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間違って転生したら悪役令嬢?困るんですけど!  作者: 山春ゆう
第一章 〜出会ってしまえば事件は起こる〜
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89.あるあるな場面

 以前この人たちを見たことがある。

 ヴィオランテの後ろにいた取り巻き令嬢軍団だ。4人いる。ああ、これは漫画とかラノベでもあるあるの光景ではないだろうか。ヴィオランテはアレクサンダーの方にいて気づいていない。



「あなた、王妃様とのお茶会でも随分と小賢しい手を使ったと聞きましたけど。もうアレクサンダー殿下の婚約者に内定ですって?またどんな手を使ったのかしら?殿下も可哀想ですわ。権力を使って無理矢理あなたと婚約をさせられて」


 ……それはむしろアレクサンダーに言ってくれ。権力を使って無理矢理婚約をさせられたのは私だし、そもそも小賢しい手も使ってない。何をどう勘違いしたら私がそんな悪いやり方をするのだろうか……あれ?もしかして悪役令嬢フラグ??まさか??ここから?????



「……私は何もしていませんわ。第一、学園に入る前の私にそのような権限などございません。親だけで決められることはあなた方もおわかりでしょう?」


「っ!だとしてもあなたが殿下に媚びているのは知ってるんですから!そんな令嬢が王妃など務まるわけがないわ。王妃に相応しいのはカルメル公爵家のヴィオランテ様だけよ」


「そうよ!あなたなんかになれるわけがないのよ。ヴィオランテ様は王妃になるために努力されてるんですから」


 むしろ私がアレクサンダーに何を媚びているのか教えてほしい。そんなこと1つもやっていない。そして王妃になるために努力をしているヴィオランテへ婚約者の地位を譲りたい……。



「あなた達。そんなことを言って、ヴィオランテ様が王妃になって自分たちの家を優遇してもらいたいだけでしょう?彼女があなた達と今後一切付き合わないと言ってもヴィオランテ様を推すのですか?もし今ドロレス様があなた達の家ごと支援すると言ったらどうするのですか?」


「え……」

「それは、その」

「我が家を支援してくださる……?」


 レベッカの言葉にあからさまな動揺を見せるヴィオランテ取り巻きたち。そんなにあっさりと裏切るの?!信じられない!心からヴィオランテを応援してるんじゃないの??




「何をしてるの?」


「ヴ……ヴィオランテ様!」


「あの!ジュベルラート公爵令嬢のドロレス様に卑怯な手を使うのをやめてほしいとお伝えしていましたわ!」


「ええ、そうですわ!」


 ヴィオランテの登場で、先程の動揺などなかったかのように彼女の味方をする取り巻きたち。こんな子供でも権力に弱いって、この世界の闇を感じる。



「みっともない真似はやめなさい」


「ですが……」


「婚姻を結んでいないのよ?まだチャンスはあるわ。あちらへ行きましょう。ドロレス様、失礼しますわ」


「そ、そうですわね!」


「さすがヴィオランテ様!」


 感情の起伏は激しいが唯一まともであるヴィオランテ。その彼女に再び媚びる彼女たち。私をほとんど見なかったヴィオランテはその取り巻きたちを連れて離れていく。

 その中で一人、先程から一言も言葉を発さなかった令嬢がいた。一番後ろを歩いていたその令嬢はピタリと止まるとこちらに振り向く。


「絶対に許さないわよ」



 そしてまた前を向き、ヴィオランテの後をついて行った。






「ハァ……。こんなのがずっと続くと思うと頭が痛いわ」


 私は気づかぬうちに緊張しっぱなしだった体を緩めると、ホッと一息ついて飲み物を口にする。


「チクチクと嫌味を言ってきた3人は子爵家と男爵家で、貧乏貴族ですわ。ヴィオランテ様が王妃になって、自分の家の資金援助を求めてますの」


「ああなるほど、だからあんなにすぐ寝返りそうになったのね」


「最後に声をかけてきたのはディグス侯爵家のアイビー様です。1つ年下ですが彼女が一番厄介です。ヴィオランテ様に王妃になってもらい、自分を側妃になるよう働きかける可能性が高いです」


