどこに堂々と胸を張る意味があるのだろう。お兄様かわいい。
8歳→誕生日会主催スタート。王子はお披露目&誕生祭スタート
10歳→社交界デビュー。名乗りが可能、パーティーでのダンス可能




