10.間違いの末、転生なんて困るんですけど
孤児院への訪問はとても充実していた。遊びも寄付もとても喜んでくれて、また来る約束をし別れの挨拶をした。
あれ?私子供たちの前でならチート生活できるんじゃない?生き抜くためには全然関係なさそうだけどね。
あ、そうだった。教会にもう一回行くんだった。
「お父様、教会の中をもう一度だけ見てきますわ!すぐ戻りますので!」
重い扉は子供の力ではなかなか開けられない。中にいた大司教様が気づいたのか、内側から開けてくれる。
「お待ちしておりました。どうぞ前までお越しください」
なんだろう。なぜ私に神託があったのだろう。そりゃ転生してきてるくらいだからお告げみたいなものがあってもビックリはしないけどね。
目を瞑り、お祈りを捧げる。
『ねぇ、そのまま目を開けないで』
この声は以前聞いた声だ。トラックでの事故に遭い、この世界に転生する間のあの光の空間で聞いた。
「もしかして、あなたはあの時私に話しかけてきた人なの?」
脳内で会話をするように、心の中で言葉を紡ぐ。
『そうだよー、覚えててくれたんだね!でも時間がないからよーく聞いてね!また会えるかわからないから!』
「……わかったわ」
何を言われるのだろう。息を飲む。
『僕は、この世界に【治癒の力を持つ女神】を召喚する手伝いをしているんだ。この世界で召喚をするときに、別の世界で死ぬ直前の人を引き寄せて、この世界に連れてくるって流れ。なかなか上手く成功しなくてさー。でもついに!成功!したと思ってたの。……でもまたダメだった』
つまりはそれが私ってことですかい。
『今まで上手くいかなくて、全く手応えがなかったんだー。今回初めて手応えを感じたんだよ!!でも召喚の条件は【死ぬ直前】なの。ギリギリ死んでない状態。君の場合は僕が間違えて【死んだ直後】で召喚しちゃったんだよねー。だから、体ごと移動できなくてさ。でも引っ張ってきちゃったもんだから、元にも戻せない。どうしようも出来なくなったから、とりあえず転生になるようにした。えへ』
おい待て。これもしかして私、無駄な転生をしたってことじゃないの???ねぇ本気?本当はあのまま即死で成仏されてたはずなのに、この声の持ち主が引っ張ってきちゃったせいで転生した。しかも悪役令嬢に!!もっといたじゃんモブとかさぁ!!平和に暮らせる人に転生したかったよ!!
しかも話を聞いた感じだと、私本当はヒロインだったよねこれ!?この声がちゃんと成功していればヒロインポジションだったのにーー!!悲しい……。もう諦めよう。
「……そしたら7年後にまたあなたが手伝うの?」
『ううん、違うよ。時間軸は変えられるから、あっちの世界で上手くいったらちょうど7年後のタイミングにこっちに連れてくるから!だから君が死んだ時とそう年月は差がない人を連れてくると思うー』
出た、ご都合主義。設定される世界はとても都合良くできているものよね。
『そろそろ時間だ。今回さー、間違えて転生しちゃってごめんね!お詫びに【治癒の力】以外にも、もうひとつだけ【力】を与えたよ!探したいものが見つかる!もう会えないかもしれないけど、もし会えたらそのときに教えてあげる~!』
雑音が鳴り始める。えっ、一方的に話されて私ほとんど会話できてないよ?
っていうか今サラっと爆弾発言したよね?!【治癒の力】って、それ私が持っちゃダメなやつ!!!!ねぇどうするのよ!!!物語がおかしな事になっちゃうでしょ!しかも何もう1つって!!?探し物?【探知機】ってこと?!
「ちょっと待ってよ!?私まだ聞きたいこといっぱいあるよ?!あ!」
まずい、会話が聞こえなくなる。
「あなたの名前は?!あなたが神様?!?!」
『そうだ…よ……神さ…だよ…………なま……えは…聖書に……あ…から…見てね……………』
「まって!おねがい!!」
──────ザザザザザザ
はっ。
目を開く。ここは教会の大聖堂だ。会話はもう終わってしまったようだ。
「どうしましたか?」
大司教様に声をかけられる。どうやら周りには一瞬の出来事だったようで、私が祈りを捧げた瞬間に何かを思い出したような動きに見えたらしい。
【治癒の力】か。あの神様、とんでもない爆弾落としてきたな……。魔法がなくなったこの世界で、ただの公爵家の娘が急に治癒の力を使えるようになったらとんでもないことが起きるんじゃないの?
どっちにしろシナリオでは次の召喚で来たヒロインが【治癒の力】を使うわけだから、私はこっそり隠しておこ。
あ、でもさっきウォルターの時に金のオーラみたいなのが出たのって、あれがもしかして【治癒の力】?うわー、早速お披露目してしまったのか私……。
あ、そうだ!
「あの、聖書ってありますか?」
大司教様に聞くと、手に持っていた聖書を貸してくれた。
神様の名前、どこ?何処に載ってるの?
ページを数枚めくると、そこには神様の想像画と、この世界で名付けられたとされる名前が記されていた。
───────ララットルス。
このゲームアプリの会社名だった。