「レベッカ様、どこからそんな情報集めてくるんですか……」


「クリストファー殿下との相互情報交換ですわ」


 レベッカは諜報員にでもなりたいのだろうか。



「ディグス侯爵家は暴君です。権力を持って大きくなって欲しくないのです。ドロレス様には申し訳ないですが婚約者の座は譲らないでいただけると助かるのですが……」


「それは何とも答えにくい質問ですわね……」


「ですわよね……」


 苦笑いになってしまった。確かにそんな侯爵家に権力を持たせるのは嫌だけど、だからといって私が犠牲になるのも違う気がする。




「いつまで戻ってこないつもりだ?」


 ふと声がする方を見ればアレクサンダーがいた。あ、もう最後の曲?ひと悶着あったから結構な時間が経っていることに気が付かなかったわ。



「もう一曲踊ろう」


「……わかりました」




 最後の曲も踊り、無事に?無事ではない?どちらにしろ社交界パーティーを終えた。


 帰りの馬車も二人きりでの帰宅となったが、疲れ果てて会話をする力もなかった。アレクサンダーはそれをわかっているのかいないのか、途中からは話しかけるのをやめ、静かな時間がしばらく経過したあとに公爵家に着いた。



「次は僕の誕生祭での婚約式で会おう。また迎えに来る」


「ええ、ではまた」


 先に降りたアレクサンダーの手を借りて降り、彼は再び馬車に乗ってそのまま帰宅した。






「つかれたーーー!!」


 家に入り、ドレスを脱いで部屋着になった途端にベッドにボスンと正面から倒れ込む。


「お嬢様、お行儀が悪いです」


「リリーしかいないんだから今は許して」



 学園に行ったら私はどうなるんだろう。学園中に結婚はしないけど、ヒロインが来たら180度話が変わるはず。

 私はどうやって死ぬのを免れるか、ヒロインが来なければ全く想像がつかない。もうーーー!悪役令嬢は本当にイヤ!!!!











 そして11月。

 アレクサンダーの誕生祭に渡す品の確認のためにルトバーン商会がやってきた。当然フレデリックも一緒である。

 そして大人たちが話す間、私達は二人になった。







 気 ま ず い。





 あんなことがあって、自身の気持ちにも気づいた今。この状況緊張しっぱなしだ。今までなら出来たのに、全然彼の顔を見ることができない。

 少しだけの沈黙のあと、フレデリックが先に話し始めた。



「ドリーが作ったバギー、そろそろ試験期間が終わるよ」


「ほんと?じゃあ近いうちに行くわ。楽しみなのよ」


 毎日動かすという試験に加え、先月には対象年齢の子供がいる人に試乗として貸し出していたバギー。今月も問題がなければ来年の1月に発売開始になる。色々とバタバタしていてなかなか見に行けなかったけど、順調そうで良かった。



「じゃあさ、来月の頭に見に来ない?使用者の家族が集まる予定だから直接意見が聞けるよ」


 なんと!それはとてもいい機会じゃないか!!紙で見るより実際に聞いたほうが絶対にいい。


「絶対行くわ!教えてくれてありがとう」


 お礼を伝えると、フレデリックははにかんだ笑顔を向けてくる。


「お願いがあるんだけど。その日、また二人で街に行きたい。もう……出来なくなるかもしれないから」


 そう言葉に出したあとに笑顔のまま目を伏せるフレデリック。そうか、彼と二人で出かけることなど、もう出来なくなってしまうのか。悲しい。でもそれなら、なおさら私も行きたいと思った。



「行きましょう、ロレンツの店で甘いものを食べましょう!またあの懐中時計を買った店も見に行きたいわ」

「うん!嬉しいよ。……ありがとう」


 しばらく会話をしていれば、いつも通りの私達になった。相変わらずの商売話なのにとても楽しく、とても笑った。こんな日が続けばいいのに、と叶わぬ願いを心に想いながら。



 大人たちに呼ばれ、同席する。


「ウォルターが入学した場合の資金はうちで持つって話だっただろ?」


「ええそうですわ」


「ルトバーン商会長も出したいそうだ」


 あら、そんな話が持ち上がっていたの?ルトバーン商会長がニッコリと私を見た。


「ウォルターの働きがとても良いのです。ミサンガ教室も好調だし、商品の説明や案内も上手い。そして商会内の女子たちのやる気がとんでもなく上がった。やはり私の目は間違ってなかった。教師に『彼には、人と話すときにはたまに目を合わせ微笑みながら話すように教えろ』と言った甲斐があったなぁ」



 ウォルターが顔を武器にする技を身につけていた。……ルトバーン商会長の手によって。

 一体どれだけの女子がウォルターによって財布の紐を緩くされたのだろうか。恐ろしくて想像したくない。そもそも教師って学園に行くための教師なのに、なぜそんなことを教えた?!



「というわけなので、彼は間違いなくうちの店で役に立ちましたから、学園の入学が決まれば初期費用程度こちらで用意してあげたいのですよ」


 初期費用とは言っても、制服やら教材やら結構かかる。申し訳ない気持ちではあるけど、商会長とお父様でもう話が決着していそうだったので、特に私が何か言うこともなかった。



「ありがとうございます。ウォルターが商会で役に立てているのは私も嬉しいです」


 あんな……あんなに最初ひねくれていたのに、木刀振り回してただけなのに。ついに接客販売ができるなんて!ウォルターの成長した姿に少し泣きそうになった。



「それでですね、本人にはまだ話をしてないのですが、彼を養子にしたいと思っているのですよ」


「えっ?!」


 ウォルターが養子として迎え入れられるってこと?!想像をしていなかった展開だったが、私以外は無反応だった。


「フ、フレッドも知ってたの?」


「うん聞いてた。俺は歓迎だよ。歳は同じだけど弟ができたみたいでちょっとワクワクしてる」


 フレデリック、生まれたのはあなたのほうが後よ?でもウォルターの弟感はわかる。たまにツンデレ出るところとか可愛く見えるわよね。



「あれだけ働けるのに、今の状態だと身分の保証がないですからね。うちの名前を名乗っても問題ない人格だと思いますから、あとは学園に合格したときにでも話そうかと思います」


「……学園に合格しなかったら?」


 つい聞いてしまった。その言い方だと、学園に入れなかったら白紙なのかと不安になったからだ。


「その場合は少し置いてから話そうかと。さすがに落ちてすぐに養子の話をされるのは彼も困るでしょう?」


「確かに、そうですね。すみません」


「いえ。私のさっきの言い方だとそう捉えられてもおかしくはないですから。ま、あの努力家なウォルターなら試験は受かるでしょう」


 一番近くで見ている商会長が言ってるなら、きっと大丈夫よね。ニコニコと不安など一切ない顔だ。

 さすがだわ。人柄もいいけどちゃんと気持ちの面も考えてくれていた。




 その後はしばし雑談をし、フレデリックと日程の調整をしてルトバーン商会は帰っていった。






「ドロレス」


「はい、お父様」


 ルトバーン商会を見送ると、真面目な声でお父様が話しかけてきた。



「君は本当に変わった。あの雷の日から見違えるようにとても素敵で聡明なレディーになった。誇らしいよ。これから私は何があってもドロレスのことを応援する。だから家のことは気にせず自分の進みたい道を選びなさい。これはジュベルラート公爵家当主としての話ではない。君の父親としての意見だ。覚えておきなさい」


「はい……ありがとうございます」


 お父様は私の頭を優しく撫でる。もう13歳なのに、小さな子供のように大切に扱うように触れた。


 

 ありがとうお父様。お兄様から、お父様が国王と婚約の件についてずっと戦ってくれていたと聞いた。後から知ったときはとてもビックリしたわ。普通の公爵家なら、王族に嫁ぐことを喜ぶはずなのに……。



 私の親でありながら【私】の実の親でないお父様とお母様。だけどとても愛されていることをいつもいつも実感させられていた。

 ……いつかこの二人に、感謝を伝える機会があればいいな。

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